猫の恩返し【9】
化け物が佐藤に襲い掛かる。
佐藤はそれをなんとかかわす。
しかし服の袖が化け物にかすりジュっという音を立てる。
わかっているとは思うが人の身でそれに触れれば無事ではすまされないぞ
バステトが佐藤に呼びかける。
だろうな
軽い火傷じゃすまされなさそうだ
近衛はぶつぶつと呪文の詠唱を続けている。
この手の魔術は術者と使い魔がリンクしているケースが多い
バステトが近衛に飛びかかるもその手前で見えない壁に弾かれてしまう。
やはり結界が張られているか
その使い魔を処理するしかなさそうだぞ
襲い来る化け物の攻撃を佐藤はなんとかかわし続けていた。
「バ、バステト様のほうでなんとかなりませんか!?」
佐藤は息を切らしながらバステトに向かって叫ぶ。
すまない、この身体ではそれに触れることすらできない
それは魔力を帯びた攻撃など特殊な方法で倒すしかない
特殊な方法…
佐藤は視線を部屋全体に移す。
ベタだけどこれしかないか
佐藤は化け物の攻撃をかわしながらじりじりと部屋の端に追い込まれる。
化け物の攻撃は特別速くはなかったが一撃でもかすったらというプレッシャーが佐藤に襲い掛かっていた。
クソ、怖すぎるぞ
ついに佐藤は壁際まで追い込まれる。
今までにないくらい心臓の鼓動が速かった。
それは今までずっと化け物から逃げ続けてきたからなのか、緊張のためなのかもはやわからなかった。
しくじったら黒焦げだな…
化け物が佐藤に襲い掛かる。
その瞬間、佐藤は部屋の片隅に設置されていた消火器の栓を思い切り引き抜き化け物に向けてレバーを引く。
化け物は一瞬よろめき、大きなうめき声をあげる。
化け物はゆっくりとその姿を消していった。
やったのか…?
佐藤はその場にペタリと座り込む。
まさかこんなにうまくいくなんてな
「ご主人様!」
いつの間にか目を覚ましたらしいタマが佐藤に駆け寄ってくる。
近衛はその場でがっくりと膝をついている。
「よおタマ、迎えに来たぞ」
タマが佐藤の胸に飛び込んでいく。
タマは目を真っ赤にして子供のように泣いている。
「ご主人様ぁ、怖かったよォ…」
佐藤は優しくタマに微笑みかけ頭を撫でてやる。
いつの間にか近衛正樹がふらふらとこちらに向かってきていた。
「珠代…。やっと、やっと会えた…。俺は君に会うためにずっと、ずっと…。」
どうやらタマに話しかけているらしかった。
珠代?
タマもきょとんとしていたがふと何かを悟ったような顔になる。
佐藤にはその顔がタマではない、誰か他の女性のもののように感じた。
「ご主人様。ちょっと待っていてくださいね」
タマは佐藤の耳元でそっと囁くと近衛のほうに歩みより彼を抱きしめた。
「ずっと、ずっと、愛してくれてありがとう。もう楽にしていいんだよ。私は死んで産まれ変わってもきっと君のこと忘れないから」
タマは近衛の頭を優しく撫でてやる。
やはり佐藤にはその目の前の女性がタマだとは思えなかった。
佐藤の知らない別の女性がいつの間にかそこに立っているような、そんな気がしたのだ。
男はいつの間にか気を失ってしまったようだ。
その顔はとても安らかなものだった。