カミングアウト
そこから四日後の日曜日。悠人と月読はライブ会場に居た。
ウズメこと、天野かんざしは声優でありながら、自分名義の楽曲をいくつも持っており、今までもライブを数多く成功させてきた。そんな彼女が今日行うのはミニライブ。その関係者として招かれ、二人は関係者席に並んで座っていた。
「上手くいきますかね」
「予想通り、ストーカー男は最前列に居た。ライブ中は警備スタッフもおるから安全は約束されとる。それに、上手くも何も、カミングアウトするだけじゃからな」
先ほど購入したサイリウムを点灯させて呑気に遊んでいる月読に対し気が気では無い悠人。
そわそわと開園時間を待ち、照明の暗転と共に多くの客が歓声を上げる。真っ暗いステージの中央にスポットが当たり、天野かんざしが可愛らしい衣装で姿を現した。
「カミングアウトは最後じゃからそれまで楽しめ」
月読は悠人にそう耳打ちして、自らもサイリウムを振り始めた。
弾けるような明るい曲、それに合わせて彼女も踊る。右に左に動き回り、己の可愛さを全開にしていった。
一曲歌われるごとに悠人も魅了されており、真剣にステージ上の天野かんざしを追っていた。
七曲目の歌が終わったとき、玉の汗を流しながら彼女は話し始めた。
「この間、インターネット上で私の写真がアップロードされたのは知ってるよね」
誰もが夢から覚めた様にジッと天野かんざしを見つめる。
「あれね。事実なの」
その言葉にざわつく会場。悠人も固唾を飲んで見守る。
「でもね、あれは彼氏の物でもないし、防犯用に買ったものでもないの」
シンと静かな会場を目の前に、彼女は大きく深呼吸をした。
「実は私、いや僕は男なんだ!」
月読の言っていた最終手段。それは無理やり自分を恋愛対象から外すという荒業だった。普通の嫌われる行動では効果が望めないと判断した月読は、あの男性物の下着は自分で使うため。というシナリオを思いついた。いくらなんでも性別を偽られたら堪えるだろうという判断だった。
呆然とする者。状況が理解できず笑う者。となり同士で慌てる者。そんな人々を見回し彼女は続ける。
「僕はずっと女らしい顔立ちが嫌だった。それで辛い思いもしてきた。でもそんな僕でも輝けたんだ」
それは魂の叫び。多くの人が神妙にしているが、悠人は違った。
「俺、いま物凄く事実として受け止めそうになってるんですけど、あれ嘘なんですよね?」
「当然じゃ。逆にこれから男扱いしてみろ。ヤツは泣くぞ?」
芸能の神様の力なのか、演技力も桁違いのすごさを知ったのだった。
ストーカー男が暴れるかと思われたがそのようなことも無く、ミニライブは終了した。
そして悠人と月読は、ウズメが居る楽屋を訪れていた。
「お疲れじゃったの」
「お疲れ様です。ライブ、感動しました」
「二人ともありがとう」
微笑むウズメは水を一口飲むと、スマートフォンを取り出し配信されているニュースアプリを開いた。
「もうニュースになってるよ」
画面には【人気アイドル声優が性別を偽っていた!?】という見出しが躍っていた。内容は、自身のミニライブで女性ではなく男性だったことをカミングアウト。きっかけは数日前にインターネット掲示板に張られた写真か。というものだった。
「後はストーカー男の出方次第かのう」
「だねぇ」
「あの、本当にこれで良かったんですか? 人気ありきの職業なのに、致命傷になりませんか?」
「それならそれで仕方ないよ。私の責任だもん」
天野かんざしは、事務所に所属していないフリーランスの声優だ。自分以外に責任が向かわない事が、この最終手段の要の部分と言えた。
「さてと、我々は帰るかの」
疲れているであろう彼女に配慮して二人は楽屋を後にした。
家に帰って来て夕食、風呂を済ませて部屋のベッドに寝ころぶ。
「ウズメさんの歌良かったな。CD買おうかな」
悠人も完全にファンになり、尚且つ知り合いにもなれたことは、今年最高の出会いと言えた。
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