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対 マッドイーター

「≪天角解放≫ッ!」


 その言葉と共に俺の角からバチバチと電気が流れ始める。

 角が中央から2つに分かれ、それに伴い周囲に走る電撃も増えて魔力が場に溢れている。


 俺の身体にも青白い雷が纏わりつき、魔力によってただでさえ高い身体能力が底上げされるのを感じた。



「じゃあ行ってくるっ!」


 そうアイリに告げ、俺は全力で駆け出した。


 街道を進んでいた時とは違い、手加減は一切なしだ。


 風の音とも高速で流れていく景色。

 魔力を纏った蹄が駆け抜けた跡にはバチバチと雷光が残り、俺が通り過ぎた残像が光の軌跡になっているようだった。


 何というか……例えるなら流れ星にでもなった気分だ。

 願いを3回唱えられても叶えてやる事はできないがな。



 駆け続けることで、心と身体がどんどん満たされていく。

 先ほどまで、魔物と戦う事に怯えていたのが嘘のようだ。

 この圧倒的なスピードは本当クセになる。

 馬の身体、最高だな……。


 とそんな事を思っていたら、もう子供たちと巨大な猪みたいな魔物のすぐそばまで迫っていた。

 

 それに気付き、急いで減速しようとする。

 しかし、経験にない速度で走っていたのでどう止まればいいのか分からない。

 とっさに身体を横に捻り、4つの脚を使って全身でドリフトしながらブレーキをかける。


 そのまま横に滑り続けて、なんとか子供と魔物の中間あたりで停まることが出来てほっとした。


 このスピードの域まで来ると、四輪駆動の車みたいな事が出来るんだな。

 ちょっと楽しかったので、機会があったらまたやりたい。


 取りあえず、救援に来たと知らせるために背後の子供たちに声をかけた。


「ヘイ、少年たち! もう大丈夫だぞ。少し下がってな!」


 ……何も考えず適当に喋り始めたので変なセリフになってしまったが、緊急事態ってことでセーフにして欲しい。


 反応を伺うためチラリと目線を子供たちに向けると、彼らは驚いて声も出ないという顔をしていた。

 しかし、俺も彼らに負けず劣らず驚いた。


 ケモ耳……だと!?

 すっかり忘れていたが、この異世界について俺はまだ全然知らない事だらけなのだ。

 この世界、獣人もいるのか!?


 くそっ、耳だけじゃ何のフレンズなのか分からない。

 犬っぽい気はするのだが……。


 パッと見た男の子たちの頭には、髪色と同じく茶色の獣の耳が付いていた。


 よく見たら顔の横には、人間と同じ耳もあるのか。

 ……え?

 4つも耳あるの?

 耳掃除とか大変そうだな。


 さすがに、この子たちが「ケモ耳カチューシャ」をして生活しているとは考えづらい。

 つまり獣人なのは間違いないと思う。


 なんだろう。

 やっぱり異世界なんだなぁって改めて実感したよ。



「グルルルルぅ!」


 おっと。

 ケモ耳に興味が移ってしまってすっかり忘れてた。

 悪かったな魔物さん。


 俺の登場に、警戒心を顕わに巨大猪の魔物が唸っている。

 近くで見てみるとその体高は2メートルほどで、アラクネ型のクィーンに比べてもひと回りは小さい。


 それに威圧感もアイツほどじゃなかった。


 そいつは頭部から前脚あたりにかけて、ドロドロとわずかに流動している黒い泥のような液体を纏っていた。

 その泥の隙間から白い牙と、赤黒く光る眼がこちらを覗いている。


「よぅ、猪。言葉は分かるか? ……まぁ分からなくてもいいぞ。けど、俺とお前どっちの方が『化け物』かってのは理解できるよな?」


 もしかしたら知能があるかもしれないので、周囲に電撃を放ってかるく威嚇しながら語りかけてみる。

 

 子供たちと魔物がビクリと震えた気がした。


 俺がコイツをどうするか、ここで決まるわけだが。

 出来れば逃げだしてくれないかなぁ……。


「グオォォォォぉン!」


 顔を上げて、咆哮する巨大な猪の魔物。

 戦意を奮い立たせているようだ。


 はぁ、逃げて良かったんだぞ。

 腹が減ってるなら、ぜひ別の獲物を探して来てほしい。


(——この魔物のように、その瞳が朱く光っている魔物は周囲の生き物を見境なく襲う存在となります)


 ん?

 そうなのか、そりゃまた難儀な……。

 つまりこうなってる魔物とは強制戦闘なわけか。


 お前に恨みはねぇけど、俺もこの子供らを見捨てる気はない。

 さっき腹を決めたばかりだ。

 こうなれば、異世界バトルといこうじゃないか。



「こいよ。猪」


 魔物を見つめながら少しずつ横に移動する。

 子供たちから距離を取るためだ。


 前回の戦いではアイリ(マスター)を戦闘の余波に巻き込んでしまったからな。

 俺は反省する男なのだ。


 十分に距離を取れたのを確認し、挑発替わりに俺は馬の蹄を踏み鳴らす。

 すると猪は、低く唸りながら猛然とこちらへ駆け出した。


「ブオォォ!」


 おいおい、それはさすがに無謀じゃないか?

 見境がなくなった魔物に、何を言っても無駄かもしれないが……。


 自分より強いだろう相手に正面から突撃って。

 さすがの俺でも考え無しだと思う。

 それとも何か策があるのだろうか?


 まぁどちらでもいいか。

 こっちとしても周囲に子供がいるので、なるべく一撃でケリをつけたい。

 正面から突っ込んでくるなら、迎え撃ちやすそうだ。


「≪纏雷テンライ≫」


 俺は念のために前回も使った【纏雷】で雷を身体に纏う。

 そして、2本の前足を持ち上げる。

 後ろ脚と体幹だけでバランスを取っているような姿勢だ。


 それを見ても尚、突っ込んでくる巨大猪の魔物。

 その魔物の黒い泥まみれの頭部に、俺は狙いを定めた。


「≪厳槌イカヅチ≫ッ!」


 俺の声と共に前脚に雷が収束する。

 厳槌イカヅチは両前脚の先端に雷を集めるスキルだ。

 これを使って踏みつけるとヤバイんだよ……。

 でもこれしか迎撃方法が思いつかなかった。


 ……えっと、ごめんな?


 ドゴオぉーンッッ!!


 振り下ろしたそれは雷鳴をとどろかせながら、走ってきた魔物の頭部に激突した。

 ピカッと周囲が光り、続けて雷鳴と轟音が鳴り響く。

 

 ——光が収まった時には、俺の前脚が魔物の頭部と地面を粉砕していた。


 おおぅ。ちょっとグロいなこれ……。


 頭部にあった泥のようなものは、ほとんどが吹き飛んでおり、魔物の醜悪な顔があらわになっている。


 朱かった瞳はすでに光を失っていて、魔物は絶命しているようだった。

 あの一撃を食らったら、ひと溜りもないだろう。


「……」


 少しの罪悪感を感じている俺にジラが声を掛けてくる。


(——魔物を冒険者が狩るのは「仕事」です。罪悪感を感じる必要はありませんよ)


 分かってるよ。

 ここは異世界で、俺のマスターは冒険者だからな。

 いずれは避けられない戦いだったんだろう。


 ただ、平和な国の生まれとしてはちょっと感慨深かったんだ。


 ゲームとかなら何も考えずに楽しめるんだけどな。


(——生き物には、他者を傷つける事、他者より優位に立つ事、あるいは他者を殺す事で快感を得る本能(・・)があります)


 ん? ああ。ゲームとかだと楽しめるって話か?


(——しかし相互補助、相互保身、道徳心などの観点から、集団ではその本能に抗うのです)


 難しい話はノーセンキューだぞ?。


(——メインの世界には、道徳心が強い人間が多いのでしょうね)


 それは……どうだろうな?

 そんな世界だからか、むしろ「道徳心」なんて口に出して言ってたら笑われる風潮の方が主流だと思うぞ。



 あー……しかし、今回はジラに少し迷惑かけた。

 悪かったな。


(——? メインが私に迷惑をかけていない状況が今まであったでしょうか?)


 ……そりゃあったでしょ!

 具体的には思い浮かばないけども。


(——はぁ。貴方については、もう慣れるしかないという結論に達しています)


 呆れの混じったいつもの声に、俺もため息が出る。

 だから変な結論出すなっての!

 人を厄介者みたいに……。


 でも、なんだかんだで憎めないヤツだとも思えてきた。 

……口には出さないし、頭でも考えないようにするけどな。



◇◆◇



 気付けば、後を追ってきていたアイリがすでに俺のそばまで到着していた。

 アイリと合流し、子供たちの元へ向かう。


「キミたち、大丈夫だった? ケガとかない?」


 心配そうにケモ耳の子供たちに声をかけるアイリ。


「ああ、大丈夫だよ! それより、あれ! お姉ちゃんの機獣なのか?」


 年上っぽい感じの男の子が興奮気味に声を荒げている。


 こらこら、オレを指さすな。


「うん、そうだよ。ハヤテっていうの」


 アイリも興奮したその男の子に、少し自慢げに笑顔で応えた。


「すっげぇな!」


 うむ。

 男の子から羨望の眼差しを向けられるのも、悪い気はしないな。

 主人マスターのアイリも鼻が高そうで何よりだ。

 


「あの……。その機獣、さっき普通に話しかけて来たんですけど……」


 年下っぽい方の少年が、恐る恐るといった感じで会話に加わってきた。


 ああ、そういえばこの2人に最初に話しかけたっけな。


「あんな風に話す機獣って初めて見たんですけど、やっぱり凄い機獣なんですか……?」


 そら凄いよね?

 異世界人の魂が入ってる機械がそこらじゅうにゴロゴロしてたら、俺としても複雑だ。


 そう思いながらも、黙って話を聞いていた。


 アイリも俺の事は珍しいと思っていたらしく、興奮した様子で話し続けている。


「うん! わたしもハヤテが初めてだよ。きっと凄い機獣なんだと思う。これから工房に行って見てもらうんだ!」


 とそんな風に子供たちと話していたアイリだったが、ふと町の入り口の方へ眼をやった。


 俺もそちらを向くと、そこから数人の大人たちが慌てた様子で走ってきているのが見える。


 その表情はどうにも険しいようだ。


 またも厄介なイベントが起こることを俺は予感した。

テンポが遅くて困ってしまう。

毎日更新を目指してたけど、やはりまったり更新します。

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