迷走する少年たち
(追記)この話のハヤテくんの感情や反応が納得がいかなかったので大幅に描写を修正しました。
海岸沿いの町『シマノエ』に向かってる途中、
魔物に襲われている子供たちに遭遇した。
町まであと数kmという所に来ていた俺たちは、町と少し離れた場所にある森の入り口でその騒ぎが起きているのを発見した。
。
「あれは……猪か?」
その獣は4本の短い脚と大きな胴体をもっていた。
前方に突き出た鼻とその横から出ている牙は、前の世界でいうと豚や猪と似たシルエットをしている。
だが、決定的に違うこともあった。
それは、ドロりとした黒い泥のような液体で頭全体が覆われている事だ。
さらにその泥から覗いている瞳は赤黒く発光していた。
遠く離れていても、その獣の禍々しさを感じられる。
なるほど、あれが魔物か。
しかし、距離があるからか妙な違和感がある。
「遠近感がおかしくないか? ……いや違うわ。デカいな、おい」
必死で逃げている子供を定規にして申し訳ないのだが、その魔物は走っているその子供のサイズだったら丸呑みにできそうなくらい巨大だった。
も〇〇け姫にあんな大きさの猪が出てきたなぁ。
と、つい考えていた俺だったが……。
「ハヤテっ! 急いで助けに行くよ!」
やはりアイリはあの子たちを助けに行くよな。
まぁ、さすがに子供は見捨てられない。
しかし——
「……おう、急ごう」
全力で犬型機獣を動かし始めたアイリを追いかけるように、俺も速度を上げる。
ぐんぐんと加速していく身体に、普段の俺だったら高揚するはずだが……。
今は、違う感情が心にあった。
(——主。貴方……怯えてるんですか?)
……ジラって本当に何でもズケズケと言ってくるよな。
でも正直な話、それは図星だ。
俺が異世界に来て、今まで倒したのは蜘蛛の機械のみだ。
それは機械だとはっきり分かるものだったし、
俺もまだ状況をきちんと理解しておらず、ゲーム感覚だった部分があった。
さらには命令という、強制的に動かされる力に急き立てられて戦ったという側面もある。
……しかし、
いざあんな化け物と戦って命を奪い合うとなると、少し躊躇してしまった。
平和な日本という国で高校生として過ごしてきた俺にとって、命のやり取りなんてのは今まで無縁だったのだから。
俺は本当にこれからアイツと戦うのか?
絶対に勝てるとは思う。
それくらい今の俺は強いと、すでにクィーンとの戦いで知っている。
だが、俺は言い知れる怖さを感じていた。
(——提案。戦闘を変わりましょうか?)
……え?
初めてジラが俺に優しさらしき物を見せてくれた気がするんだが。
少し不安定になってたので、思わずときめいてしまいそうだ。
弱った人を誑かすなんて。
ジラさんったらズルいな。
(強がれるくらいなら大丈夫ですね。……恐怖する事は決して恥ではありません)
……急にデレるなよ? 調子が狂うから。
(——否定。デレるという状態になることは未来永劫ありません。……話を戻します。恐怖がない人間の方が、余程に恐ろしく、そして愚かだと私は思います)
珍しく饒舌な上に毒舌だな。
(——なので貴方は存分に恐怖を感じてください。そしてそれを受け止め、乗り越えてください)
おぉっと、無茶振りがキタ。
今のって応援してるのだろうか。
……ちょっとスパルタ過ぎない?
存分に怯えろって、悪の親玉みたいな台詞だな。
……でも背中押された(?)からか、何か元気出た。
一応、ありがとよ。
さて、ビビってる間にも事態はどんどん悪くなっているようだ。
子供たちに近づいて来たことで、その様子が次第に明らかになる。
男の子らしき2人が魔物から追いかけられていて、年上っぽい方が小銃をその魔物に向けて何発も撃っていた。
しかし、その銃弾は魔物の頭部を覆っている黒い液状のものに防がれているようで、牽制程度にしかなっていない。
今は相手も銃を警戒しているようだが、もし弾が切れたりしたらすぐにあの2人はアイツの腹の中だろう。
(——急を要する事態と認定。マスターから命令をされれば恐怖心も緩和されます。要請しますか?)
アイリが俺に命令すれば、このビビった心も強制的に落ち着くんだろう。
しかし、今のジラの言葉には挑発的な響きが含まれていた。
言外に、
『まだ怖いなら、年下の少女に泣きつけばいいよ?』
と言われた気がする。
そんな風に言われて、おめおめと頼めるかよ。
分かったよ! いいかげん、覚悟を決めますって!
尻を叩くにしても、もっと優しくして欲しいもんだ。
(——拒否。面倒くさい性格の主ですね)
どっちがだよッ!?
ああ、もういい……!
さっさと子供たちを助けるぞ!
覚悟を決めた俺はアイリに話しかける。
「アイリ、このままだと子供たちがマズイ! 俺は先に行くから、ちょっと離れててくれ!」
「うん! わかった! 任せたよハヤテ!」
「おう!」
アイリに頷き、俺はまたあの力を使う。
「《天角解放》ッ!」
◇◆◇
——子供たちside——
今日オレと弟の2人は、親父の部屋にあった先代物資もどきの銃を持って森へ狩りに出かけた。
この銃ってヤツはすごい! オレの魔力?を吸い取って弾を飛ばすんだ!
子供のオレたちだと、そんなにたくさんは撃てないらしいけど狩りをするにはもってこいだ!
「お兄ちゃ~ん……、どこまで行くのぉ?」
弟がビビッて、情けない声を出している。
「まだ全然入り口のほうじゃないか! もっと奥に兎や野鳥がいるんだよ。それを獲ってみんなをビックリさせようぜ!」
不安そうな弟に、ニカッっと笑いかける。
「危ないよぉ。お父さんも子供だけで森に入っちゃダメって……」
「大丈夫だって、まだ森の外が見えるだろ? 危ないと思ったら、すぐにあそこまで走ればいいさ」
後ろを振り返れば木々の合間から、ちらっと平原が見えた。
何かあっても、あのくらいの距離だったら簡単に逃げられるさ。
——そんな風に思っていたが、それが大きな勘違いだったとオレはすぐに知る事となった。
どぉおおん! という轟音と共に地面が大きく揺れる。
少し先に見えていた、大きな苔岩が積みかさなって出来た岩場のような場所からその巨体は姿を現した。
「お、お、お兄ちゃんっ! あれ『マッドイーター』だよっ!」
顔に黒い泥のようなものを被ったその魔物は、大人たちから泥喰らいと呼ばれていた。
そのイノシシのような身体は高さだけでも2メートル近く、オレたちみたいな子供は絶対に手を出してはならない存在だ。
「あ、あ、ああ……」
なんでこんな化け物が、町のすぐそばに?
そんな想いを抱くが、今はそれどころじゃない。
「にげろぉぉぉ!」
オレたちは、わき目も振らず逃げだした。
——どぉおおん! ——どぉおおん!
背後から響く破壊音。
あれは後ろにいる化け物が、木々を粉々にして進んでいる音に違いない。
こちらに気付いて迫ってきているんだ。
「クソっ! クソっ!! なんで……!」
どうして、よりにもよって今日なんだ!
なんで今なんだ!
オレの前を逃げていた弟にすぐに追いつき並んで走る。
しかし、弟はオレより3つも年下だ。
当然、足もずっと遅い。
「——っ!」
涙を流して、声も出さず必死になって走る弟を見てオレは——。
「先に行けぇっー!」
ここで逃げるわけには、いかなくなった。
振り返って銃を抜く。
「くらえっ! 化け物ぉ!」
そして、迫ってきていたマッドイーターに向けて、引き金をひきまくる。
撃ち出される弾丸はヤツの顔に当たったが、その表面にあった黒い泥が少し弾け飛ぶだけだった。
こういう時は眼とか急所を攻撃するって、親父が言っていたのをとっさに思い出す。
試しに目元あたりへ乱射したら、マッドイーターは煩わしそうに頭を振って、その動きを鈍らせた。
よし。こうやって眼を撃ちながら少しずつ距離を取ろう! それを続けてれば森を出られる!
先に逃げた弟は、大人を呼んできてくれるはずだ!
そこまで行けば、きっと助かる!
そんな淡い期待を抱いて、オレは後ろへ銃を撃ちながら森を出た。
——だが、そこで弟がオレを心配して待っていたのは予想外だった。
「バカっ! なんで町まで逃げてないんだ!」
「だって! お兄ちゃんが死んじゃうよ!」
涙声でそう言う弟に、オレは歯噛みする。
——こんな良い弟を助けられないなんて勘弁してくれ!
なんでオレはこんなに弱いんだよ!
さっきから、銃を撃つたびに頭が痛い。
オレの魔力がもう底を付きそうなんだろう。
「くそっ、くそっ!」
それでもオレはマッドイーターに向けて銃を撃ち続ける。
しかしヤツはとうとう森の外まで、その巨体を現した。
さすがに、オレたちを逃がしたりはしないのか。
頭の痛みがいよいよ酷くなり、全身もだるくなって銃を持つ手がダラリと垂れ下がった。
なんとか……、弟だけでも……。
朦朧とする意識の中で、オレは弟に声を掛けようとするが口が上手く動かない。
「お兄ちゃん!」
弟がオレを心配する声が聞こえる。
いいからさっさと逃げてくれ。オレは大丈夫だから。
だが、そんな想いが弟に届くはずもなく、マッドイーターが近寄ってくる気配がした。
——しかし、マッドイーターは急に立ち止まり、さっきまでこちらに向けていた視線を別の方へ逸らしている。
一体、何が……?
「お、お兄ちゃん! アレっ!」
弟が驚きの声を上げて、何かを指差している。
その指の先を目で追っていくと、そこには青白い光を纏った馬のような姿した『何か』が迫ってきていた。
信じられないほどの速さで、オレたちとマッドイーターの間まで駆け抜けてきた光る馬は……
オレたちに向けてこう言った。
「ヘイ、少年たち! もう大丈夫だぞ。少し下がってな!」
ハヤテくんの絶妙なカッコ良さと、カッコ悪さがなんとか伝わると嬉しいです。




