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異世界の夜は更ける

連休なので、連続投稿です。

今回は少しだけ解説回。

会話多めでお届けします。


 ——さて、この世界で生きていく事は決めたわけだが。

 これからどうしたもんか。


 とは思ったものの俺に選べる選択肢なんてほとんどない。

なぜならもう俺はアイリの所有物・・・になってしまったのだから。


 アイリのマスター権限がなくなるか、命令を出されないと俺が自由になることはないだろう。

 美少女に生殺与奪を握られる日が来ようとは……。

 思ったより悪い気はしないが。


 しかし、1つ心配事もある。


「ねぇハヤテさん。さっきからボーっとこっち見てるけど、どうしたの?」


 ずっと見つめられている事に気が付いたアイリが不思議そうな顔で尋ねてきた。

 野営の準備がひと通り終わったようだ。


「いや、アイリが俺のマスターになったわけだけど。これからどうするつもりなのかなって思ってさ。もしかして俺って売られるのか?」


 俺の心配事はこれだ。

 どうやらこの世界で機獣は貴重品なようだし、俺はおそらく性能も良いだろう。

 そんな俺を手に入れてアイリがどうするのか少し心配だった。

 このまま売られて、誰とも知れない人間の所有物になるのはゴメンだ。

 そんな事を想像したらちょっと泣きたくなった……。

 BGMはもちろんドナドナだ。


「そんな事しないよ! わたしも専用の機獣がいるけど、そろそろ引退させてあげたいなと思ってたんだ」


 慌てていうアイリの話によると、


 アイリの祖父がマスターだった機獣を、祖父が冒険者を引退してから使わせてもらっていたのだが、先日そのおじいさんが亡くなった。

 なので大切にしていた機獣も一緒に引退させてあげたい、という事だった。


「ずいぶん長いこと無理をしてきたみたいでね。これ以上、一緒に居るにはオーバーホールしないと駄目らしいんだ。でも、それはちょっとイヤだなって……」


 彼女は少し寂しそうに微笑みながら、そう言った。


 相手が機獣でも大切な人のそばにいさせてあげたいのか。

 優しい子だな。

 自分だってその機獣が大切だろうに。

 いや、大切だからなのかもな。


 そんなアイリを元気づけるように、俺は近づいて声をかける。


「そっか。じゃあこれからは俺をアイリ専用の機獣として使ってくれ。そこの先輩ほど役に立てるか分からないが、頑張るからよ!」


 少し胸を張って、キメ顔をしてみる。

 まぁ馬面なんだけど。


「うん、ありがとね」


 俺の気遣いが分かったのか、少し嬉しそうにアイリは笑ってくれた。



◇◆◇



 そこから他愛無い会話というか、ちょっとした質問コーナーが開催された。

 お互いに色々と気になっていることがあったからな。


「アイリって何歳なんだ?」

「ん。15」


「さっきからジラさんが喋ってないけど、どうしてるの?」

「——常に待機しています。御用の際は呼んでください」

「あ、ハイ……」


「アイリってたまにジラに敬語になるけど、なんで?」

「あー……、最初に話したときに助けてもらったんだけど、その時からたまに敬語になっちゃう時があるんだよね」

「あぁ、やたらと偉そうだからなジラ」

「——聞こえていると知ってて言ってるんですよね。嫌味ですか?」

「嫌味というより文句だよ。陰で言うよりいいだろ?」


「ハヤテさんもジラさんも、AIとは思えないほど感情豊かだよね。やっぱり見た目通りすごく高性能なんだなぁ」

「ん? 俺はAIじゃないぞ。多分」

「——私も正確にはAIではありません。区分するならASIです」


 実は異世界人です……って言いそびれた。

 それより今はジラの話が気になる。


「そうなの? ASIって何?」

「——人工超知能のことです。分かりやすく言うならば私はAIに空の魂を融合したような存在ですね」

「おぉ、なんかすごそうだな」

「つまり……どう違うの?」

「——具体的に言うと、私はあなたたち人と同じように魔法やスキルの行使が可能です。魔法などは魂がないと使用ができません。それをAIにも可能にするべく生まれた技術が、ASIという風に理解していただければ良いかと思います」

「ふーん。俺はどうなんだ。スキルは使えたみたいだけど、魔法も使えるのか?」

「——使用可能です」


 そこから、ジラが少し解説してくれた。

 俺が使った【天角解放】はスキルではなく“魔導武装の使用”であり、【天穿テンセン】と【纏雷テンライ】はスキルだったらしい。


 違いが分かりづらいが、雷を使った能力がスキルという事だろうか。

 魔法とは何が違うのか。


「——魔法はある種、原始的なものでそれ自体で完結しています。スキルはそれらの力から派生して、この世に生まれたものと理解してください」

「うむ。わからん」

「——ならもういいです」


 匙を投げるの早くない?

 絶対に俺のことをバカにしてるだろ。

 まぁこれ以上難しいこと言われても分からないのは事実だが、簡単に諦められるとなんか悔しい。


「ホントに2人は特別なんだね。こんな風に機獣とお話できるのってなんか楽しぃ」


 ひざを抱えながら座っているアイリはこちらを笑顔で見つめて、とても楽しそうだった。

 しかし、どうも呂律が回っていないように聞こえたが。


「おいアイリ、もう眠いんじゃないか?」


 よく見れば、目元もウトウトしているように見える。


 考えてみれば、彼女も命の危機を乗りこえたばかりなのだ。

 15歳の身ではかなり辛かったに違いない。

 相当に疲れただろう。


「あぁ、うん。ちょっと眠い……。寝てる間の警戒、お願いしていい?」


 眠気を自覚して堪えられなくなったのか、フラフラと船をこぎ始めたアイリに近づいて俺は優しく声を掛ける。


「ああ、大丈夫だ。ゆっくり休め」 


 アイリは安心したようで、寝袋に入って横になった。


「……うん。おやすみぃ」

「おう。おやすみ」


 彼女が眠りについて、俺もそばに座り込む。


 まだ全然時間は経ってないはずなのに、すごく濃密な1日だったな。

 異世界にやってきて、機械の馬になって、巨大な蜘蛛の機械と戦って、今こうして知らない地で野営している。


 そして俺は美少女の専属機獣になった。

 昨日までの俺が聞いたら、ワケが分からないだろうな。


 あの絶望感に満ちた日々が嘘だったかのような、すっきりとして不思議と温かい夜だった。



 ——その夜、俺は久しぶりに、

 「早く明日が来るといいな」と思った。


ハヤテ「……って、機械だから寝れねぇじゃん!」

ジラ「——スリープモードがありますよ」

ハヤテ「おお、パソコンみたいだな。じゃあジラさん後はよろしく!」

ジラ「——。一生目覚めなくても構いませんよ?」

ハヤテ「なんで!? こわっ!」


結局、恐怖で寝付けなかったハヤテでした。

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