カミングアウトの末に
そして次の日の学校では、ウズメの噂をしていた一人が欠席していた。
最近の流れになりつつある、学校終わりからの満理月堂へ向かう。
「来たか、これを見てみろ」
これまた定番になりつつあるパソコンの画面を勧めてくる月読。
言われた通り画面を覗くと【天野かんざしちゃんを素直に応援する。Part36】に、一つの長文が投稿されていた。
《僕は、かんざしちゃんが新人の時から応援していました。デビュー作のわき役から主役を退けるほど輝いていて、ラジオでは誰よりも面白くあり、歌声は天使の様だった。しかし昨日のカミングアウトには驚いた。大好きな人が実は男だと知って最初は騙されたと思ったし悲しかった。でも、五時間を過ぎたころから僕の感情に変化が出てきたんだ。僕は彼女を、いや彼を愛しているんだ。性別なんて関係ない。女であろうと男であろうと僕が愛している人には変わりがない。でも、そこに厭らしい気持ちは無い。今はただ彼が弟の様に見えるんだ》
そう締めくくられていた。名前が古参1号となっているので間違いなくストーカー男だろう。
「これは、良かったんですよね?」
「性欲は無くなったようじゃから大丈夫じゃろ」
ワハハと笑う雇い主を、何とも言えず見つめるしかなかった。
しかし事件は最後に起こった。
その日の夜、家のテレビでニュースを見ていた悠人の目に飛び込んできたのは、一人の男が捕まったという報道だった。
『容疑者は昨日、声優の齋籐奈那美さんに対し付きまといなどの迷惑行為をしたため、現行犯で逮捕されました。容疑者は犯行を認めており……』
そこに映る逮捕された男は間違いなくウズメのストーカーだった。
「ウズメさが弟ポジションになったから、女性としてのポジションがあの声優の人に移ったのか」
取りあえず月読に電話をしてみる。
「もしもし、今テレビ見てますか?」
『私も丁度電話しようと思っとったところじゃ。まぁ、遅かれ早かれ逮捕されていたよ。相手があの性格のウズメじゃったから見逃されてきたようなもんじゃ。それを別の女性に向けたら犯罪者として捕まるのは明白じゃよ』
何とも世知辛い様に聞こえるが、犯罪行為なので逮捕は道理だった。
『それとな、ウズメの事なんじゃけど、見事にファンを味方にしたぞ』
ウズメのカミングアウトで、離れた男性ファンも確かにいたが、それ以上に女性ファンが増えたらしい。それでもなお男性ファンも多くいる事で、天野かんざしの性別には一切触れず、それぞれの想像に任せられる事となった。ウズメもあえて中性的な立ち居振る舞いを見せたことで、多くのファンを納得させた。
悠人は電話を切り、ため息を吐く。
初めてのアルバイトなので、他のアルバイトがどういうものなのかはわからないが、自分の勤めている場所は普通ではないと思う。
見た目は幼い少女だが、不思議な喋り方をする神様がいる店などというのは全く普通では無い。
しかし、辞めるつもりも無かった。せっかく始めたアルバイト、月読とも仲良くやっていけそうだと思えた。それに、これから先も普通では経験できないこともできるだろう事は見えている。
「まぁ、続けてみるのが正解だよな」
そう考え、悠人は早めに休むことにしたのだった。
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