動き出す運命
闘技場の観客席は、未だ大歓声に包まれていた。
観客席を見ていたら偶然に、貴賓席っぽい所に少女がいる事に気付く。
その少女の横顔には見覚えがあった。
エルクーシア。
ディアグランデのヒロインの1人だ。
おおお……マジで美少女だわ。
どこかにいると思ってはいたけど、いざ目にするとどぎまぎする。
緊張で鼓動が早まる。
半信半疑だったけど、本当にゲームのキャラクターが実在するんだ。
それにしても、何故ここに?
いや待て、そういえばエルクーシアは耳長族の国のお姫様だった。
国王曰く、この闘技場は4年に1度の開催。
公の場である開会式に、各国の代表者や親族がいても何もおかしくはない。
ゲームと出会う場所や、タイミングが違うのは気になるが。
……いや、今はそれよりもアピールだ!
この機を逃してなるものか!
「おーーい! エルクーシアーーー!! ここだーーっ!!」
何とか気付いてもらえないかと、手を振ったり呼びかけてみるが、大歓声に全てかき消される。
ダメか……。
そう思った瞬間、エルクーシアが不意にこちらを見た。
やった!! 気づいてくれた!!
期待の眼差しで彼女を見る。
エルクーシアは見下すような冷たい表情でこちらを見た後、興味なさげに視線を外して、貴賓席の奥の見えない所へと行ってしまった。
「え……、あれ………?」
こちーん、と固まる俺。
バカな……。まるでゴミを見るような冷たい表情……。
そんな反応をされると思ってなかった俺は、ひどくショックを受けた。
姫が、姫がご乱心じゃあ!
エルクーシアは所謂ツンデレキャラだ。
最初のうちはツンケンしているが、とあるイベントの後に主人公をだいぶ意識するようになる。
その後なんだかんだで付き合い始め、ゲーム後半に甘々のデートイベントがあるほどのデレキャラへと変わる。
俺は迷わずエルクーシアルートへ進み、個別エンドを見るほどのお気に入りだったのだが……。
ハァーーーー
クソデカため息が口から溢れる。
ハァーーーー
あの笑顔が眩しいエルフ少女が、あんな冷徹な顔を向けるなんて……。
ショックだ。
この世界に来て一番ショックかもしれない。
俺、もう立ち直れないかも。
闘技場の隅っこで体育座りして、いじいじと地面をつつく。
* * *
気がついたら夕暮れ時で、観客席から殆ど人がいなくなっていた。
ナビコはあちこち見て回っていたらしい。
飛んだまま、いじける俺に話しかけてきた。
「アンタねぇ……」
「何だよ」
「バッカじゃないの? 何ずぅーーっと、いじけてんのよ」
「うるせぇ。今の俺はブルーなんだ。話しかけんな」
沈黙がしばらく続く。
……流石に気まずくなってきた。
「で、これからどうするのよ」
じとっ、とした目で問いかけてくるナビコ。
わかったわかった。
そろそろ現実に戻れってことね。
「あー、そうだなぁ。取り敢えず宿屋を探すしかないよな」
「そうじゃないわよ。この闘技大会ってのに参加するんでしょ?」
「……はあ?」
「アンタ、強くなるためにここまで来たんでしょ? そう言ってたじゃない」
「そりゃあ言ったけど……」
「じゃあ、戦って強くなればいいじゃない。ここは、闘う場所なんでしょ?」
ガツンと頭を殴られたような気がした。
そうだ。俺は強くなるため、王都に来たんだった。
「勝ち続けて実力が認められれば、耳長族の子と会う機会もあるんじゃない? ……それに、優勝者には”願いを叶える権利が与えられる”って、偉そうな男も言ってたし」
あ、そういえば!
何でも願いが叶うってことは……。
ゲームに無かったハーレムエンドも実現できるって事!?
うっは、夢が広がってきたぁ!!
それにナビコの言う通り、仮に優勝できなくても上位に食い込めば、顔見知りになるチャンスはありそうだ。
そう考えると、全く損しないじゃないか。
「戦って勝つ? それとも、負けるのが怖いから逃げる? ……さあ、どうするの?」
「く、はは………ははははは! 戦って勝つ。そんなの決まってんだろ!!」
俺の心は決まった。
ふつふつと闘志が湧いてくる。
「ようやく、いつものユーリになったじゃない」
ニカッと笑顔になるナビコ。
もしかして、こいつなりに励ましてくれたんだろうか。
こいつ……結構良いヤツじゃねーか。
沈む夕陽を背景に、俺達は拳と拳を合わせあった。
この日、運命が動き出した。
闘いに勝ち越す俺はいつしか、こう呼ばれる事になる。
大闘技場のスキルマスター、と―――




