陰鬱とした空気のなかで雨
気がついたら雨が降っていた。
深呼吸せずとも分かるほどに、独特な重く泥のような空気が満ち始めて、幾程も経たずに最初の一粒が僕の腕に落ちた。
家を飛び出したはいいが、その場から動けずにいた僕の、なんとも言い難い負の感情を後押ししているようだった。
次第に体は濡れていき、髪、肩、袖、腕、靴と順に雨が流れていくのがわかる。濡れた体に粒が溜まって、腕から手のひらに這い寄る雨の流れが鋭く僕を伝って、地面に逃げていった。
逃げたはいいが、また次が追ってくる。
そうして逃げ場を失った体は、もう濡れていないところが無いように感じた。
ここまで来ると、寒さを覚える。
雨の中を走りだした僕は、次第に体が温まることを願ったが、幾ら走ろうと体が熱を帯びる事はない。そればかりか、軽く触れた首や腹の、異様な冷たさが僕の不安を煽るだけだった。
口の中で雨を感じながらもただひたすらに宛てもなく走り続けた。目的も終わりもないこの家出は、この世の全てが僕の敵に回っているような気がしてならなかった。
救いがなくとも、僕は走り続けなければならなかった。
息苦しく呼吸したせいか、喉から血が混じっていそうな息が流れた。風邪気味で少し荒れていた喉に、追い討ちをかけてしまったため、息を整えるために雨よけのできる建物の、陰のある方へ逃げ込んだ。
止まってしまっては、更に体が冷えてしまいそうだったが、もうどうでもよかった。このままここで眠ってしまって、そのまま意識を失ってしまうのも、悪くないと思った。
帰りたくとも、帰れない。この終わりは全ての終わりを意味する。僕の自由を確立しておくためには、誰にも邪魔をされずに走り続けるしかないのだ。
ふと、手に残ってしまっている感覚を思い出した。
ゆるりと入ったそれは、遮るものが全くないような感覚で、本当に溶け込んでいったようだった。
生暖かな液体が、僕の手に返ってきたことも思い出した。不思議と嫌いではなかった。心地よいとは感じなかったが、それでも少しの達成感、使命感、絶望感、何より僕の意思が、ぐるぐる渦巻いて感じ取れた。
まだ雨はやまない。
もう
晴れることはない。