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はじまり

「僕は、このクラスでハーレムをつくりたいと思います!」


言った。僕は言った。臆面もなく言った。いやあったが、言う他はなかった。

言った後のことは、想像に容易い。言葉の意味が理解できない女子、軽蔑の目を向けてくる女子、我関せずと俯く女子。男子には意外とウケが良かった。


言う他がなかった事情は些細なものである。

中学卒業間近の頃、進学先も決まったあたりで僕は新しい学校生活に期待をしていた。というのも、中学3年間を共に過ごした悪友3人衆と同じ高校へ通うことになったからだ。何が悪いのかといえば、学力や素行不良などではない。ただ、ノリと勢いでごまかした、くだらない遊びや思いつきを僕に強要してくるのである。いや強要というより、仕組まれていると言ったほうがいい。

こんな経験はないだろうか。じゃんけんで少数派になった人が負けであったり、誰とも揃わなかったら負けという、暗黙の了解が成立しやすいゲーム。これに嵌められたことは数知れず。ついには3人ともがグーチョキパーらしからぬモノまで出してくる始末。手に負えない。


そんな悪友たちから受けた罰ゲーム内容が、「高校入学最初の自己紹介でハーレム宣言する」だったのだ。本当にくだらない。従う僕も僕だが。


 ホームルームが終わり、授業の合間に別クラスに居る悪友3人衆へ事後報告を済ませ、僕のクラスへ戻る。いやに扉が重たく感じたが、ドアの建てつけは問題なさそうである。気合いを入れて開けてみると、冷たい空気が僕の足元を這うように広がり、一気に背中まで駆け上がっては肩にずしりとのしかかった。

人間は動くものを目で追いがちである。ふと静かになった時に扉が開けば、誰もがそちらの方を見てしまうだろう。僕がクラス全員に見られているのもそういう理由であり、決して僕が不審がられているのではない。タイミングが悪かっただけなのである。そう思いたい。

とりあえず授業をこなした。初回の授業は、どこも導入や授業進行についての説明しかない。アイスブレイクをおこなうものは、コミュニケーション色の強いものだけだろう。だから真剣に取り組む必要はないのだ。

 僕の心理状況としてはありがたいものだ。未だに落ち着かないでいる。特に顔が。自分がどのような顔をしているのか鏡で確認したいほどだ。スマホの画面では、ブレて分かりにくい。


とりあえずお昼ご飯が食べられる。今日は母親製のシンプルな弁当だ。ただ、明日以降はもう作らないと断言されてしまったうえ、通学途中にコンビニはなさそうだった。つまりちょっと遠回りをするか、早く起きて自分で作るしかない。憂鬱だ。


僕が弁当の袋を開けたとき、クラスの扉は勢いよく開いた。


「やあやあ新入生の皆さんこんにちはー。花の高校一年生!いやー若いね!」


「部長、あんまり歳かわらないでしょ?」


入ってきたのは二人組の先輩女子。前者が先ほど部長と呼ばれた人。肩にもかからない短い髪が、空気を絡めとりながらうねうねと浮いている。天然によるものか、創作物かは見抜けないが、いかにも茶髪が似合う髪型である。

後者の先輩は部長よりも長髪で、つむじ辺りで縛られて一本になった髪が凛と存在感を示していた。

二人とも身長自体は一般的なもので、後者の先輩の方が若干高いくらいだろう。凛とした一本髪のせいかもしれない。しかし、先輩方のスカート丈はそれに反比例しているようだった。身長へのコンプレックスか、はたまた自信の表れか。


「ところでー、このクラスに面白い子がいるって聞いたからさ、知りたいんだが…」


とてもいやな予感がしました。


「どうやらこのクラスでハーレムを作りたいっていう健全な男子生徒がいるらしいじゃないか!誰かなー?」


クラス全員の視線が僕へ降りそそぐ。容赦がない。隠そうともしない。嘘偽りのないクラスメイトに恵まれて本当によかった。こんな状況でなければ、だが。


「はっはっは。ありがとう。では、そこの君、とっておきの招待状をあげよう。受け取ってくれたまえ」


つかつか寄ってきた部長は、僕の机にパンフレットを置いた。なにやら場所が書いてある。これは校内の教室案内図の様だった。この高校の全クラス、教科教室、体育館、部室棟まで、細かく書かれていた。これで移動教室に迷うことはないだろうが、一箇所だけ星の目印がつけられていた。


「それじゃ、授業後の部室で待っているよ。後輩くん」


「ちょっとだけでも、顔を出してくれると嬉しいな」


そう言って、先輩方は帰っていった。なにやら状況が掴めないが、とりあえず僕はまだクラスメイトに許されていないことだけはわかった。


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