迷宮「街」
トキ達が森を徘徊していた頃・・・
フィル、ブラッド、アーニア、ルティが街で
別行動していた。
「ここは俺らの街だぞ!壊させてなるものか!」
「そうよ!追い出してやるわ!」
「魔物にやられてたまるか!」
「皆のもの!掛かれぇ!」
「うおぉぉぉ!」
アーニア達は街の住人に追いかけられている。
迷宮で無人である筈の街の中。
箒や鍋を持って襲い掛かり、石など投げてくる。
「なんでこうなったの~?」
アーニアは走りながら呟く。
数分前・・・
アーニア達は街の入口に居た。
街には壁で囲われており、
見える範囲で石造りのドーム型の家が並ぶ。
街の奥には同じく石造りの大きな四角い建物がある。
キマイラは未だに反乱軍のところで暴れている。
「キマイラがいない今がチャンスみたいですね?」
「そうみたいだね…戦いたかったけど…」
「某も同意ですが今は迷宮を壊すのが先です」
「キュイ!」
「ルティも言ってますし街に入りましょうか!」
アーニア達は街に入る。
歩きながらアーニアはフィルの違和感に疑問を抱く。
「あれ?殿付けないの?」
「いい加減外せと主殿…主から言われました…
殿はもう飽きたと…他の方も呼び捨てにしろと…」
「某も様は付けなくていいと申されました…
忠誠心あるのは良いがそろそろ恥ずかしいからと…」
「ん~・・・でも私は言われてないよ?」
「殿とか様は特殊な呼び方ですからね?
貴族と間違われたくないんでは?」
「そう言えば貴族には様を付けろと言われたっけ?
でもトキくんは付けてないのは何故なの?」
「会ってる貴族は主に怒られてますからね…
主の中で上下関係が出来てしまったのでしょう」
「なるほどね…でもゾラム侯爵は侯爵付けてるよ?
しかもファミリーネームだよね?」
「それは拠点としてるべラムと重なるからでしょうね。
ちなみにファーストネームはラベルですよ!」
「ラベル=ゾラムか!ラベルってメリルに似てるね?」
「だからゾラム侯爵って呼んでるんでしょうね」
他愛ない話をしてるとブラッドが立ち止まる。
そして近くに落ちてる石を拾い周囲を見渡す。
「やっぱり敵が居た?」
「居ますね…ただ敵意ってよりも怯えに近いです」
「キュイ?」
「キマイラがいるからじゃないのかな?」
「キマイラは外ですよ?
明らかに私達に怯えてる感じですね…」
「そうなの?酷いなあ。
愛らしい狐がいるのに?」
「キュゥ…」
「落ち込むのは後にしましょう。
相手が何もしなければ今は核を破壊しましょう!」
ブラッド達は感じる気配に気を配りながら
街の中を探索する。
家の中を見ると生活感溢れる光景があった。
「ここって出来たばかりの迷宮だよね?
人なんて居ないのになんで
スープが煮込まれたまま置いてあるの?」
「怯えてる気配と関係があるんですかね…
私にも分かりませんが先を進みましょうか!」
「キュイ!」
ルティは子狐状態の為フィルの背中に乗っている。
アーニア達は進んでいくと奥にある大きな
石造りの建物の前にたどり着いた。
「ここだけ大きいね?」
「キマイラの住み家じゃないですか?
入口も大きいですし」
「キュイ!」
「ルティが獣の匂いがすると申してます」
「んじゃキマイラはここから現れたのか!
そう言えば迷宮核ってどんな形なの?」
「アーニアさんは知らないんでしたっけ?
以前ホウリョで見たときは丸い形してましたね!」
「キュイ!」
「丸い形ねぇ…建物を見ても空洞で何も無いよ?」
石造りの建物は壁と屋根があるだけで
中は何もなかった。
「うーん・・・もしかしたら普通の迷宮と
違うのかも知れませんね?」
「どう違うの?」
「キュイ?」
「以前のホウリョなら台座みたいなのがありましたが
ここは元々普通の平野ですからね?
地面に埋まってるのかも知れません」
「地面か~・・・なら真ん中にあるかもね?」
「どうしてですか?」
「女性の勘?」
「勘ですか・・・まあ、なんの考えもないので
街の中央に行ってみますか!」
アーニア達はキマイラの住み家から離れて街の中央に
歩いていくと周りからガサガサと音が聞こえ出す。
「あの気配かな?」
「かもしれませんね…某が攻撃をしましょうか?」
「今は様子見しようか!
まだ襲ってくるとは限らないし?」
「分かりました」
アーニア達が歩いてると
「あれ?入口から真っ直ぐ歩いて戻ったのに
噴水が出来てるよ?」
「本当ですね?行きは無かったのに…」
「キュイキュイ!」
「ルティが噴水の先をみてくださいと言ってます!」
「噴水の先って出てるところ?」
「キュイ!」
ルティに言われるまま噴水を見ると
噴水の先端に丸い形の水晶が存在する。
「もしかして・・・核かな?」
「かもしれないですね!
早速破壊を・・・」
「ちょっと待ったああ!」
アーニア達は声のする方に顔を向けると
犬の頭で人の体をした魔物。
コボルトを発見する。
「お前ら・・・街を破壊するために来たのか?」
「私達は迷宮核を探してるだけだよ?」
「探してどうするつもりだ?」
「なんでそんな事気になるの?」
「街を破壊されたくないからだ!
俺達の住み家を荒らすやつは許さないからな!」
「元々から住んでないのに?」
「俺達はこの街で生まれたんだ!
守るのは当たり前だろ?」
「ってことは・・・フィル?相容れないのかな?」
「そういうことになりますね…」
「そうか・・・なら仕方ないな?
皆のもの集まれぇ!」
1体のコボルトの声に同調して
噴水の回りに沢山のコボルトが現れる。
ゴールデンレトリバーの顔やドーベルマン、
チワワの顔したコボルトがどんどん現れる
全体で1mぐらいの大きさ。
「皆のもの!よく聞け!
この者達は私達が探し当てた住み家を奪おうと
壊そうとする者達だ!
そんな横暴が許されていいのか?
許されるわけないだろう!
ならどうする?戦おう!
街の守護神であるキマイラがいない今、
我らが戦わずして誰が戦うのだ!
同胞たちよ!武器をとれ!
なんでもいい!追い払えるものならどんなものでも!
手に取り我らが住み家を守ろうではないか!」
1体のコボルトの声に耳を傾けたコボルト達は
一瞬静まり・・・
「うおぉぉぉ!」
喚声を轟かせる。
中には犬の遠吠えをするものまで現れた。
コボルト達は一度家に戻り色々と手にして集まる。
鍋の蓋や箒、包丁を手に取り
アーニア達に視線を集める。
「これって不味いよね?」
「不味いですね…」
「キュゥ…」
アーニア達は雰囲気で察する。
これは逃げないと不味いと・・・
「皆のもの掛かれぇ!」
「うおぉぉぉ!」
コボルト達が一斉に襲い掛かる。
「この数は戦えますが・・・」
「逃げよう!」
「キュイ!」
「同意!」
アーニア達は逃げ出した。
冒頭に戻る。
アーニア達は入口付近まで逃げていた。
「ブラッド!石持ってたよね?
私達が足止めするからそれで狙える?」
「狙えますがいつもより緊迫感ありますよ!
噴水の先を狙えるかどうか…」
「的が小さくても狙うのがブラッドでしょ!
私達も頑張るから!
一回じゃなくても良いから!
落ちてる石を拾ってやり直せば良いだけでしょ!」
「その通りですよ!ブラッドならやれます!」
「キュイ!」
「皆さんが言うならやって見せます!」
アーニア達は立ち止まり武器を取り
コボルト達へ反撃を始める。
ルティもオクタマーブルテイルへと変化して
足止めに専念する。
ブラッドは深呼吸して的を定める。
風は若干東風。
距離は100m。的は5cm。
ブラッドは集中して大きなバットを
手に取りスイングを始める。
ドクン・・・ドクン・・・
自分の鼓動が高鳴り早くなるのが聞こえる。
それほどまでに緊張しているが
今まで通りで良いと自分に言い聞かせて
的を再度見つめる。
ブラッドは持ってる石を高く上に投げて
自分のバッティングフォームを作り出す。
石が落下したときに足止めしていたアーニア達の隙間から
コボルトがブラッドへと向かい始める。
ブラッドはコボルトに目を向けず落下してくる石に
集中する。
残り5m。コボルトが接近した時に石が
ブラックベリーのみぞおち部分に落下して
ブラッドはフルスイングする。
フルスイングの衝撃に倒れるコボルトを気にも止めずに
ブラッドは石の弾道を確認する。
真っ直ぐ翔んでいく石を見て
噴水の先端に当たり
ガキーン!
音を立てて水晶が壊れた。
戦いが一瞬止まり住人達は一斉に振り向く。
音のした噴水のへと。
噴水の先端にある核が破壊されていた。
不安と焦燥に駆られ噴水の方へと走っていく住人。
だが噴水の水が止まり先端の水晶が
少しずつ霧散していく。
「ああああああ・・・早く、早く集めないと!」
一人のコボルトが噴水のある水辺に飛び込む。
その光景を見たコボルト達は同じように飛び込む。
「あったか?」
「いや、こっちにはない…」
「あった!一欠片見つけた!」
「・・・嬉しいが時間のようだ…」
街が崩れていく・・・
コボルト達の姿が薄くなっていく。
街の外に避難していたアーニア達はその光景をみていた。
「これって?」
「迷宮核が破壊された影響でしょうね…」
フィルがアーニアの疑問に答えた。
街の中では悲鳴が上がる。
「消えたくないよおー」
「私達が何をしたんだ!」
「子供だけでも・・・あぁ消えていく・・・」
「入口に行くんだ!もしかしたら…」
「駄目だ!透明な何かに塞がれている。」
「出れないのか?」
「あぁ・・・足が…手が…」
街の崩壊と共にコボルト達が嘆く。
出ようとしたコボルト達は入口に着き
手を伸ばすと透明な壁に当たり手を伸ばすと弾かれる。
「畜生…ここまでなのか…」
「また一人消えてしまった…家の崩壊と共に…」
「てめえらが・・・来なければ
俺達は安全に暮らしてたんだ!
それなのに・・・」
「おいお前!もう・・・」
「あぁ…地面に倒れるだけの存在だよ…
足が消えてしまったからな…」
「消えるな!もうお前と俺しかいないんだぞ!」
コボルトは残り2体となりどちらも支えあっている。
街の崩壊も終盤へと進んでいく。
一つ二つと家が崩れ、壁も崩壊していく。
残った2体は観念し悟ったのかアーニア達に告げる。
「君達の正義が勝ったようだな?
だが忘れないでくれよ?
我々が居たことを・・・」
「さよなら・・・」
ガラガラ・・・ガッシャン!
「ウオオオオオ!」
キマイラも雄叫びを上げて消えていく。
キマイラが消えていくことに喚声を上げる反乱軍。
「ねえ?フィル?私達がやったことは
正しかったのかな?」
「私にも分かりませんが誰かの犠牲の上に
誰かの正しさがあると感じましたね…」
「キュゥ…」
「私達は迷宮の破壊が正義だと思っていた。
それは主も変わらないでしょう…
ただ想定外が存在したと考えるしかありませんね…」
「某は・・・忘れ無いでしょうね…
この手で起こした出来事を…」
アーニア達は街の崩壊を見ながら考えた。
どこか遠い悲劇を間近で見させられた。
そう思わせる崩壊が目の前にあり
その光景が一瞬で消えた・・・
アーニア達は迷宮核の破壊を無事に完了したが
後味が残る結果にただ立ち尽くしていた。
「行きましょうか・・・最後の砦へと」
「そうだね…トキくん達も向かってるだろうし?」
「キュイ!」
「某も同意です!では行きましょう!」
アーニア達は最後の迷宮砦へと向かって走った。
途中でマンモスに乗っているトキ達と合流して
トキ達全員で砦の破壊に向かった・・・