猫の恩返し【4】
男はかなり興奮しているようだった。
話し合いは通じないかな。
男が佐藤に殴りかかる。
佐藤はそれをひょいとかわす。
「おい、落ち着けよ」
「うるせー!こそこそ嗅ぎまわりやがって。本は絶対渡さないぞ!」
本?
男が再び佐藤に殴りかかる
佐藤はそれを再びかわす。
そのまま流れるように佐藤のこぶしが男のみぞおちに直撃する。
男はその場にばたりと倒れ込んだ。
「ご主人様!」
タマが佐藤のもとに駆け付けてくる。
「ご主人様大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないよ」
「ご主人様、すっごく強いんですね」
「…。まあ仕事柄な」
こいつがそこまで強くなかったってのもあったけど
そういえばこいつ、本がどうのとか言ってたな
佐藤がちらりと男のほうを見やると懐から本がはみ出しているのが見えた。
これのことかな
佐藤はその本を手に取った。
その本には、見たことのない文字でタイトルが書かれていた。
また表紙には何かの印が刻まれていた。
変な本だな
この文字も印も見たことないぞ
……!!
そこで佐藤は突然頭痛に襲われる。
なんだよこれ!
頭痛は止まらない。
佐藤の頭の中に何かが流れ込んでくる。
「ご主人様?大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ」
佐藤は本を懐にしまう。
頭痛はいつの間にかしなくなっていた。
早くこの本を安全な場所に隠さないと
とりあえずは俺の家か
佐藤は自宅へ向かおうとする。
「ご主人様、その本どうなさるんですか?それにこの男も…。警察に連絡したほうがいいのでは?」
「うるさい!」
タマがビクリと身を震わせる。
「俺はこの本を守らないといけないんだ。飼い猫の分際で俺に指図するな!!」
「え……。その、ごめんなさい……。」
タマは佐藤の剣幕に圧倒されたようだ。
佐藤は早足で自宅のマンションに向かう。
タマは怯えたようにトボトボとそれについていく。
なんだ、何かがおかしいぞ。
どうして俺はタマにあんなことを?
どうして俺はこの本のことをこんなに、こんなに欲してしまうんだ?
この時、佐藤とタマは気がつかなかった。
一連の騒動、佐藤が本を手にしたことを黄色いローブの集団が見ていたことに。