猫の恩返し【2】
とりあえずタマには俺の服を着せた。
ええと、まとめるとあの猫の夢はほんとのことで、俺は猫殺しの犯人をタマと協力して見つけないといけないってことか...
佐藤武はタマに言われて、近くのごみ置き場にゴミを捨てに行くところだった。
「まぁなるようになるか」
彼は楽天家だったのだ。
ごみ置き場の近くで彼は一人の男性とすれ違う。
どこか陰鬱な雰囲気の人物だった。
なんかここらでは見ない顔だな
そんなことを考えながらごみ置き場につくと、一つの違和感に彼は気づく。
そこに花が供えられていた。
ああ、そういえば何年か前にここら辺で事故があって、女の人が一人亡くなったんだよな
去年も確かこのくらいの時期に花が供えられてたっけ
彼はゴミを捨ててその場を後にする。
家に着くとタマが朝食を用意してくれていた。
「ご主人様、お帰りなさい。」
「ただいま」
ただいまなんて誰かに言ったのは久しぶりだ。
それに誰かと朝食を食べるのも...。
ぼんやりしながらみそ汁をすすっているとタマが不安そうに顔を覗き込んできた。
「はじめて人間のご飯を作ったのですが、おいしくなかったですか?」
佐藤はハッと我に返る。
「いや、うまいよ。うま過ぎて感動していたんだ。とくにこの鮭の塩焼きは絶品だ」
タマはホッと胸をなでおろす。
「よかった。私、魚にはうるさいですから」
そういえばこいつ、ちょっといい餌を買ってやるとすごい喜んでたっけ
タマは嬉しそうに鮭を口に運んでいる。
佐藤はタマの顔をじっと見つめる。
こう見るとほんとに普通の女の子だよな
ちょっと不思議な雰囲気はあるけどけっこう可愛いし
「そういや、なんでみそ汁とか人間の料理が作れるんだ?」
「さあ、なんででしょう?キッチンに立ったら身体が勝手に動いたんです。」
「ふーん」
お世辞ではなく朝食は普通においしかった。
その後二人で食器を片付けてから佐藤は改めてタマと話をする。
「えっと、確か猫殺しの犯人を探せばいいんだよな」
「はい」
「タマはなにか知ってることはあるか」
タマは少し表情を曇らせる。
「えっと。バステト様のお話ですと、現在仲間が7匹被害にあっていて、そのうち3匹はズタズタに引き裂かれた姿で見つかったとか」
バステトというのが夢に出てきた猫のことだった。
タマは悲しそうな顔をしていた。
「まだ行方不明の何匹かはこの近くのお家に住んでいたらしいです」
「なるほど、とりあえず飼い主に話を聞いてみるか。なんか探偵みたいでドキドキするな」
「ご主人様、今日はお仕事いいんですか?」
「ああ、今日は休みだ」
佐藤はタマと一緒に外に出た。
近くの公園でよく話をしている主婦の人達がいるからそこで聞いてみよう。
公園には40代くらいの女性が二人いた。
「すいません」
「はい、えっと何か?」
女性は突然話しかけてきた佐藤とタマを少し警戒しているようだ。
「最近この辺で猫が行方不明になってるって聞いて。自分のところの猫も昨日から帰ってこなくて。心配でこの辺の人に話を聞いているんです」
事前に用意していたセリフだった。
二人は警戒を少し解いたようだ。
「あら、それはお気の毒ね。実はうちの猫もずっと帰ってこないのよ」
「そうなんですか。」
佐藤はちらっと視線をタマのほうにやる。
タマは小さく頷いた。
「そうなの。私もすごい心配で、最近探偵さんにも捜査をお願いしたのよ。あなた達も行ってみたらどう?」
「なんていう探偵さんなんですか?」
「駅の近くに事務所がある九条という人よ」
女性は詳しい場所を佐藤に教えてくれる。
「ありがとうございます。早速行ってみます。お互いにすぐに猫が見つかることを祈りましょう」
佐藤とタマがその場を立ち去ろうとした時もう一人の女性が彼らを呼びとめる。
「ねえ。大きなお世話かもしれないけど、最近夜になると妙な恰好をした連中がこの辺をうろついてるから気を付けて」
「妙な恰好?」
「うん。なんか黄色いローブみたいのを被った連中。そっちのお嬢ちゃんとか可愛いから用心しないとだめよ」
「はい、忠告ありがとうございます。気を付けます」
黄色いローブの連中ね...
ふたりはとりあえず教えてもらった探偵事務所を訪れることにした。
九条探偵事務所は駅の近くの目立たない一角にあった。
佐藤は一度深呼吸をしてから扉に手をかける。
佐藤が先に建物の中に入るとそこに一人の女性が立っていた。
非常に美しい女性だった。
長い黒髪、はっきりとした目鼻立ち。
女優やモデルだと言われても違和感はないだろう。
「やあ、いらっしゃい。何か依頼かな」
彼女は佐藤にそう話しかけてきたが、後から入ってきたタマを見るとすぐに表情を曇らせた。
「それは一体なんだ?」