その瞳は、夜の湖のように
書き続けているうちに、茶番ばかり筆が乗るように……。
異世界の暴走族もとい、
街道の巡回警備隊だったバロンたちが去った後。
俺は先代遺跡の施設からほとんどの先代物資を持ち出してる事をアイリに説明した。
バロンに恨まれたり、あとで文句を言われるのではないかと心配していた俺だったが、アイリいわく多分問題ないという事だった。
「冒険者には、基本的に『早い者勝ち』って理念があるからね。国に仕えてる人は上の指示に従わないとダメだけど、冒険者が命を懸けて得た物に文句をつける人はいないと思うよ?」
そういうもんなのか。
でも確かにそうしないと、冒険者が遺跡の発見や探索に協力しなくなるだろうからな。
それに下手をすると国と冒険者たちの間にも軋轢が生まれそうだ。
なんにしても大丈夫なら良かった。ひと安心だ。
とはいえ、マスターであるアイリにも話してなかったのは不味かったな。
報告・連絡・相談は大切だって言うし。
俺は申し訳なくなり、アイリに謝った。
「言い忘れててごめんなアイリ。次からどんな事でもすぐ伝えるようにするよ」
「ううん、気にしないで。……わたしは確かにハヤテのマスターだけど、そんなに気を遣わないで欲しいかな? ちょっと寂しい」
こちらを覗き込んでそう言うアイリの笑顔は、とても親しげだった。
……彼女が、俺にそういう気の置けない関係を求めているんだなという事が伝わってくる。
アイリは先月おじいさんを亡くして、家族がいなくなったそうだからな。
人恋しいのかもしれない。
「……アイリがそう言うなら仕方ないな。これからも、こんな感じの俺でいよう」
と少し照れながら言う俺に……、
相変わらず、冷や水をぶっかける存在がいた。
「——助言。主は全面的に自身を顧みるべきかと」
空気読まねぇなジラさん……。
てか俺に対して辛辣すぎません?
しかし、今回は言質を取っている俺が有利だ!
「マスターが良いって言ったので顧みませぇーん。そういうジラさんこそ、もっと自身について考え直すべきではぁ?」
煽るような口調でカウンターを決める俺。
ふふん、いつもの仕返しだ。
「——。マスター、主を甘やかすのはやめるべきです。周囲に対して配慮する能力が、著しく低いという結論がすでに出ています」
「何、勝手にそんな悲しい結論だしてんの!? くっ、ジラだって俺に全然配慮とかしてないクセに……」
「——配慮する必要性を感じませんが?」
「あーん? どういう意味だよ、それ?」
「——いいんですか? (マスターのふとももに興奮していた事を)……バラしますよ?」
「ちょ、おま……そういうのはダメだと思いますッ!」
・
・
・
マスターを放置してケンカし始めた俺たちを見て、アイリはちょっと困りつつも、でも楽しそうに笑っていた。
「ちょっと2人ともー? なんで、そんなにギスギスしてるのー? 同じ身体から2人の声がしてるから、なんか変だよっ! あはは、面白いっ~!」
◇◆◇
しばらくして、ジラと和解した俺とアイリは、改めて遺跡から回収した先代物資について話はじめた。
「はぁー。なんか気が緩みすぎちゃった。それで、わたしが渡したもの以外にも先代物資をたくさん持ってきたんだったっけ?」
「ああ、アイリが寝たあとに遺跡を散歩してな。その時に集めたんだ」
そうなんだぁとアイリが呑気な返事をする。
俺が持ってきた量が実際どれくらいなのか分かってないだろうからなぁ……。
「今からここに出すからな。驚くなよ?」
「え。う、うん?」
アイリが頷いたのを確認し、俺は周囲を見回す。
俺たちが今いる場所は、建物のようなサイズの機獣の残骸内である。
その空洞部分は、学校の教室などをゆうに超える広さだろう。
ここに全て出しても大丈夫かとジラに確認した俺は【次元収納】から先代物資を取り出す。
俺たちの目の前でドサドサドサッ——という騒音が響きわたり、金属たちが雪崩のように溢れて、周囲の空間を隙間なく埋め尽くしていく。
その想像を超えた先代物資の量に、アイリは言葉を失っていた。
「…………。……はっ! ……えっ?」
一瞬意識が飛んでいたらしい。
しかし、意識を取り戻しても相変わらず混乱状態から回復できてない。
「昨日、俺が言ったこと覚えてるか? 俺のスキルで異次元に収納してるって。それでな……その容量が、とんでもなくデカかったんだわ」
俺は昨夜、スキルなどを試した後に施設内を散歩しつつ【次元収納】の容量も確認しようとした。
しかし、今でもまだまだ底が見えない状態だった。
ジラさん曰く俺の魔力やスキルの練度などに比例して大きくなるらしいのだが……。
これ以上広くなると聞いても、あまり喜びを感じないくらいには余裕がある。
ただ、あまりにも大きな物は収納できないということも発覚した。
散歩を続けているうちに施設を統括しているコアらしき物を見つけたのだが、縦横7メートル程の大きさだったそれを俺は収納できなかった。
それくらいが限界という事になる。
しかし、あのコアを収納していたら施設が崩壊していただろうと、後でジラさんから聞かされた時は焦ったわ。
収納できなくて本当に良かった……。
てか早く言えよ。
なんで試した後で言うのジラさん?
とにもかくにもだ。
俺の【次元収納】の中はちょっとした宝物庫のようになっていた。
一般的な冒険者が少しずつ運び出すであろうものを、たやすく持ってきているのだ。
ちょっと後ろめたい想いはある。
「アイリ……大丈夫か?」
「うん……。そっか。こんなに……。さすがに怒られないとは思うけど、なんか申し訳ないことしたかもね……」
アイリも少し、気まずそうな顔をしている。
で、でも4tトラックで3台分くらいだし……!
引っ越し業者みたいなもんだよ! うん!
「——引っ越しというより、状況から判断すると夜逃げに近いですね」
どっちでもいいだろ、そんなの!
「アイリ、この事は俺たちだけの秘密にしようぜ……! もう持って来ちゃってるんだしさ。【次元収納】のことも秘密にした方がいいだろ?」
我らがマスターにも、そっと悪魔の囁きを投げかける。
「……。うん! もう秘密にしたらいいよね! 早い者勝ちだよ!」
パッと顔を上げたアイリは元気な笑顔に見えたが……
その瞳にはどこか光が無いような気がした俺だった。
次回はアイリ視点の閑話となります。
短めで、読み飛ばしても問題ないです。




