異世界転生が就職斡旋みたいだったらどうなのかなと思ったので話にしてみた
「えーと、転生斡旋?」
話を聞いて何の事だと思った。
それが顔に出たのか、目の前にいた者は改めて笑みを浮かべて説明をしていった。
「不思議に思われても仕方ないですよね。
でも、嘘も何も申しておりません。
湯谷ヒデアキ様は先ほどお亡くなりになり、こちらにやってきたのです。
そして、このままいけば転生となるのですが、その行き先について色々とご相談をさせていただきたいのです」
「はあ……」
自分が死んだという事も今ひとつ納得出来ないでいるが、それもそうなんだろうとも思っていった。
何せ見ず知らずのこの空間にやってくる前は、かなりみすぼらしい状態だったのだ。
何日も食事をせずに路上に寝転んでいた。
仕事も住むところも失い、どうにかこうにか生きながらえるだけだった。
それももう終わりだろうと覚悟を決め、知らず知らず意識を失っていった。
なのに、目をさましたら全く見知らぬ場所にいたのだ。
何かがおかしいという事くらいは思ったものだ。
それから目の前に背広姿の男があらわれ、説明を始めたのだ。
「ようこそ死後の世界へ」
言ってる意味を理解するのに時間がかった。
「……つまり、ここは死んだ後の世界で、あんたは次の人生についての斡旋をしてると」
「ご理解が早くて助かります」
妙に清潔な建物の中、テーブルを挟んで向かい合って座る相手は、ヒデアキにそう言って頭を下げた。
口調も態度も基本的には丁寧である。
少なくともそこに不満を感じたりはしない。
だが、言ってる内容が内容なだけに、どうしても信じ切ることが出来なかった。
「しかし、いきなり転生とか言われても」
「すぐに信じられないのでしょうが、嘘は全く申しておりません」
背広はそう言ってヒデアキを見つめる。
「もちろん、ヒデアキ様が不利になるような情報を隠してるという事もありません。
嘘偽りなく真実のみをお伝えしております。
必要な情報もです」
「とはいっても、それを証明できるんですか?
あんたが嘘を吐いてないと信じたいけど、さすがにねえ……」
「まあ、それもそうでしょうね。
これについては証明する手段がないのでどうしようもありませんが。
ですので、信じられないというなら仕方ないとわきまえております」
このあたり応対してる者も理解はしてるようで、慌てたり変に必死になって説明しようとはしない。
「ですが、こちらもせねばならない事ではあるので、一通りの説明はしていきます。
それをどう受け取るかは、もう相手次第となるのでどうにもならない部分になってしまいます」
「まあ、そうでしょうね」
そこはヒデアキも頷いた。
受け入れるかどうかは当事者次第なので、他の者がどうにか出来るものではない。
ただ、仕事(?)として説明する事はちゃんと伝えねばならないのだろう。
そういった事情も理解は出来る。
その説明もあらかた終わっている。
「あとは、俺がどうするかですか」
「そういう事です」
対応してる背広は大きく頷いた。
ようするに、死んだ後の行き先をどうするかという事である。
通常なら天国やら地獄やらに行くか、生まれ変わってもう一度現世に行くか、という事になる。
天国に行くには、様々な神(あるいは悪魔)のメガネにかなう必要がある。
これらが運営してる空間がいわゆる天国(極楽)と言われる場所である。
当然ながら受け入れるかどうかは運営者の裁量による。
その上で本人の希望があれば天国入りとなる。
その逆の地獄であるが、これは天国入りはもとより転生すらもさせられない程酷い連中が放りこまれる場所である。
現世で酷い罪を犯したり、取り締まりから逃れる事は出来ても非道な行為をしてた者達がここに放り込まれる。
そうなったら、あとは魂が消滅するまで抜け出せない。
というより、魂ごと消滅させるのが地獄なのである。
ここに入ったら二度と出られない、転生すらも不可能なように消滅させられる。
これは現世において刑務所などで刑期をつとめあげても考慮されない。
悪さをやらかせばそれが地獄行きの選考対象となる。
悪事はあの世までつきまとうという事だ。
そして、このどちらでもない者達が転生となっていく。
地獄に落とすほどひどくは無いが、各種天国が受け入れる条件を満たしてない者達が転生していく。
一定の天国行きの条件を満たしている場合でも、目的とする天国(あるいは神や悪魔の所)に入る条件を備えてないものも、再度現世に出向く事もある。
そうやって、目的としてる天国に行くための条件を揃えるのだ。
これらに加えて、最近は新たな転生先が生まれているという。
「異世界ねえ」
ヒデアキに示された転生先である。
通常、転生先というのは同じ世界(この場合、宇宙と言っても良いだろう)の中で行われる。
その中で様々な生命体に生まれていく。
植物や昆虫、動物とどれになるかはその時次第となる。
「どうでしょう?
文明水準はかなり下がりますが、活躍する機会もありますよ。
このような転生では、前世の記憶をそのままもっていけますし」
「普通の転生では出来ないの?」
「まず不可能ですね。
前世の記憶をあえて封印して人生をやりなおすのが基本ですから。
心機一転がんばってもらいたい、というのが本音です」
「でも、それじゃあ同じ間違いを何度も繰り返したりするんじゃ?」
「そういう問題もあるにはあるんですが。
でも、それでも記憶をあえて無くして再挑戦してもらいたいのが我々の意向です」
「バカだな」
記憶がなければ同じ間違いを繰り返す。
行動の修正をしようにも、何を基準にすればよいのか分からないから失敗を積み重ねる。
本当にやり直しをさせるつもりがあるなら、これほど不合理な方法は無い。
「やり直させる気なんてこれっぽっちもないだろ」
「いえ、それはですね……」
「ああ、いいからいいから。
言い訳なんて聞くだけ無駄だ」
「はあ……」
斡旋担当者は少々面食らった調子になった。
ここまで転生にまつわる事を否定されたのは初めてであった。
「ま、とにかく異世界なら転生するにあたって記憶とかも持ち込めると」
「その通りです」
「特殊能力は?
ごく普通の一般人ってだけだとかなり厳しいんだろうし」
「そのあたりの得点は該当世界の神々と相談ですね。
こちらからは、斡旋するだけが仕事なので」
「じゃあ、そちらさんと話をさせてくれ」
ここにいてもこれ以上は意味がないと判断し、次に進むことにした。
「となると、こちらとしてはこのあたりを提供しようと思います」
紹介された異世界の担当者は、そう言って提供できる特殊能力の一例を並べていった。
「農耕技術補助、狩猟補助、漁業補助、土木建築補助ねえ……」
並んだものを見て、期待したものとは大幅に色々違うのを感じた。
確かにあれば便利なものばかりである。
しかし、特に大活躍が期待できそうなものはなかった。
「あれば便利なんだろうけど、これって俺がもっていく必要あるのか?
そっちの世界の死んだ人に持たせて転生すればいいんじゃないのか?」
「それがなかなかそうもいかなくて。
ある程度転生をこなして魂を成長させてないと、これらを受け入れられないんですよ」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんなんです。
やはり、受け入れる土台がないと難しくて。
そうですね……初歩的な足し算引き算すら知らない人に、大学段階の数学の知識を与えるようなものなんです。
そんなもの、いきなり身に着けろと言われても不可能です。
ある程度段階を経ていないと。
もしくは、たとえそのときは理解できなくても、とりあえず受け入れて時間をかけて理解していこうというおおらかさがないと無理ですね」
「なるほど」
なんとなく言いたいことは分かった。
「なので、既に何度か転生を行い、ある程度魂が成長した方でないと、こういった特殊能力を使いこなすのは難しいんです。
だから他の世界で転生を繰り返した方に、臨時の増員としてこちらに来ていただきたいんです」
「はあ……まあ、言いたいことは何となく理解しました」
本当に理解したかどうかは分からないが、言わんとしてる事はおおよそ把握できた。
「だとして、どれをもっていけばいいのか分からないな。
そもそも、そっちの世界の状況ってどうなってるの?
どんな能力が必要なのかは、それを聞いてから決めないと」
「そうですね、ではそちらの説明を──」
ある程度乗り気になってきたので詳しいところも聞いてみる。
異世界に行くも行かないも、それから決めても良い事である。
ならば、事前情報を可能な限り集めるしかない。
もちろん相手が都合のよいことしか並べてない、都合の悪い部分を話してないという可能性もある。
だとしても、そういう事もあるだろうと思いながら話を聞くしかない。
何も知らないよりは良いのだから。
「では、こちらで良いですかね」
「まあ、こんなもんでしょ」
あれこれ話を聞いて質問をして、世界の状況を把握して。
それでどこに生まれて何をしていくかなどをある程度決めていった。
「では、統率能力と指揮運営能力。
それと人員管理などに関わる能力ですね」
「ええ。
それでやってみようと思います」
「分かりました。
後の手配はこちらでやっておきます」
「それと、他の人たちも……」
「ええ、一緒に同じ地域の同じ時代に転生ですよね。
しっかり手配させてもらいます」
異世界の転生担当者は要望に対して真摯な態度で対応した。
今回、転生するにあたって、同じ時期に同じ場所に他の者達も生まれるようはかってもらった。
幾ら特殊能力を持って生まれるとはいえ、一人で出来ることには限りがある。
特に専門分野で活躍してもらうものがいないとどうにもならない。
異世界の状態を底上げするには何人かの協力者が必要になる。
そういった人材を求め、相手もそれを了承した。
これである程度は負担を減らす事が出来る。
(発展させるための知識や技術をもってる人がいないとどうしようもないからなあ……)
それらを含めて現地の人間を束ねる能力をもらっていくのだから、人がいないとどうしようもない。
むしろ、そういった者達を上手くまとめて効率よく運営するために転生するのだ。
これで人がいないとなると笑うに笑えない。
「……どんな人が来るのやら」
こればかりは顔合わせするまで何ともいえない。
だが、気の合う人間だったらと思う。
「それでは、あとは待合室で。
こちらの世界の資料も用意してありますので、それらもご覧になってください。
他にも必要な資料があるなら出来るだけ用意します」
そういって通された部屋でしばらく時間を潰すことになった。
もちろん、これから向かう世界についての飼料には目を通していく。
何も知らないままというわけにもいかない。
行ってみなければ分からない事もあるだろうが、事前に調べておけるなら手抜きもしたくなかった。
それからしばらくして部屋に別の者が入ってきた。
今回一緒に転生する相手だ。
だが、それを見て唖然とした。
「えーと、犬なのかな」
「はい、前世では犬でした」
「そちらは猿?」
「その通り。
見ての通り猿です」
「そして……」
「見ての通り、雉である」
「そっちは」
「亀ですよ」
「あと……」
「あ、俺は熊です」
予想外の連中が揃っていた。
てっきり人間が来ると思っていたのでこれは意外だった。
「まあ、転生って人間だけがするもんじゃないだろうし」
動物から人間に転生するという事もある。
その逆に、人間が動物や植物、虫になる事だってある。
だが、さすがにこれは予想外だった。
それに、並んでる動物を見ていて、
「桃太郎に浦島太郎に金太郎か?」
とも思ってしまった。
いずれもそれぞれの童話に馴染み深い動物達である。
お供とするには申し分ない……はずである。
「まあ、あっちに行ったらよろしく。
皆に色々頼むことにもなるだろうし」
「それはもう」
「もちろんです」
「よろしく」
「まあ、ぼちぼちと」
「気楽にやりましょう」
幸いにも皆良い連中である。
上手くやっていけそうだった。
そこから誰がどんな能力を持っていくのか、前世ではどう生きていたのかなどを聞いていく。
そうしていくと、一度は人間だったこともあるなどの話も出てくる。
逆に人間は今回が初めてというものもいる。
なんにせよ人間以外の視点、人間を外部から見た視点というのは意外な発見があって面白い。
そんな話と共に、これから行く世界における状況などを確かめ、そこでどうやっていくかなどを考えていく。
何がどうなるか分からないが、ある程度話し合っておけることはこの時点で出しておきたかった。
「それでは皆さん、そろそろお時間です」
担当者がやってきて皆に声をかける。
それに従い、集まった者達は転生に向けていく。
「それじゃ、また後で」
「どうかよろしく」
「しばらくのお別れを」
口々に色々言いながら、共に異世界に行く者達は転生をはじめていく。
この先がどうなっていくかは分からないが、期待や希望、不安などを抱えて飛び込んでいった。
その後、転生者を受け入れた異世界では、一部地域において急激な発展がなされていった。
それに牽引される形で世界全体が加速を付けて発展していく事になる。
転生者達はそのまま異世界においても転生を繰り返し、発展に寄与していく事になる。
その間にも、他の世界から新たな転生者を受け入れたり、逆に他の世界に転生者を送り込むようにもなる。
それが出来るほどに異世界を発展させた者達は、その世界の神々として根を張ることになっていった。
ただいま、新作妄想中。
そのうち書き出す予定。