ランクアップ
体調は問題ないレベルまで回復していた。
恐らく時間が経過して、術の効果が弱まったんだろう。
勿論、お姉さんの献身的な介護のお陰もあるけど。
お姉さんから簡易的なチェックを受け、退院できることになった。
「お世話になりました、お姉さん」
「いえいえ、ユーリさんが無事ならそれで良いのです。……それに、お姉さんだなんて他人行儀ですよ」
「アルキオネ。私の名です。私のことは名前で呼んでくださいね?」
お姉さん……もとい、アルキオネは笑顔を見せる。
ちょっと名残惜しくなるじゃないか。
とはいえ、ここに長居する訳にもいかない。
俺は再度礼を言い、医務室の扉を開ける。
すると……目の前にナビコがいた。
「くぉらぁ、ユーリ! どんだけ待たせるのさーー!!」
あだぁ!
あいつ蹴りやがった! 顔にモロ直撃した!
「ってえ、何しやがるこのクソ妖精!!」
「なにをー!? ボクが一体どれだけ心配したと思って……何よ、平気そうじゃない」
「そりゃ、お姉さ……アルキオネさんのお陰で全快したからな」
くいと親指でアルキオネを指差す。
すると、ナビコがわなわなと震えだした。
「あーーーっ!! あの女!!」
「あいつひどいのよ! ユーリを治癒しようとしたら止めるし、物申したボクをつまみ出して、それからずーーっと扉を開けないんだから!!」
何をしてるんだコイツは。
「あらあら、何かと思ったら病室で騒ぎ立てた小人じゃないですか。患者さんは絶対安静の方ばかりです。病室で騒ぐ不埒物など、つまみ出されて当然です」
「ボクが治癒したら、すぐに治るって言ったじゃない!」
「毒に侵されているのに、急な回復など以ての外です。ユーリさんには休息こそが必要でしたもの」
バチバチバチ。
アルキオネとナビコの間に火花が散る。
え!? 何か険悪なんですけど!?
「アンタ大丈夫なのっ!? この女に変なことされなかったでしょうね!?」
「え、変な事って……」
手を握られて、揺れる胸を拝んだくらいだ。
「何もなかったぞ。うん!」
「怪しいわね……」
「ソ、ソンナコトハ、ナイデスヨ?」
いかん。これ以上ナビコを放っておいても、暴走して話が拗れるだけだ。
アルキオネと限りなく相性が悪いっぽいし、ここはさっさと退散するに限る。
「よしナビコ、受付に行くぞ!」
「ちょっとー! ボクはまだ言いたいことが……」
「そういうのいいから。行くぞ!」
体をガシッと掴み、有無を言わせずナビコを連行する。
「それじゃアルキオネさん、お世話になりましたー!」
「あー! ちょっとーー!」
そうやって医務室を後にする俺。
アルキオネは、笑顔で手を振っていた。
はぁ。何か知らんが、肝が冷えたな。
ナビコは騒いでいたが、しばらくしたら大人しくなった。
「なぁナビコ。俺って結局勝てたの?」
「ふーんだ、教えてあげない」
そっぽを向くナビコ。
まだヘソ曲げてるのかよ。
「あ、そう。じゃあ受付のお姉さんに聞く」
「ちょっとー! ボクを無視するんじゃなーい!」
何だよ、めんどくさいやっちゃな。
でもそうだな、コイツに聞くとしたら……。
「ナビコは、俺が勝つと思ってたか?」
「……当たり前じゃない!」
ニカッと満面の笑みを返すナビコ。
「そいつはどうも、ありがとさん」
応援してくれる人が身近にいるの、悪くはないな。
程なくして受付に着き、お姉さんに向けて片手を上げる。
お姉さんはガタッと立ち上がった。
「ユーリさん! もう大丈夫なんですかニャ!?」
「あ、はい。そんなに驚いて、どうしたんですか?」
「医務室に運ばれたと聞いたから、てっきり大怪我を負ったのかと思いましたニャー」
「術の影響が残ってまして。時間が経ったらだいぶ良くなりましたよ」
「それは何よりですニャ。結構心配してましたニャ」
お姉さんは胸を撫で下ろして着席する。
ん? 決闘で医務室に運ばれる事くらい、日常茶飯事じゃないのか?
「ユーリさんの闘った相手。ロビンですが……少々問題を起こしていて、私達も手を焼いていたんですニャ」
「あの不意打ちですか。あれ、ルール的にどうなんです?」
「ゴングが鳴った後の行為だから、ルール違反ではないんですニャー」
「それよりも対戦した闘技者が塞ぎ込んで、闘技場に来なくなった事の方が問題ですニャ!」
不意打ちされる方が悪いって、運営にはそう判断されるのね。
でもあいつ、今頃は骨折で入院中じゃないか? ……多分。
卑怯な手なんて使うからだ。ざまぁみろ。
「ま、派手にぶちかましましたし。嫌な奴は暫く来ないって、言ってあげればいいんじゃないですか?」
「おおー、それもそうですニャ。ユーリさん冴えてますニャ! ……とと、それよりもユーリさんにお知らせがありますニャ」
「昇格、おめでとうございますニャー!!」
ぱちぱちぱちと拍手をして、笑顔になるお姉さん。
という事は、やっぱり勝ってたか。
「ありがとうございます。ちょっと安心しました」
「これでユーリさんは戦士ランクですニャ。特別な賞金と、特典の授与がございますニャー」
お、ようやく特典がお披露目か。
何だろう。金一封かな。
「特典は、コチラですニャ!」
お姉さんから渡されたのは、円筒状に巻かれた紙のようなものだった。
紙の中央に赤い糸が巻かれ、そこに封蝋がされている。
え……。何これ……?




