エントリー その2
「そうそう。待ってる間にこちらにお目通しくださいニャ」
お姉さんがゴトリと書物をカウンターに置く。
というか、巻物だこれ。
ちらっと見てみたら、どうも闘技大会の細則が書かれているっぽい。
「まさかこれを全部読めと? ははっ、ご冗談を」
「やっぱり、そういう反応をするニャよねー……。闘技規則、めちゃくちゃ評判が悪いですニャ」
「仕方ないですニャ。手作りの要約版もお渡ししますニャ」
お姉さんから1枚の用紙を受け取る。
大きな文字で、闘技大会のルールがまとめられていた。
手書きの可愛らしいイラスト付きだ。
めちゃくちゃわかりやすかった。
正直、これがあれば巻物いらないでしょ。
「ダメですニャ。闘技規則は規定でお渡しする事になってますニャ」
心を読まれた。
いらないけど、お姉さんにそこまで言われては断れない。
本当にいらないけど。
「所でお姉さん。そのニャって語尾はキャラ付けの為ですか?」
「ふっふっふ、何のことか分からないですニャー?」
ふとした疑問を聞いてみたが、とぼけられてしまった。
お姉さんはしばらく事務仕事を続けていたけど、急に手を止めてこちらを見る。
「……それにしても、そんな事を聞くなんて、お兄さんは私に興味があるのかニャ?」
じっと流し目で見つめられる。
さっきまでの快活さとは違って、ちょっと大人な感じだ。
少しだけどきりとした。
「あぁ、いや……まぁ、そうですかね?」
どもりながら答える俺。
元気で仕事熱心なネコミミお姉さん。
ゲームにはいなかったし、一体何者なのか気になる所だ。
「ふぅーーん。でも残念、まだ教えてあげませんニャ」
「そうですニャー、次のランクに上がったなら、ちょっとだけ教えてあげもいいですニャよ?」
頬に指をあてて、笑顔になるお姉さん。
知りたくば強くなれと。強かだねえ。
「……お待たせしましたニャ。登録完了ですニャ」
手続きを終えたお姉さんから、翼がリング状になったようなデザインの指輪を渡される。
見たことがある。蘇生の指輪か、これ。
「この蘇生の指輪による蘇生は、闘技場でしか効果を発揮しないので注意して欲しいニャ」
「説明した通り、着けてないと出場不可ニャので、闘技場に来る時は絶対に装着してて下さいニャー」
なるほど、使用場所は闘技場内に限定されるんだ。
場外でも使えたら医務室が大変なことになるし、妥当っちゃ妥当か。
それにしても、リングの着け忘れが怖いな。
俺、修学旅行のしおりとか、家に忘れるタイプだし。
「忘れそうなら、入浴や寝る時以外はずっと付けてるといいですニャよ。というか、付けっぱなしの闘技者も多いニャ」
やっぱり皆面倒くさいって思ってるのね。
同類がいて安心した。そういう事なら普段から付けとこう。
俺はリングを受け取り、すぐさま装着する。
大きすぎないか? と思ってたら、指に丁度フィットするようにリングが収縮した。
「これでユーリさんも立派な闘技者ですニャ。決闘の申し込みをするなら明日以降に来てくださいニャ。受付次第、運営スタッフが対戦相手をマッチングするニャ」
なるほど、申込するとその場でマッチングするのね。
本当に格ゲーのランクマッチだな。
「お姉さん、色々とありがとうございました。また明日来ることにします」
「いえいえ、お仕事ですから当然ですニャ。……あ、闘技規則は忘れず持ってってくださいニャね?」
すっかり忘れていたのに、念押しされてしまった。
俺はお姉さんに笑顔で見送られて、闘技場を後にする。
ナビコから、参加するだけなのに時間かかりすぎよー! とぶつくさ文句を言われたが、適当にあしらう。
その後俺は宿を探し、商業地区にある安宿で泊まった。
……と、ここまでが昨日の話。
話は現在へと戻る。
* * *
何だかんだで初戦を勝った俺は、昨日と同じように闘技場の受付に来ていた。
というのも、受付で決闘申し込みした時に言われたのだ。
もし勝利したら受付に来てくださいね、と。
その事をお姉さんに尋ねたら、こういう話だった。
「それはもちろん勝者の特権、賞金をお渡しするためですニャ!」
なるほど。それは確かに重要だ。
というか、受付で渡すの?
セキュリティ的にどうなの、それ。
お姉さんがお手を拝借しますニャーと言って手を触ってきたので何事かと思ったら、何かの魔道具を蘇生の指輪に当ててきた。
お姉さんは、これで賞金の受け渡し完了ですニャと言って笑顔になる。
……んん!? 今なんて??
「お姉さん、今なんて言いました!?」
「やっぱり、初めて参加する方はそういう反応されますニャー……。驚くのも無理はないですニャが、この特別製の蘇生の指輪は闘技者の認証も兼ねてるんですニャ」
「なのでこのリングに賞金をお渡ししたんですニャ。リングには賞金が記録されていて、銀行でお金を引き落とせますですニャ」
「さらにさらに、王都の全ての商業施設では現金を持っていなくても、このリングだけでお会計出来るようになってるんですニャ! これも国王様ならびに魔術協会の努力の賜物ですニャ」
いやー、便利な時代になったものですニャー、としみじみ言うお姉さん。
古代ローマでキャッシュレス決済……??
あまりのパワーワードに、俺の脳がフリーズした。
……はっ。
いかん、意識が飛んでいた。
だから何でそういう所だけ技術が進んでるんだよ。
とはいえ、所詮最下ランクの賞金。
一戦で貰えるお金なんて、たかが知れている事だろう。
俺は特に迷いもせず、次なる決闘の申し込みをした。
ダメージはあまり受けてなかったし、SPにも余裕があったからだ。
お姉さんは、勤勉ですニャーと言いながらも手早くマッチングしてくれた。
「次の決闘相手が決まりましたニャー! 闘技者名はジンラ。拳法家のジンラさんですニャ!」




