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走って町へ

 先代遺跡の施設から大量に持ち出した先代物資アーディファクトについては、俺とアイリの秘密という事になった。


 そのお宝の山(アーティファクト)が目の前にあるわけだが、俺はせっかくなので欲しい物があるとアイリにお願いしてみた。


「コアが欲しいの?」


「ああ、それも出来るだけたくさん欲しい」


 俺の特殊な能力(というか麒麟の能力)にコアを吸収し、その中からスキルを読み取って再現する力がある。


 しかし、再現するにはコアの素材にもなっている「マナマテリアル」という物質が必要だ。

 これが不足していて再現できていない能力がまだあった。


 さすがにアイリ(マスター)の許可なくコアを吸収するわけにもいかなかったので、今まで【次元収納】にしまっていたのだ。


 その事を説明すると、アイリは頷きながら考え始めた。


「またそんな聞いたこともない力を……。でも確かにそれならコアがたくさん欲しいよね。うーん……」


「ダメか?」


 返事を躊躇っている様子のアイリは、悩まし気に応える。


「ダメってことはないんだけどね。わたしが手に入れた先代物資アーティファクトは、最初に専属エンジニアの子に見せる事にしてるの」


 アイリが言うには、いつも機獣を整備してくれている知り合いのエンジニアが居て、その子は先代物資アーティファクトが大好きらしい。


 コアは研究したり、魔力源になったりと価値はあるが、その子が許可すれば俺にくれても良いそうだ。

 つまり、町に着いてそのエンジニアの子に見せてからじゃないと返事ができない、という話だった。


 俺はクィーンのコアを勝手に吸収してしまった事を思い出して、その話をアイリにしたら「あー、それは仕方ないよ。でも残念がるだろうなぁ……」と苦笑いしていた。



 しかし、その子にすべての先代物資アーティファクトを見せるなら自然と【次元収納】も見せることにならないだろうか?


「その子はわたしの妹みたいな子でね。出来れば秘密にしたくないんだけど、……ダメかな? あの子は頭も良いし、口も堅いから話して大丈夫だと思うの」


 俺の顔を覗き込みながら、おずおずと尋ねてくるアイリ。

 その表情には「お願いっ!」という感情が込められていて、瞳がうるうると潤み、眉はハの字になっている。


 そ、そんな可愛い顔で言われたら、許可せざるを得ないじゃないか。

 捨てられた子犬でも何でも持ってこーいっ!


 ……ハッ! 一瞬、完全に変な感情に流されていた。


 そんな簡単に決めていい問題じゃないだろ。

 【次元収納】の利便性とその異常性は、きっと厄介事も呼び寄せるに違いない。


 しかし、アイリが信頼している子にも秘密にするというのはさすがに酷だろう。


「……仕様がないな、分かったよ。でも話す前にその子にも、秘密にしろって念を押すようにな」


「分かった! ありがと、ハヤテ!」


 嬉しそうにそう言うアイリに、俺も微笑ましい気持ちになる。


(——チョロいメインですね)


 とジラが内部通信で呟いたが、俺チョロくないし!


 アイリがマスターなのだから、そうしたいと言うなら出来る限り尊重するのは当たり前だ。


 ……可愛さに屈したわけではないぞ。



(——『可愛いは正義』とは何ですか? 一瞬、メインの思考に浮かんだ言葉なのですが……)


 一瞬だけだったのに、その名言を拾っちゃうのかよぉ!

 てか、ハッキリ思い浮かべてなくてもアウトとか……。

 ジラさんマジで怖い。


(——メインがいた世界というのは、非常に愉快な場所だったのですね)


 どこか楽しそうな雰囲気を醸し出すジラに恐怖を感じる。

 どこまで俺の思考を読んでいるのやら……。


 俺のプライベートは今ここに消滅したのかもしれない。



◇◆◇



 言い知れぬ不安を感じる俺だったが、ジラとしても勝手に俺の思考が流れてくるらしく、どうにもならないそうだ。

 仕方ないので保留することにした。

 


 今俺たちはアイリが住む町へと街道を進んでいる。


 でこぼこしていた平原を走っている時にも思っていたが、平らにしてある街道では尚ハッキリと分かる。

 『()の俺の脚力、マジでヤバイ』


 「マジでヤバイ」としか表現できないのが悔しいが、俺はこの体験が出来た事を神に感謝したいくらいだった。


 まず速度だが、

 アイリが乗っている犬型機獣に合わせて加減して走っているのにも関わらず、時速60km近い。

 これは車の法定速度と同じであり、俺が人間の姿だった頃の全力疾走に比べても2倍ほどの速度が出ている。


 さらに馬の姿(四つ脚)で走るというのは、言うなれば常にクラウチングスタートの姿勢みたいなものだから、加速も凄まじい。



 そして体力が必要ないというのは——

 俺にとって、もはや驚天動地と言えた。


 加減しているとはいえ、もう2時間近くも走っている。

 走行距離は100kmを超え、ウルトラマラソン状態だ。

 だというのに全く苦痛を感じない。


 力を入れると少し気怠くなるが、それもすぐに回復する。

 こうなってくるとあるのは「楽しさ」だけだ。


 走ることが大好きな俺にとってまさにパラダイス、理想郷である。


「めっちゃ幸せ……」


 恍惚とした俺の呟きに含まれていたのは、久しぶりに長距離を走れたことへの幸福感だけではなかった。


 これヤバイって!

 脳汁がブシャーってなってるって!

 脳内を駆け巡るアドレナリン、ドーパミン、エンドルフィン……!


 このままじゃ廃人になってしまうぅ! 

 ……って、今の俺には脳みそ無かったわ!

 じゃあ、いいじゃん! ひゃっっっほぉぉー!!



(——!? また電流を流されたいですか!? 落ち着きなさいメイン!)


 はぁ……はぁ……。

 ごめんごめん。

 楽しすぎてちょっと我を失ってたわ。


 俺のあまりのはっちゃけ様に、ジラが慌てたように制止を呼びかけてきた。

 ジラの困惑したような声を初めて聞いたぞ。

 そんなに俺は、おかしくなっていたのだろうか? 


(——。ひとことで言えば、狂っていました)


 マジか! そりゃすまなかった。

 ジラさんの引きっぷりに、俺もさすがにちょっと反省したわ。


(——そんな事より、前方に町が見えてきましたが……その付近で異常があった可能性があります)


 おお、ホントだ。

 海岸に沿ってごちゃごちゃとした町並みが見えている。

 ……ん? 異常ってなんだ?


「あれ? 町の近くの森で何か……。んー……ッ!!」


 アイリも何かが見えたらしく、額にあった遠視ゴーグルを使って町のそばにある森の入口の方を見る。


 覗き込んでしばらくして、アイリが息を呑むのが分かった。



「ハヤテっ! あそこで子供が魔物に襲われてるっ!」



 

脳汁を垂れ流している時のハヤテくんが、思った以上に気持ち悪い。(ひどい)

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