街道の残骸
前半のハヤテくんの能力について描写を加筆しました。
アイリが眠りついた後。
寝付けなかった俺は、【次元収納】から眷属の機械蜘蛛たちを数体ほど出して警備を任せた。
そして今は施設内を散歩をしている。
スリープモードがあるとジラに教わったが、
「二度と起きなくてもいい」的なことを言われて、何というか寝るに寝られなくなってしまったのだ。
でも寝なくてもいい身体でわざわざ眠るのも、少し勿体なくて躊躇っていたから丁度良かったかもな。
結局、そのまま散歩しながら目に付いたものを【次元収納】に入れて回っていた。
すると、すこし開けた空間に出る。
せっかくだし、この機会に新しい身体と能力について色々と試してみるのもいいかもしれない。
そういえば文字化けしていたスキルはどうなっただろうか。
そう思って、スキル一覧を表示してみる。
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【スキル】
・天穿
・纏雷
・厳槌
・雷伝
・***[ロック]
・***[ロック]
・雷属性強化
・魔力供給
・分析再現
・次元収納
・眷属ネットワーク
→・超回復
・アライメント調整
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お。文字化けが無くなってるな。
俺が麒麟の主人格となったことで発現したらしいスキル。【超回復】と【アライメント調整】か……。
何というか、とても聞きなじみがある単語な気がするのだが。
この【超回復】って、自動回復能力って事か?
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【超回復】
一定距離を走り、休憩すると能力が成長する。
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違うのかよ!
これ、俺の世界にある「超回復」に近い能力じゃないか。
筋肉を使用すると筋肉の繊維が傷つく。
その傷ついた筋繊維に適度な休息を与えると、修復される際に筋肉が効率よく強化されるという身体の仕組みがある。
それを「超回復」と言うのだ。
アスリートに限らず、ダイエットや運動している人には馴染み深い単語だろう。
にしても、走って休んだら能力が成長って。
普通の事じゃないか?
「——いえ。このスキルには魔力量の最大値と、魔法行使力の増加の効果があるようです」
疑問に思ってる俺にジラさんが追加で情報をくれた。
魔力量と魔法行使力?
そういえば、ステータス画面みたいな中にそんな単語があった気がする。
そう思ってステータス画面を開いてみた。
◆————————————◆
名前:ハヤテ(麒麟)
年齢:17
種別:幻獣型・機獣
魔力量:12000/12000
魔法行使力:700
【スキル】
・天穿
・纏雷
・厳槌
・雷伝
・***[ロック]
・***[ロック]
・雷属性強化
・魔力供給
・分析再現
・次元収納
・眷属ネットワーク
・超回復
・アライメント調整
【魔導武装】
・天角 [解放・封印]
・魔導蹄
・魔導尾—雷尾—
・魔導毛—雷毛—
【魔法】
・生命魔法
・空魔法
【精霊適正】
不明
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クィーンとの戦闘中に見た時はよく分からない単語だらけだったのもあって、ちゃんと見ずにすぐ閉じた気がする。
今は時間もあるし、ひと通り調べてみよう。
取りあえず新しいスキルからだな。
【超回復】は魔法量と、魔法行使力ってのを成長させるらしい。
そもそもこの2つってなんだ?
「魔力量は保有している魔力の量です。魔法行使力は使える力の出力や、使用可能な能力の範囲に影響するものです。魔法だけでなくスキルにも適用されます。一般的にこの2つは、その者の強さの目安となっています」
ふむ?
HPとかレベルはないのか。
強さの基準がこの2つって分かりやすいな。
シンプルすぎる気もするけど。
「——この2つに加えて、保有スキルやその練度などが総合的な強さとされます」
まぁ、確かにスキルが強かったらそれだけで立場が逆転することもあるか。
なんにしても【超回復】は成長系のスキルだし、かなり使えるものだろう。
次は【アライメント調整】だ。
実はこれも俺には馴染みがある単語だったりする。
アライメント調整とは、
過酷なトレーニングによる深刻なケガなどを避けるために骨や関節、筋肉のバランスなどを整えることだ。
ランナーをやっていると股関節の痛みなどを覚える人も多い。
そのような障害を予防するためにも大事なので、俺も気を遣っていた。
つまりケガや痛みを覚えにくくなるって事だろうか?
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【アライメント調整】
状況や環境に適応してパーツ配置が調整される。
精神にも作用する
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んん?
なんか違う。
パーツってとこは放っておくとして、状況や環境に適応する能力か。
しかも、精神にも作用するって……。
心も状況・環境に対する適応能力が上がるってことか。
メンタルが強くなるのはありがたい……かな?
その後も、スキルや魔導武装などの使い勝手を試した。
ひと通り調べた俺は、最後に施設内を歩き回り【次元収納】についても実験して回った。
しかし、そろそろ夜が明けるとジラに言われたのでアイリの所へ戻る事にした。
◇◆◇
そして夜が明け、朝日を浴びてアイリが目覚める。
「……んん。ッ!! びっくりしたぁ……」
ゆっくりと目蓋が開き、俺を見て一瞬硬直したアイリ。
まぁ朝起きて、馬の顔が覗き込んでたら驚きもするか。
アイリが人形みたいに綺麗だったもんで、起きてくる姿をつい遠慮なく眺めてしまった。
「——主はデリカシーが本当に皆無ですね。おはようございます。すみませんでした、マスター」
ジラが若干呆れたような声で俺を非難した後、アイリに謝る。
なんだろう。段々と保護者みたいになってきたな。
「あぁ、うん。ちょっと驚いただけだから大丈夫だよ。おはようジラ、ハヤテ」
「おぅ、おはよう。悪かったな、ちょっと顔が近すぎたか」
迫力がある顔してるもんな今の俺。
——はぁ。と小さなため息が聞こえた気がする。
アイリは楽しそうに笑って起き上がった。
「ふふ。そうだね。食べられちゃうかと思ったよ」
そのまま水筒を使って顔を洗ったりして、簡単に身支度を済ませる。
残っている食料を食べ終えたら、荷物をまとめた。
「それじゃ、あたしの住んでる町へ行こ!」
◇◆◇
アイリの住んでる町は、海沿いにあるシマノエという所らしい。
ここからだとかなりの距離があるらしく、今から向かっても昼頃に到着するそうだ。
俺に乗って行くのかと思ったが、おじいさんの形見である機獣に魔力源を補給して乗って行くらしい。
これが最後になるだろうからと。
施設があった海に面した崖を遠回りして上っていくと、そこはだだっ広い平原だった。
こんな広い開けた土地は前の世界でも見たことがなかった。
地平線までほぼ緑しか見えないとは。
さっきまでの近未来文明はどこへいったのやら。
そして、今はそんな平原を犬型の機獣に乗ったアイリと並んで走っている。
犬型機獣は俺に比べるとかなり遅いが、置いて走り回るわけにもいかない。
全力で走れないのは少々まだるっこしいが、長い移動になるそうだし体力温存(機械だから体力関係ないけど)しないとな。
「ハヤテ! もうすぐ街道が見えると思うから、そこまで行ったら南西の方角ね!」
「わかった。付いていくから先導してくれ」
大声で俺を呼ぶアイリはどこか楽しそうだった。
そういえば、気が付いたら俺のことも呼び捨てになっている。昨夜の会話で少しは仲良くなれたってことかもな。
そうこうしているうちに街道が見えてきた。
しかし、それよりも目を引くものがそこにあった。
「なんだありゃ」
街道沿いに点々と存在する、大きな建造物のような残骸。
それには苔などがこびり付いていて、鉄骨やワイヤーみたいなものが飛び出ていた。
廃材っぽい物もその周囲に散らばっている。
「ああ、あれは昔の機獣の残骸だってさ。ここで大きな戦争があって、その時の残骸の中でも価値がないものや野営地がわりに使えそうな残骸がそのまま残されてるんだって」
土をなだらかにした道と、その脇で土中に埋まるように点在する巨大な機獣の残骸。
昔はあんなのが戦争に出ててたのか、恐ろしい戦場だな。
元の世界でも戦車や戦闘機はあったが、あんなものはなかった。
感覚的にはガ〇ダムやゴジ〇が戦争に乱入してくるようなもんだろう。
ヤバすぎる。
そんな事を考えながら残骸の1つに近づき、俺たちはそこで休憩を取ることにした。
「おぉ……でかいな。これが動いてたって信じられん」
見上げるその残骸は建物にしたら3階くらいありそうな高さで、残っている部分から想像するに元は亀とか、そういう甲羅がある形の機獣だったように思える。
「あんまりデカいものが動くと、自重で潰れるとかそういう話を聞いたことがあるが……」
「——設計の段階で、自重に耐えられるように強化魔導具、補助魔道具で補強して運用していたはずです」
なるほど。
魔法がある世界だと大抵のことが何とかなりそうだな。
こちらの世界の常識も今後は知っていかないとだ。
「ハヤテ。そろそろマナマテリアルいる? 朝から魔力を補給してないみたいだけど」
首をかしげながらアイリが聞いてきたので、自分の魔力の残量を確認してみるが……。
「ん? 『魔力量:11000』って全然減ってなくない?」
そこには朝とほぼ同じ数値が表示されていた。
「——私たちの魔力はマナマテリアルからだけではなく、それぞれの魂と周囲の環境から供給されています。それゆえ、現在は魔力残量90%を維持しています」
ちなみに天角は本体とは別に予備の魔力を貯蔵できるらしく、残りの10%の領域を使って充電中だそうだ。
充電って……電気なのか魔力なのかよく分からないな。
魔力を電気にして貯蔵してるのか?
「——天角は流した魔力を雷属性に変換できます。雷属性を持つ魔力で貯蔵している状態を便宜上、充電と呼称しています」
ふーん。雷属性ねぇ。魔法の話も落ち着いたらもっとしっかりと聞いてみたいところだ。
「……え。補給いらないの?」
呟きが聞こえてふっとそちらを向くと、俺たちをぽかーんとした顔でアイリが見ていた。
ちょっと間の抜けた顔をしてる。
「ここまでの移動で補給なし……だったら活動範囲がもっと広がるかも……。でもまだ……」
そのまま。思案顔になって何かを呟き始めた。
うちのマスターは集中すると独り言を呟いちゃう癖があるのかもしれん。
まぁ、俺の聴覚系センサーでも内容を完全に拾えないんだから、普通の人には全く聞こえないか。
と、そんな事を考えていたら周辺に散らばらせて警戒を任せておいた眷属の蜘蛛たちが異常を感知した。
「アイリ、北西の方から何かくるぞ」
「え。何かって……?」
急な俺の言葉に困惑するアイリ。俺は蜘蛛たちの視覚と聴覚センサーの情報を共有して様子を伺う。
「なんだあれ。暴走族か?」
パラリラパラリラと騒音を鳴らし、土煙をあげる機獣の集団がこちらに迫っていた。
暴走しやすい平原ですからね。




