—閑話— アイリの孤独
ちょっと気分転換も兼ねて、茶番なしの閑話です。
クィーン戦前後のアイリ視点の話で、文体も三人称になってます。
(今日がわたしの命日かぁ……)
徐々に近づいてくるアラクネ型のバグズ・クィーンを見て、アイリがまず思ったのはそんな諦観の念だった。
クィーンのその朱い瞳で見つめられた時、彼女は自分でも呆れるほど素直に自身の死を受け入れていた。
(だって、あんなのどうしようもないじゃないか)
冒険者をやっていれば、いつだって死とは隣りあわせだ。
ちょっとした油断が、不運が、悪意が、冒険者を殺す。
アイリのおじいさんも、冒険者として依頼をこなしている内に多くのケガを負ったらしい。
そしてそれが遠因となり、剛毅だったアイリのおじいさんも晩年ではほとんどベッドの上で過ごしていた。
人というのは本当に、脆くて、儚い。
アイリはそれをよく理解していた。
こんな場所で一人孤独に死ぬのも、冒険者をやっていれば起こりうる未来の1つだと。
冒険者の端くれとして、アイリも当然覚悟していたので思ったよりも恐怖はなかった。
(でも——)
(……やっぱり少し寂しいなぁ)
迫る死に対して、アイリが1番強く感じたのは恐怖ではなくて、むしろ寂しさに近い何かだった。
(わたしが死んで、誰が悲しんでくれるかな。……あまり思い浮かばないなぁ)
アイリの両親は彼女が5歳の頃に行方不明になっており、残っていた家族は先月亡くなったおじいさんだけだった。
あと仲が良かったのは、同い年だが妹のようなエンジニアの子だけだ。
(どんな風に生きてたら、幸せだったって笑えたんだろうなぁ)
恐怖はないのに、アイリの瞳に涙が浮かび始める。
後悔があるわけじゃない。
ここまでの人生がつまらなかったわけでもない。
でもアイリが感じるのは冷たくて、どうにも心細い、そんな満たされない想いだった。
そんな思考の闇に呑み込まれそうだったアイリを、現実に引き戻したのは、
「ロボだぁぁ!? しかも馬だぁぁ!?」
という、間の抜けた叫び声だった。
◇◆◇
その後、戦闘の余波で気を失ったアイリだったが、目覚めるとそこでは先程のクィーンが倒されていた。
どうやら馬型の機獣に助けられたらしいと知って、アイリは驚いた。
あのクィーンは間違いなく下位の冒険者では、逃げることすらできないような代物のはずだ。
Eランクの冒険者であるアイリが無事で済んだのは、まさに奇跡だった。
目覚めたらすぐそばに馬の機獣がいたので、驚いて叫び声を上げてしまったアイリだが、持ち前の切り替えの早さで現状を理解する。
(あの状況から命の危機を救ってくれるなんて……。この機獣にはホント感謝しないと)
距離をとってその機獣を見つめているうちに、アイリは少しずつ頭が落ち着いてきた。
(それにしてもあのクィーンを単独で倒せるほど高性能って、凄すぎなんじゃ……?)
そんな事を考えていたアイリに、その機獣は話しかけてきた。
「おい、身体は大丈夫か? ……怖い思いをさせて悪かった」
少しぶっきらぼうなその言い草にアイリは、またも驚く。
ハヤテと名乗るその男性の声は、機械の無機質な音声ながらも、確かに感情の起伏を感じさせるような声だったからだ。
それからその機獣……ハヤテとジラとたくさん話しているうちに、アイリはどんどん楽しくなってきた。
彼女にもおじいさんのお古の専用機獣はいた。
その機獣も彼女の質問に対して答えてくれたり、指示を出したら自身で考えて自動で動いてくれたりはしたが、ここまで「意思」を持っているような言動はしなかったのだ。
アイリが冒険者になってから、野外で夜を過ごすことは度々あった。
しかし、こんな明るくて楽しい夜はおじいさんと一緒に依頼をしていた頃ぶりだったので、とても懐かしい気持ちになる。
(あの頃は、おじいちゃんがそばに居たから外でも安心して眠れたっけ……)
ソロで活動する冒険者には機獣を使う者が多く、夜の番は眠らなくても大丈夫な機獣に任せるのが常であった。
しかし、おじいさんが引退し1人で冒険者活動をするようになってから、機獣が守ってくれると分かっていてもアイリは中々安心して眠りにつけなかった。
(なんだろ。今日はすごく、ほっとする……)
ハヤテにおやすみと挨拶をしたアイリは、寝袋に入った。
目を閉じると吸い込まれるような眠気がやってくる。
誰かといる安心感に久しぶりに包まれて、
アイリはぐっすりと眠りについた——。
いろいろな書き方で、補足できたらいいなと思いやってみました。
読みやすく書けていたらいいのですが……。
次話からまたふわっとした一人称で書かせていただきます。




