エントリー その1
俺はナビコに発破をかけられて、闘技大会にエントリーしに来ていた。
どうも、闘技場入口付近の受付でエントリーが出来るらしい。
受付に行くと、カウンターの向こう側に見覚えのある顔を発見した。
「あ、ネコミミの人だ」
闘技場に強引に連れてきたお姉さん、受付の人だったのか。
改めて見ると、随分ポップなカラーの制服を着ているな。
これ、闘技場の職員用なのか?
「お姉さんどうも。えっと、大会に参加したいんですがまだ間に合いますか?」
「もちろんですニャ! まだまだエントリー可能ですニャー!」
にゃっはー! と元気な笑顔で迎えられる。
親しみやすそうなお姉さんだな。
口調からして、そこまで年は離れていないのかも。
「お兄さんは闘技大会の参加は初めてニャ? よければ、大まかなルールのご説明をしましょうかニャ?」
「あ、助かります」
「では……オホン。
闘技大会は決闘ルールが基本ですニャ。
決闘とは即ち、一対一の真剣勝負ですニャ!
己の実力を発揮して、相手を打ち倒してこそ、決闘の勝者となれますニャ。
勝者には賞金が与えられますニャ」
一対一、勝者には賞金……と聞くと相撲みたいだな。
まぁ素手勝負じゃなくて、文字通りの真剣同士の戦いなんだろうけど。
「大会にはランクが存在するニャ。
同じランク帯の闘技者同士で決闘して、
そのランク規定の勝利数を超えると昇格するニャ。
ランクは全部で6階層あるニャ。
特別な事情がない限り、どの闘技者も最下ランクの闘技者ランクから始まるニャ。
闘技者ランクから次のランクまでの条件は”4勝”ですニャ。
4勝した時点で次のランクとして認定されるニャ」
ふーむ。闘技場と言うからてっきりトーナメント形式かと思ったが、どちらかというと格ゲーのランクマッチだな。
「次のランク帯は、必然的に前のランク帯を勝ち抜いた強敵同士との闘いになるニャ。
けど、それに見合うだけの賞金が懐に入ってくる上に、
ランクアップすると特別な”特典”がついてくるニャ」
ん? なんだその”特典”っての。
「ふっふっふ、特典が気になって仕方ないって顔だニャ。
けど残念ニャがら、運営スタッフの口からは事前に言えない規定になってるんだニャー。
ランクが上がった時の楽しみにしてて欲しいニャ」
なにそれ、めっちゃ気になるじゃないか。
粗品3点セットとかだったら怒るけど。
いや、その程度だったらわざわざ隠さないか。
「……ざっくりの説明はこんな感じだニャ。何か質問はあるかニャ?」
お姉さんは、説明おしまいっとばかりに笑顔になる。
や、一番聞きたいことが聞けてないんすけど。
「勝負に負けたら、どうなるんです?」
「ん? どうもしないニャ。賞金を貰えないだけニャ」
お姉さんは軽い反応で返す。
あれあれ、こちらの意図が通じてないご様子。
「言い方を変えます。実力差がありすぎて、瞬殺されたらどうなるんです?」
もしくは、勢い余って命を奪ってしまった場合とか。
とてもじゃないが、それ以降俺は戦える気がしない。
「ああー、その事なら心配ないニャ。この闘技場で死ぬことはないニャ」
だから安心して闘っていいんニャよ? と言うお姉さん。
……は?
今、なんて??
「お姉さん、今なんて言いました?」
「初めて参加する人は大抵そういう反応しますニャー。
この大会の規定で、特別製の蘇生の指輪を付ける事が義務付けられてますニャ。
何と、HPがなくなったら自動で闘技場内の医務室に転送される機能付きニャ。
もし倒れちゃったら回復し切るまで医務室で絶対安静ニャ。
凄腕のお医者さんがいるから、どんな攻撃を受けても数日あれば復活間違いなしニャ」
えぇぇ、本当に?
僅かに信じがたいんだけど。
「ここまで説明しても、まだ信じられないって顔してますニャー……。
蘇生の指輪は、出場前に必ず装着確認があるニャ。
大会規定で、未装着では出場出来ない事になってますニャ。
このシステムが出来上がって20年、過去5回の大会において決闘の死者はゼロ人だニャ」
何その安全確認。事故死ゼロを謳う工事現場みたい。
それにしても、今まで死者ゼロって凄くないか?
蘇生の指輪はゲーム内の蘇生アイテムだ。
このアイテムがあれば、主人公のHPが0になってもゲームオーバーにならず即復活できた。
ゲームで何回か使うことはあった。
本来なら倒れた場所で蘇生するが、医務室に転送されるならリスキル対策になるし、安全性は高そうだな。
「もう一つ質問いいすか。決闘の勝敗ってどうやって決まるんです?」
「相手が負けを認めるか、気を失って立ち上がれなくなるか、蘇生する事態になったら勝ち判定が出るニャ。判定は会場にいる審判が下すニャ」
負けを認めるのはアリなんだ。
安全面の手厚さといい、審判がいることといい、決闘というよりはスポーツだな。
心のハードルがぐっと下がった。
お姉さんからルール説明を受けていると、ナビコがポーチから出て話しかけてきた。
「じれったいわねぇ。さっさと参加しなさいよ」
「あらあら、可愛らしいお客さんですニャー」
お姉さんはナビコに気付くと、ほっこりと笑顔になった。
「いいか、ナビコ。勝負にはルールがある。ルールを守れない者、勝利すること能わず……」
「はぁ? なに言ってんの?」
ナビコの反応が冷たい。
俺はルールの確認をしているだけで、決してビビってる訳じゃないぞ。
ま、ナビコも痺れを切らしてるし、細かい事はそろそろいいか。
俺は大会への参加申込をお願いした。
お姉さんから横に細長いチケット型の用紙を貰う。
この闘技者カードに必須項目を記入すればいいらしい。
えーっと、何を書けばいいんだ?
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闘技者名/
武器種別/
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必須項目、たったのこれだけ?
年齢や性別は任意項目だ。
これらは書かなくとも、必須さえ書けば提出可らしい。
身分も年齢も問わないって言ってたの、マジなのか。
流石に記入が二箇所だけは寂しい気がするので、書ける範囲で書いておいた。
完成したカードをお姉さんに渡す。
「確かに受け取りましたニャ。事務手続きがあるのでしばしお待ちくださいニャー」




