医務室の天使アルキオネ
会場には未だ大歓声が響いていた。
ユーリが制した決闘。
グラウンドへと続く廊下で、闘いを見届けた1人の男がいた。
「何だ? あの闘い方は。出鱈目で、滅茶滅茶だ」
「アイツ、一瞬妙な動きをしたな。あれは一体、何だ?」
「ハハハッ面白ぇ。もしかするとアイツ………かもな」
廊下に笑い声が反響する。
暫くして男は、廊下の闇の中へと消えていった。
* * *
目が覚めると 俺は見知らぬベッドの上にいた。
あれ、何処だここ?
見知らぬ天井。白いカーテン。
学校の保健室みたいだな。
ということは……ここ、医務室か?
何でここにいるんだろう。
どうにも記憶が朧げだ。
頭を働かせて今までの記憶を辿る。
そうだ俺、さっきまで闘技場のグラウンドにいて――
「う゛っ……」
おええええ、気持ち悪い。
上半身を起こそうとしたら、嘔吐感がこみ上がり、頭痛がしてきた。
これ、アイツの術のせいか?
まだ影響残ってるのかよ。
「あっ、だめですよ。まだ安静にしていないと」
ぱたぱたと足音をたてて誰かが近づいてくる。
誰だろう。知らない女性の声だ。
「起き上がろうとしないで。ほら、ちゃんと寝てくださいっ」
ぐいと押されてベッドの中に沈み込む。
気分が悪くて、近づいてきた人の顔が良く見えなかった。
「不安にならなくていいですよ。ここには怖い人も、倒すべき相手も、いませんから」
「寂しかったら……ほら、私が傍に居てあげます」
そっと手を包み込むように握られる。
あたたかく、優しい手だ。
「ですから、安心して眠ってください。ゆっくり、ゆっくりと……」
女性の声に耳を傾けると、体から力が抜けていく。
何だか…とても……安心する………
…………
………………
はっ。
どれくらい眠っていただろう。
感覚的にだが、そこそこの時間寝てた気がする。
そのお陰か、頭痛や吐き気はなくなっていた。
そういえば寝る前、誰かに声をかけられたような……。
目線を辺りにさ迷わせる。
白衣のお姉さんがにこりと、こちらを見返してきた。
「おわぁ!」
びっくりして起き上がろうとしたが、手に違和感。
俺の手が、お姉さんの両手に握られていた。
え、まさか……握っていたの? 寝てる間ずっと?
「おわぁーーっ!」
驚きのあまり両手を上げた俺を、お姉さんが制する。
「もう、駄目ですよ。まだ起き上がっちゃ」
俺をベッドに寝かしつけるため、お姉さんが屈んだ姿勢になる。
豊満なバストがたぷん、と揺れた。
「お、おわぁーーーっ!!」
俺がまだ不安がっていると勘違いしたのか、お姉さんは時間をかけて落ち着かせてくれた。
いや、そうじゃないんだけど!
そうじゃないんだけど!
ありがとうございます!
そしてまた、手を握られている。
お姉さんの体温を感じて心拍数が少し上がる。
こ、このお姉さんスキンシップ多くね?
「少し、落ち着きましたか?」
にこりとお姉さんが微笑む。
柔らかい笑顔に人柄が現れているようだ。
改めてお姉さんを見ると、めちゃくちゃ美人だった。
金髪琥珀眼で、白衣をぴっちりと着ていて、オレンジのラインが入ったナースキャップを被っている。
まさに医務室の天使。
「あ、はい。取り乱してすいません」
「大丈夫ですよ。ここに貴方を傷つける人はいませんから」
「……え、えっと。俺、何でここにいるんでしょう?」
「ユーリさんは決闘場から運ばれて来たんです。外傷もありましたが、悪しき術の影響を多分に受けていました」
「生憎と今日は施療神官が非番の為、解呪が出来ず……。術の影響を少し中和するのみとなり、申し訳ありません」
やたらスキンシップが多かったの、術の中和のためだったのか。
これは感謝しなくてはなるまい。
俺は深々と礼をする。
「いえ、お姉さんのお陰でだいぶ良くなりました。ありがとうございます」
「そう言って頂けると、看護師冥利に尽きます」
ふと、決闘の事を思い出した。
審判の宣言を聞いたような気がしたけど、その後倒れちゃったし……。
「あ……そういえば。勝敗ってどうなったんでしたっけ?」
「申し訳ありません。決闘の勝敗について私達は存じ上げません。勝敗がどうあれ、闘技者の命を救うのが私達の使命ですから」
お姉さんの言葉には含蓄があった。
舞台裏を支える人って、こういう人を言うんだろうな。




