お姫様、魔王城から脱出する
私、悪い魔王に捕まってしまいました。
どうかお助け下さい。
かしこ
「これでいいでしょう」
「ふん、最初から素直に書いていればいいものを」
「さぁ、早くお部屋にお戻し下さい。こんなむさ苦しいところにいたくありませんの」
「……おい、部屋まで丁寧にお連れして上げろ」
「かしこまりました」
「女中に案内させるだけまだ評価できますわね」
「言ってろ。お前は勇者をおびき寄せる餌なのだ。しばらくは好きにさせてやるが、立場をわきまえろ」
偉そうな口を……
「おい、その女をさっさと連れて行け。目障りだ」
「さぁ、お姫様、こちらへ」
女中に連れられ城の一番奥の部屋へ。
「用がありましたらそこのベルをお鳴らしくださいませ」
「でしたら果物と切るものをご用意してくださらないかしら」
ちょっと小腹が空きましたので。
「……かしこまりました」
女中は何かを考えているようでしたが、持ってきてくれるみたいですね。
私がこの魔王城に連れ去られてどれだけの日が経ったのでしょう……
お父様は心配されてないでしょうか。
しかし、閉じ込められる日々も今日までです。
反撃……とまではいきませんが、脱出くらいしてみせましょう。
「後世には囚われた際の脱出方法を伝授すべきでしょうか……」
私がどう伝授すべきか考えていると、
「あー……お姫さん、言われた通り持ってきたぞ」
「あら、さっきの女中さんではないのですね」
「俺は見張りだ。一応お姫さんだからな、ナイフで怪我でもさせちゃいけねぇし。一応王様からは自由にさせてやれって言われてるし」
「中々気が効きますのね」
「褒め言葉として受け取っておこう。俺はここに立っているが……まぁ、気にすんな」
そう言って見張り役の男性は部屋の隅に立ちました。
ふむ……そうなると、プランBですね。
「1口如何です?」
「仕事中なんでな」
「私は自由にさせてもらえるのでしょう? でしたら差し入れも自由では?」
「……他の連中には内緒だぞ?」
私が一口サイズに切った果物を皿に盛り付け、それを渡します。
それを受け取り口に運ぼうとしたその瞬間
チャンス!
「……おいおいお姫さん、コイツはどういうこった?」
私は前からナイフを彼の首に押し付けますが、動じる気配はありませんね……
「見ての通り人質に取るのですわ」
「あのなぁ……俺はこう見えて騎士だ。毎日訓練してるし、言っちゃ悪いがお姫さんにナイフを押し付けられても怖くねぇんだわ」
「ですが、血が出るのならば痛みを感じるのでしょう?」
「……何が言いたい」
「知ってます? 筋肉を鍛えて身体が強くなっても柔らかいところはひたすらに柔らかいのですよ」
そう言って私は首に押し付けていたナイフを移動させ、
「ぐぁぁ!」
目玉を思いっきり刺しました。
「こ、この!」
「まだ片方もあるのですよ。それともどうします? 私の人質になってくれます?」
「例え片目になってもお姫さんくらい制圧できるぞ?」
「でしたら残念です」
「あ? 今横から声が」
「あなたの片耳頂きますわ」
そう言って私は見えなくなった目の近くの耳に思いっきりナイフを突き立てます。
正確には耳の穴に。
「がぁぁぁ!」
「片目、片耳。女だからといって侮りましたわね」
「クソッタレ!」
「では交渉再開です。私の人質になってもらえます?」
「……何をすればいい」
「簡単なことです。私を庭まで運んでもらいたいのです」
「その程度頼めばよかったじゃねぇか」
「いいえ。頼んではダメなのです」
なにせ、私の腕には魔力を封じる封印の枷が施されていますので。
「これがありますからね」
「あぁ、そういうことか」
「例え片目になってもあなたならこれを断ち切ることくらい余裕でしょう?」
「簡単に言いやがる。誰がこんな目にしたんだっての」
「さぁ? 何のことでしょう」
「……お前の要求はわかった。次はこちらの要求を聞いてくれ。無視しても構わん」
「私の要求を聞いて頂けますもの、それくらい余裕ですわ」
姫たるもの部下の声に耳を傾けなくてはいけません。
「中庭まであんたを運んだら……俺を殺してくれ」
「どうしてですの?」
「耳が聞こえない、目が見えない、そんな騎士なんぞ必要ない。元より俺は騎士として王に死ぬまで務めるつもりだった。が、それも今日までだ。最後くらい騎士として死なせてくれ」
「……でしたら、私の部下になるのはどうでしょう?」
「は? お姫さんの部下にだ?」
「えぇ。お父様に頼めば恐らく、お許しが出る上にあなたのその怪我も治してくれることでしょう」
「ちっ、だから誰が……まぁいい。どうせ俺は騎士として失格だ。それなら次の仕事場くらいあってもいいか」
「それでは」
「あぁ、よろしく頼むぜ」
まぁ、あなたが騎士として死ぬことに変わりはないんですが。
「おい、本当にこれでいいんだな?」
「私の魔法をなんだと思っているのですか? 大丈夫です、誰にも見えません」
私は透明化の魔法を使い、騎士の背中に背負われています。
魔法の腕なら国で右に出るものはいないと言われている私の実力を信じるのです。
「はぁ……ならいいが。部屋から出るぞ」
「かしこまりました」
部屋から出た途端両端に見張り役の騎士が2人立っていました。
「騎士長殿! 用事は終了ですか?」
「あぁ、終わったよ。俺は女中に報告するのとこの皿とナイフを返さないといけなくてはな」
「あぁ、でしたら私が返しておきます。丁度交代の時間でして」
「そうだったか。いつもご苦労さん」
「いえ! この程度なんともありません!」
「んじゃ、頼んだぜ」
血はしっかり拭った上に幻術で血の匂いを果物の匂いに変えていますので、問題ないはずです。
さらに騎士に幻術をかけ、至って普通の見た目にしておりますので、誰も疑っていませんね。
しかし……この男、意外と人望がありましたのね。
「おい、お姫さん。ご要望通り、中庭に着いたぞ」
「ご苦労様です。それではあなたの要望を叶えましょうか」
「あぁ、騎士として終わらせてくれや」
……少しだけ、少しだけ惜しいと思ってしまいましたが、仕方がありませんね。
「……これで終わりですわ」
痛みを感じる隙すら与えず死を与える。
魔術の中でも邪道。
本来であれば犠牲が必要なのですが、私だからこそ使える術。
「……さて、あとはお父様を呼ぶだけですわ」
あとはどうなろうと私の知ったことではありません。
「覚悟しろ、魔王!」
「クックックッ……魔王とはそちらの王のことではないか? 人間の勇者よ」
「なんだと……!」
「我が愛しい娘を誘拐したのだ。報復されることくらい余裕で思いつくことであろう。なぁに、あの程度報復とも言えんわ」
「国1つ潰しておきながら……なんということを!」
「お父様、戯れはその辺にしておいてくださいな」
「おお、我が愛しい娘よ。そうであったな。我が相手をしてやってもいいのだが……この男が、いや元人間がどうしてもお前の相手をしたいと懇願してきてな。こやつに勝てたその時我が相手してやろう」
「よう、久しぶりだな、勇者。ちっとは強くなったか?」
「なっ……どうしてあなたが! どうしてあなたが魔王の側にいるのですか、騎士長!」
「俺は……騎士長は王に仕える騎士として死んだんだ。ここにいるは魔王に使える騎士、闇騎士とでも名乗らせてもらおうか」
「クックックッ……我が娘よ、お前が連れてきたあの男は随分と働き者だな」
「ええ。なにせ」
私が惚れそうになった男ですもの。
ここまでお読み下さいまして、ありがとうございます。
魔物から見れば人間の王も魔王になるよね
ならない?
なると思うんだけどなぁ……
ということで、お姫様が魔王城から脱出するお話でした。
それではまたどこかで。