対 アラクネ型クィーン
連投3
——目が覚めたら、巨大メカと謎の少女が戦っているというSF映画みたいな状況だった——
……はっ!
つい放心しそうになったが、さすがにこれは夢だろ。
明晰夢ってヤツだ。
てか、俺が横たわってんの地面か。
通りで硬くて寝苦しいわけだ。
よっと。……ん? なんか妙な感じだな。
横たわっていた身体を起こし、自分の姿を見て愕然とした。
「……なんぞこれ……」
思わず先ほどと同じセリフを言ってしまったが仕方ない。
夜闇のような深い紺色の皮膚。
やたら長い手足を支える関節部は、動かすたびに駆動音を発している。
頑張ってみたが、どうにも上半身が思うように持ち上がらない。
丁度いい所に鑑替わりに使えそうな光沢のあるコンテナがあったので、そちらに向いてみた。
そして四つん這いのまま、俺は今の自分の姿を完璧に理解する。
「ロボだぁぁ!?しかも馬だぁぁ!?」
久しぶりにこんな大きな声を出した。
声色は元の俺のままだった。何がどうなってんの?
というかこれ本当に夢か!?
めちゃくちゃリアルなんだけども!?
もしや俺の脳みそを、機械の馬を動かすパーツとして移植したとか?
患者に相談もなく何とんでもないことしてんの!?
「——落ち着いてください」
ビリッ!
「んぎっ!」
ひたすら混乱している俺だったが、そこに冷たい声と共に身体に電流のようなものが走った。
一瞬の事だったがめっちゃ痛い。
てか痛覚はちゃんとあるのか……。
「いってぇ…」
「——話を聞ける状態になりましたか? マスターからの命令です。砲台上にいるマスターを救出してください」
痛がる俺を無視して、冷たい声は淡々と話を進めていく。
「……んん、マスター? てか誰だよアンタ? ——っ!」
彼女の言葉を聞いて疑問を口にした直後、唐突に身体の自由が利かなくなった。
そして頭の中に浮かぶのは砲台の上にいる少女を救うこと。絶対にしなければならないと、まるで急かされるような感情が心に渦巻く。
さらに視界の隅には宙に浮くモニターのような、何か変なものが見えてきた。
「がっ……」
ぐるんぐるんとする思考に、俺の頭がついていけず呻き声を上げる。
「——敵はアラクネ型の機虫。近接系の武装を複数所持。魔法攻撃に対する強い耐性あり」
冷たい声が告げる言葉と共に、様々な情報が頭を駆け巡った。
彼女が俺のサポート役であるということも理解する。
視界に現れた浮かぶモニターでは、パソコン上で動くプログラムのように文字が自動で羅列されては消えていくのが見える。
それはずっと動き続けていて、推奨行動と書かれたものが表示された。
どうやら敵を排除するための選択肢を演算して、ここに結果を出しているみたいだ。
ああ、そうか。
これに従ってアイツをぶっ壊せってことだな。
OK理解。
命令を完了しないと、この頭がおかしくなりそうな状態も終わらないのか。
……つまり俺はあの怪物と戦う以外にないってことだ。
◇◆◇
——アイリside——
怪しい光を持った目でこちらを見つめるクィーン。
長い黒髪の下にあるその顔は驚くほどに精巧で美しかった。
どこか淫靡な雰囲気を纏った人型の上半身は女であるわたしですら魅了されそうだ。
しかし、その上半身にはそんな色気を相殺してあまりある物騒なものが付いている。
背中から蜘蛛の脚みたいに伸びている鋭利なソレは、先端の部分がカマキリが持つ鎌のようになっており人を簡単に切り裂けるほど長さがあった。
美しい人型の中で圧倒的な異彩を放つそれが、しずかに蠢く。
少しずつ近づいてくるクィーンを前に私の心は絶望に染められて、逃げることもせずただその美しくも恐ろしい姿に見入っていた。
そんな冷え切った場の空気をぶち壊すように——
「ロボだぁぁ!?しかも馬だぁぁ!」
そんな間の抜けた、男の声が響いた。
声のした方へ目を向けると、そこには先ほどの機械音声さんこと機獣がいた。
でも今の声は? さっきまでの機械音声さんは女性の声だったはずだが……。
あ。メインユニットがどうとか言っていたけど。それが起動したのかな?
その割には混乱しているというか……。
なんだろう。あの場違いな感じ?
というか、急に動きが止まってしまったし……。
長い年月の間で正常に動作しなくなっていたのだろうか? 何にせよ、この状況をどうにかしてくれそうにはない。
クィーンも一瞬そちらに気を取られたようだが、放っておいて良いと判断したのかこちらに向き直っている。
そして人型の顔がわずかにニヤリと笑った気がした。
わたしがその顔にぞっとした瞬間、クィーンは瞬く間に距離を詰めて背中についた蜘蛛の脚を振り上げていた。
鋭利な刃が光り、恐ろしい速度で脚が振り下ろされる。
その光景がわたしにはスローモーションのように見えていた。
しかし、ゆっくり流れる時間の中でわたしの身体はまるで自分の物じゃないみたいに動ごかない。
その刃は魔力を帯びていて、美しい光りの軌跡を描きながらわたしに迫る。
切り裂かれる。
と、そう思った瞬間。
刃とわたしの間に何かが割り込んできた。
それは刃と同じく、光を纏った一本の角。
いつの間にそこに来たのか、わたしとクィーンの間にはユニコーン型の機獣が立ちはだかっていた。
◇◆◇
——ハヤテ(機獣)side——
目覚めたばかりでまだ夢見心地なのだろうか。
俺の心には恐怖なんてものは存在しなかった。
それこそゲーム感覚で目の前の巨大な機械に挑もうとしていた。
そいつが砲台の上にいる少女に向けて攻撃態勢に入ったのを確認し、慌てて駆け出す。
間一髪で少女に振り下ろされたカマを、角を使って弾きとばすことに成功した。
あと一瞬おそかったら、彼女はクィーンの餌食となっていただろう。
さてどうするかな……。
視界にある浮遊モニターには演算した最適な行動が表示されているようだが、俺としてはそんなものに素直に従う気はない。
無理やり俺に強制労働させておいて、選択権もないなんてゴメンだ。
色々と確認したいこともあるしな。
とりあえず初手で高火力は男のロマンだろ。
えーと……。
「≪天角解放≫」
自分の武器などを確認して一番「ヤバそう」なものを起動。
表示された言葉を呟き、俺は自分の力を最大限まで解放してみる。
「——天角の解放を確認。リミットまでの残り魔力99%。……こちらが提示した行動での勝率92%」
制限時間を告げる冷たい女の声。
最後の呟きはこちらに対する不満だろうか?
まぁ知らんがな。
頭にあった立派な1本角が2つに割れて、側頭部にそれぞれ移動する。
丁度、龍の角のような配置だ。
2本に分かれた角の先からは電撃が周囲に発せられており、俺に近づくものを容赦なく高圧電流で焼き払っていくだろう。
自動防御の機能もあるみたいだなコレ。
んで次は……。
俺は腰と頭をかがめ“発射”態勢に入る。
狙うは敵の人型部分。
「≪天穿≫」
俺の言葉とともに両角の先端が前方へと向けられ、電気を纏いながら力を溜め始める。
そして最大まで溜まった力が、角の先端から轟雷となってクィーンへと一瞬で走り抜け、上半身に直撃した。
その瞬間に閃光とともに爆風が巻き起こり、何かが焦げ付く匂いと共に土埃が舞い上がる。
間違いなく直撃したはずだが、視界の浮遊モニターは敵がまだ健在なのを知らせてきている。
今のが魔法なのか分からないが、敵には耐性があったらしいな。
徐々に晴れていく土埃の先で、クィーンが不気味な笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。
その上半身にはところどころ熱で溶けているような跡があるが、直撃したわりにダメージが少ない様に見える。
ダメージを受けている所と受けてない所で差がある。
なんらかの方法で防御したのか?
あの一瞬でそんなことができるのだろうか。
「検知できない敵の能力を確認。推定危険度をB-に変更。特殊個体の可能性あり」
特殊個体…ねぇ。
どうやら、一般的な個体が保有しているものより明らかに高性能なパーツで構成されている個体らしい。
しかし【天穿】を発射後はしばらく動作が鈍るのか、少々動きづらい。
これはちゃんとモニターの説明に記載しとけよと思う。
試しておいて良かった。
そんなことを考えていたら、ゆっくりと歩いて近づいていたはずのクィーンが急にすぐ近くまで距離を詰めていた。
「っ!?」
一瞬の出来事だったが、俺は目の端で捉えていた。
ヤツは下半身にある6本の脚を使って全力で前に跳んだのだ。
予備動作がほとんどなかったので、一瞬で近づかれたように感じられた。
そのままの勢いで振り下ろされる2つの鎌のような脚を俺はサイドステップで躱し、続けて横から切り払われた脚をバックステップでギリギリ避ける。
動きづらくなっていた所に襲撃されて戦々恐々となったが、それでも俺とヤツにはかなりの性能差があるのか無傷で距離を取ることに成功した。
「危なかったな……マジで」
振り下ろされた脚についている刃は地面をいとも簡単に切り裂いていた。
あれで切られてたら相当ヤバかったんじゃないの?
「——戦闘を変わりましょうか? 私が操作すれば勝率99%です」
サポート女が自信満々ででしゃばってきた。
姿は見えないがドヤ顔とかしてそうだ。
てか操作ってなんだよ。俺を操作するって事かコラ。
まぁ俺も少しゲーム感覚なのだから彼女のことを責められないが……。
「……お断りだ。てか舐めプしてたのは認めるけど、好きに動いてみて色々わかったよ」
まずは、俺は元人間なのに馬の身体を自由自在に動かせるということ。
むしろ人間の頃より思ったように動けるんだから驚きだ。
人間だった頃に四つん這いで動き回れたはずもない。
しかし、今は前後左右に軽やかに動ける。
次に武器や能力の確認。
頭で考えると視界にある浮くモニターがそれに沿って情報を出してくれる。
慣れてくるとマジで便利だ。
このモニターによると結構いろいろな能力がある。
説明を読まないとよく分からないものが多いけども。
そして、実際に能力を使ってみた使用感。
これは説明文だけじゃ気付かなかったものが、かなりあった。
要検証って感じだな。
さて、天角の解放状態も限界があるらしいからな。
さっさと決めてしまおう。
しかし、踏み出そうとした脚が何かによって絡めとられるように感じた。
「?」
それだけではなく、気付けば首などにも何かが纏わりついている。
「一体何が……?」
攻撃後からこちらを静観していたクィーンに目をやると、上半身にある人型の腕をこちらに伸ばしていた。
その白く艶めかしい腕の先から、目には見えないが何かが出ているのを感じる。
そして不意にそれが何か明らかになった。
「なっ!?」
さっきまでは確かに何も存在していなかったはずだ。
しかし、今ではそこかしこに光を纏う糸状のものが網のように縦横無尽に張られていた。
……そりゃ、蜘蛛だもんな。迂闊だったわ。
俺の身体にも太い糸のようなものが巻き付いており、身動きが取れなくなってからようやく理解する。
普通の蜘蛛だって罠をしかけ、敵を動けなくして捕食するんだ。
それがこいつみたいに魔法すら操る機械ならどうするか。
魔力で見えないような細い糸を作りだし、それを設置して罠を仕掛ける。
相手が絡んだら糸に追加で魔力を流して強化、敵を捕縛したら後はやりたい放題だ。
しかしこの太くなった糸はかなり頑丈だな。
天角から溢れている電撃を浴びても焼き尽きる気配がない。
さては、さっきの防御のカラクリもこれが関係しているな……?
「——敵能力が判明。高レベルの【魔力感知カット】、【魔導糸】……魔導砲、来ます」
敵の情報を整理していたサポート女から警告が飛ぶ。
クィーンの人型部分の口内から、何やら光があふれている。
口からビームか……?
ありきたりだけどロマンあるよね……。
溢れる光はどんどん大きくなっていく。
……ずいぶんと溜めが長いな。
——なるほど。敵を捕縛して長距離からチャージして狙撃という攻撃パターンか、やべぇなコレ。
慌てて、何かこの状況を打開できる機能がないか探す。
「——【纏雷】の使用を推奨」
お、俺もそれ使おうと思ってたし!
……嘘です、感謝しますっ!
「≪纏雷≫っ!」
クィーンがビームを発射する直前におれのスキルが発動し、膨大な魔力を持った雷光がおれの身体を包み込んだ。
身体に纏わりつく糸が切れて自由になる。
その直後、轟音とともにヤツの口からとんでもない魔力を感じるビームが放出された。
それはヤツが張った糸の網を一瞬で焼き尽くしながら進み、回避が間に合わなかった俺に直撃した。
——しかし、俺が纏う雷の結界がそれをみごとに防ぐ。
直撃したビームは結界にぶつかると枝分かれするように俺の後方へと流れていった。
「おぉ、すごいな【纏雷】!」
川の流れに押し流されるような感覚があるものの、痛みすら全くない。
「——天角解放のリミットまで残り30%を切りました。早急な撃破を提案します」
感動してる俺に対して、相変わらず冷え切った声で提案という名の指示を出してくるサポート女さん。
でも、さっきは助けてもらったのでここは素直に従おう。
「おう。このまま突っ込むぜ!」
ビームの流れに逆らうようにクィーンへと駆け出す。
今までの戦いから、遠距離での雷撃では勝てないことが分かっている。
となると今使えそうなのはこの2つに分かれた角のみ。
「おらぁぁぁ!」
進むにつれて激流に逆らうような抵抗を感じるが、痛みはないのだからあとは根性の問題だ。
クィーンもここが勝負の分かれ目と見たのか、最大出力でビームの威力を上げてきている。
しかしだ——、
どんな形であれ短距離走で負けるわけにはいかねぇよ。
馬の姿になったとしてもこっちは元陸上部エースだぞ。
足を怪我してから俺はずっと走れなかった。
一生、走る事ができなくなったはずだった。
溜まりにたまった鬱憤も、絶望も、全て吹き飛ばすような全力疾走。
それは失われていた俺の夢であり。俺の幸せだ。
場違いにもほどがあるが。
この時俺は、涙が出るほどに嬉しかった。
「——!!」
ビームの激流を潜り抜け、目を見開くクィーンの顔が見えた。
「ようやくゴールだ。≪天穿ッ≫!!」
そしてその胸に2本の角を向けて叫ぶ。
雷を纏った角が前方に向けられると同時に、ヤツの胸に突き刺さり——
次の瞬間、放出された高威力の雷撃がクイーンの上半身を吹き飛ばした。




