初めての戦い
あれから何度も水面を覗き込んだが、何をどう見ても自分の顔しか映らなかった。
ハーレム計画、無残にも散る。
……待て待て、落胆するのはまだ早い。状況を整理してみよう。
今のこの状況、ディアグランデの二周目……だよな?
俺は一度ゲームクリアしたし、マルチエンディングだったから、俺の性格なら直ぐに二週目を始める筈。
俺が主人公の格好をしてるのは、俺が主人公の代わりになったってことか?
普通に考えると俺が主役となって物語が進んでいくよな。
それじゃ、エルフ王女のエルクーシアにも、女騎士のラスポワールにも、メイド猫のたまキャットにも会えるってことか?
このゲームのヒロインはどれも美少女ぞろいだ。
うおぉぉ、やっぱりモテ期到来!?
異世界転生じゃなかったが、こりゃ未来は明るいぜ!
「なぁ妖精、聞きたいことが……って、いない」
さっきの場所に置いてきちゃったか。
戻ろうとした矢先、森から叫び声が聞こえた。
「ギャーーーーーーーッ!!!」
すごい叫び声だな、オイ。
無視する訳にもいかず、声のする先に向かう。
妖精が触手に捕まって逆さ吊りになっていた。
「何やってんの。……触手プレイ?」
「違う! トリフィドに捕まっちゃったんだよ! このままじゃ食べられちゃうってーー!!」
触手の主は、ドラム缶の半分くらいの大きさの植物型モンスターだった。
やっぱいるのかモンスター。
植物なのに顔があるし、ちょっと怖い。
「このボク、絶体絶命の大ピンチ! アンタ早く助けなさいよーー!!」
「えぇぇ……」
モンスター相手の戦闘か。
元のゲームはコマンド入力式RPGだったけど、コマンド入力画面が出てきたりとか……しないね。
え? どうやって戦うの?
ステータスオープン! や、コマンドオープン! など叫んでみたが、全く反応がない。
異世界転生じゃお決まりの奴なのに!?
……やばい、思ってたのと違うぞ。
剣振ったところで当たるのか?
「ギャーッ! たたたっ助けてーーッ!!」
何とかコマンド画面が出せないかと悪戦苦闘していたら、いつの間にか妖精が食べられる直前だった。
逃げようかと一瞬思ったが、曲がりなりにも命の恩人。
ここで死なれたら目覚めが悪いよな。
「あー、もうしょうがねえなーー!」
トリフィドに向かって走り出す。
相手も気づいたようで、丸呑みする触手を止めてこちらを睨んで来た。
確か植物型モンスターは動きが遅かった。
近付いてたたっ斬れば倒せるハズだ!
あと数歩で剣が届く所で、急に地面から蔦が生えてきた。
蔦が片足に巻き付き、俺はバランスを崩して盛大にずっこける。
か、カッコわりぃ……。
「なにやってんの? アンタ」
「いきなり足元に出てきたんだからしょうがないだろ!」
トリフィドを見ると邪悪に笑っていた。
触手を振り上げて……。オイオイ、まさか。
ピシュンッ!!
「いでえッッッ」
クソ、賢いなこいつ。足止めしてから攻撃かよ!
ぱしん、ぱしん、と連撃を受ける。
痛いことは痛いが激痛じゃない。これくらいなら体を動かせる!
足に絡まる蔦を切り、すんでの所で迫る触手を回避した。
再びトリフィドに向かって走り出すと、再び地面から蔦が生えてきた。
「同じ手は受けねえっ!」
その場で勢いよくジャンプすると、現実とは思えないほど高い跳躍で蔦を回避できた。
驚いた。まるで某配管工の大ジャンプだ。
ゲーム世界の恩恵? 主人公だから?
――なら、あれも使えるんじゃないか?
こっちに向かってくる触手を空中で薙ぎ払いつつ、着地点にいるトリフィド目がけて剣を振りかぶる。
「流刃斬!」
そう叫んだ瞬間、体が流れるように動いた。
まるで剣の達人のような所作で、剣撃が放たれる。
剣撃は光の軌跡となってトリフィドへ命中し、体を一刀両断した。
流刃斬――主人公の剣術スキルだ。
ゲームだと初戦闘でも使えたし、もしかしたらと思ったが……やればできるもんだな。
トリフィドは灰のように崩れ去っていき、その場には赤い石が残った。
これって魔石か。冒険者ギルドで換金できるやつ。
手にとってまじまじと眺めていたら、視界の隅で謎の物体がもぞりと動いた。
「ちょっとー! これ解きなさいよ!」
あ、妖精のこと忘れてた。
妖精を触手から解いてやると、ピロンという音とともに脳内に声が聞こえた。
『――レベルアップしました』
『――スキル”鞭打”をラーニングしました』
え、レベルアップ?
もしかしてシステムメッセージの代わりにシステムボイスが流れるのか?
くそっ、気になるワードを聞いたのにメニュー画面が開けれねぇ!
「何やってるの、アンタ」
「お前は知らないか? ステータスやメニューの出し方」
「知らない。妖精にはそういうのないし」
ううむ、そうか。人間に会えば知ってるかな。
妖精に人間の住んでる場所を聞いたら、先程の泉の先を指差した。
歩いて2日ほどかかるらしい。遠いなあ。
妖精に礼を言って立ち去ろうとしたら、ぐいと服を引っ張られた。
「何、置いていこうとしてるの。ボクも付いていくんだけど?」
「……ん? いやいや。お互いに助けたんだから、これで貸し借りなしだろ。お前が付いてくる必要はないだろ?」
「何言ってるの。契約したんだから、付いていくに決まってるじゃない」
さも当然とばかりに主張する妖精。
契約? なにそれ?




