新たな迷宮
ザクッ、ザッ、ドスン!
ザクッ、ザッ、ドスン!
「先生~!手紙が届いてます!」
一人の子供が走ってくる。
「手紙?なんの手紙だよ!
今、街の手伝いしてんだぞ?
雪掻きしててそこは危ないから退いてろ!」
先日大雪が降り積もり屋根に押し潰されそうな
家を見つけてトキは無償で雪掻きをしていた。
「でも先生?ラジュマ王国の刻印の手紙ですよ?」
「あー?ヤード?もう一回言ってくれ
雪の落ちる音で聞こえなかった!」
「だから!王国の手紙ですよ!」
「王国の手紙?ちょっと待ってろよ!」
トキは10mの高さから普通に飛び降りる。
ドサッ!
「・・・」
「・・・」
トキは落ちる場所を間違えて雪山に落ちてしまい
顔だけが出て孤児院の子供のヤードと
目が合い互いに気まずい雰囲気になった。
トキはバッと手を出して手紙を寄越せと
ジェスチャーしてヤードから手紙を貰う。
トキは雪だるまのまま手紙の表面を見る。
「本当にラジュマの刻印が押された蝋だな?」
「先生今見るならペーパーナイフ持ってますよ?」
「おお、用意が良いな!
済まないが開けてくれないか?
その間に抜け出すから」
トキは手紙をヤードに戻す。
手を雪の中に入れ戻して
平泳ぎの手のように掻き分けながら出てくる。
出終わると魔法で体を乾かして
ヤードから中身を貰い見始める。
「何々…サミンからだな?
新しく王国内に迷宮が出来たと・・・
ふぅん・・・迷宮の攻略依頼か・・・
これってパス出来るんだっけ?」
「無理じゃないですか?
王国直々の手紙ですし…
王国から手紙を受けて無視する考えを持つの
先生だけですよ?」
「だってよ?この雪掻きしなくちゃいけないのに
何、迷宮攻略しろって言ってんの?って話だろ?
もっと地方を見ろって話だ!」
「それを言ったら各地に貴族を置いて
統治させてる意味ないじゃないですか!
一応報告は受けてるとは思いますけどね?
そもそも先生は冒険者ですからね?」
「冒険者だからって拠点を蔑ろにする
馬鹿がどこにいるって話だ!
雪掻きだって大事な仕事だろ?
依頼受けてねえから無償だけどな?
それよりも順序がおかしくないか?」
「順序ですか?」
「普通は王国から地方の貴族に連絡してから
貴族から冒険者ギルドいって
そこで暮らしてる冒険者へ依頼だろ?
これって順序飛ばして俺に直通だろ?
俺が信頼されて直接依頼するのは嬉しいが
俺が各方面に顔出ししていかないと行けない事案だろ?
んなめんどくさい事をやらすなって話だよ!
それなら俺が雪掻きしてた方が
べラムの役に立つだろ?」
「先生?凄い饒舌ですけど本音は?」
「寒いからべラムから出たくない!」
「・・・ですよね~」
トキの自信満々に答えられた答えに
相づちを打つしか出来ないヤード。
そんな二人に一人の警備隊が駆け寄ってくる。
「トキくん!ここにいたのか!
クリプス辺境伯が呼んでるから来てくれないか!」
「え~めんどくさいから無視したら駄目?」
「そこをなんとか…そんな事したら
私が職務怠慢で解雇されてしまうよ…」
肩で息をしながら御願いする警備隊隊員。
「ちなみに用件とか聞かされてるか?」
「用件は王国関連としか聞かされてないよ?」
トキは手に持ってる手紙を上げて
「・・・これだよな?」
「それですね…」
トキとヤードが手紙を見て互いに頷く。
「仕方無いか・・・ヤード?
ヴァイス達に冒険者家業に入るかも知れないからと
伝えて来てくれないか?」
「入るかもじゃなくて準備するように伝えてきますね?」
「ああ、そうだな。頼むよ」
ヤードは警備隊の人に挨拶してから
孤児院へと戻っていく。
「さて俺達も行くか!
それとも少し休憩してから行くか?」
「私は歩いてたら戻ると思うから心配ないよ!
では行こうか!」
トキは警備隊隊員と共にクリプス辺境伯の元へと向かった。
トキが警備隊の案内でクリプス辺境伯の家まで
向かうと途中で使用人と交代して
執務室に案内される。
コンコンコン。
「入って良いぞ!」
「はい。失礼します」
使用人が扉を開けると
執務室の机の前にスーサ=クリプス辺境伯が座っている。
前のソファーには
冒険者ギルドのギルド長ハリーと・・・
「やあ!トキくん!久しぶりだね!」
「何故手紙の差出人がいるんだ?サミン?」
ハリーの隣にサミン=ラジュマ。
ラジュマ王国の第2王子が座っていた。
「まあまあ、そんな事気にしなくて良いから
入ってきなよ!」
「お前が言うんじゃなくて
スーサが言うんじゃないのか?
その言葉はよ?」
「細かいことは気にしないで!
立ってるのもあれだから
ソファーに座りなよ!」
トキはため息を吐いて執務室に入り
反対側のソファーに座る。
トキは正面を向くとハリーが強ばっているのが分かる。
・・・隣にいるの王子だしな・・・
内心で強ばってる理由を理解してると
「手紙は読んでくれたかな?」
サミンから声を掛けられる。
「王国に迷宮が出来たって案件のやつだろ?
正直無視して雪掻きしようと考えてたぞ?
迷宮が出来たからって俺を呼ぶなよ。
他にも冒険者はいるんだから
そこから呼べば良かったろ?」
「そうなんだけどね・・・
今回の迷宮が僕らが会ったあのバルハラ平野と
言ったらどう思うかな?」
「バルハラ平野?
あそこに出来た迷宮は全て破壊しただろ?
それを調査して確認したのお前らだろ?
王国軍が砦と森と街の残骸を
確認したの知ってるからな?」
「そうなんだけどね?でもまた出現してね…
色々な冒険者や軍が派遣されたが
成果が出ない所か帰還しなくてね…
それを知った王国の貴族や軍上層部が
ちゃんと調査してないから出現したと
擦り付け合いし始めてね?
最終的に君が破壊出来てなかったのでは?
と話が進んでしまったんだ。
なら、迷宮核を破壊した本人に
再度向かわせたら良いだろ?と
話が決まってね…
それで知り合いでもある僕が連絡をとるように
父様から言われて手紙を出したんだよ…」
サミンが納得いかないような顔をして
説明を行う。
「で?サミンがいる理由が出てなかったんだけど
何故ここにいるんだ?」
「迷宮破壊を見届けろと言われてね…
ラゼとリファイと共に来たんだよ。
今、2人は僕の腹心として付いてるからね。
まさか手紙と同時に着くとは
思いもよらず驚いてるけどね?」
「大変なんだな?王子ってもうちょっと
王都に居座っているイメージがあったんだが?」
「以外と各所に視察として飛び回ってるよ?
ストレイのお陰で視察の担当領土が増えて…
あ、元々べラムは僕の視察領域だからね?
本来なら国の視察官が出向いて見るんだけど
ラジュマでは統治の勉強にと王子や王女が
視察するようになってるんだよ!
だから今は43の貴族の内、10の貴族の領土を
視察するようになったんだよ…」
「ん?何人王子や王女が居るんだ?」
「王子は僕までの2人。
王女は第3までいるよ。
6人から5人に減ったから増えて増えて大変だよ?
統治して視察する領土も歳によって変わるから
一番下の第3王女のメルが7歳だから
4つの領土を見てるよ。
ちゃんと文官や補佐官が補助してるから
大丈夫だけどね!」
「7歳の子供が視察するのかよ!?あり得ねぇ!
うちの孤児院でも小さな仕事しか与えてねえぞ?
規模が大きすぎるし何かあったらどうすんだよ!?」
「何を驚いてるんだよ?
この国では当たり前の常識だよ?」
サミンからの言葉に衝撃を受けて非難すると
常識だと言われて目眩がしそうになる。
額に手を当てて「あり得ねぇ」と呟き続ける
トキを見て不思議に思っているサミン達。
「あぁ、そう言えばトキくんは
ここ2年以内にべラムに来たんだったね?
知らなくても仕方無いのかな?」
スーサがフォローに回るがトキは納得がいかなかった。
いくらなんでも幼すぎる。
地球で言えば小学生が大きな会社の社長してるものだ。
それなりの組織を作っていても
末端まで見れるかと言えば見れない筈だ。
そう考えてるトキに対して理解が出来なかった。
悪事が働いてて上を味方につけてたら
いくら小学生だろうとわからない。
頭が回る子供だろうが無理だろうと考える。
だがトキは深呼吸して思い出す。
ここは地球じゃない。異世界だと。
凝り固まった考えでは駄目だと
柔軟な思考を持てとスーサイドで学んだ筈だ。
更に深呼吸して理解する。
納得はしないが理解はした。
「済まない…理解したから大丈夫だ…
で?迷宮にはいつまで破壊をすれば良いんだ?」
トキは深呼吸して話を進める。
「期限は半年以内にとなっている。
冬の時期に働く機会が増えた冒険者の要望を
受けての期限だ。
入口までなら問題なく帰れるからと
実証して見せたから春が過ぎるまでにはと
会議で決定したよ」
「ん?さっきの言ってた事と矛盾してないか?
冒険者や軍が派遣されたが帰還しなかったから
俺に連絡したんだろ?」
「手紙を書いた時はそうだったんだけど
僕がべラムに向かう時には入口までならと
実証出来たんだ。
奥まで行かなければ問題ないと判断されたよ?」
「なるほどな!時間差が発生したから
矛盾は起きないと言うことか?
ちなみに手紙出したのはいつ頃なんだ?」
「僕たちがべラムに向かう1週間前だね!」
「スーサ?その配送屋呼んでこい!
職務怠慢で説教してやるから!」
トキは青筋を立ててスーサに告げる。
「いくらなんでもあり得ねぇだろ?
差出人より早く着かんとおかしい手紙だろうが!
それが本人と同時に来るなんてその配送したやつは
ふざけてるとしか言えねえだろ!
きっちり配送とは何か叩き込んでやる!」
「まあ、落ち着いてくれないか?
その配送人が誰かも分からないし
もういないだろうからさ?
今は怒りを抑えてね?」
スーサが言葉で宥めてハリーが体を抑えて宥める。
「いや?いるだろ?ついさっきだぞ?届いたの!
つまり匂いが残ってる筈だ!
シル呼んで捕まえてやる!」
トキは奮起して立ち上がり外に出る。
スーサ達はもう押さえるのは無理だと判断して諦めた。
その後孤児院にてシルが犯人を見つけては
トキが説教する声が響いた。
そしてサミン達は出発するまでトキの孤児院で
預かる事となったのは3時間の説教の後だった・・・