認めない執念
画面を見ていた悠人が、月読の全裸で踊ったコメントについて反応を見せ始めている人に気付いた。
《意味不明なアンチ沸いたww》
《ここで荒らし行為は禁止です》
《こういうのは無視に限る。反応したら負け》
《マジで邪魔。アンチスレ行くなり、立てるなりしてそこで暴れりゃいいじゃん》
等の書き込みが増えていった。
「一度荒れたら沈静化には時間かかるよ。変に書き込まん方が良いから、ちょっと時間をあける方がいいかも」
しかし、月読はニヤリと口の端を歪める。
「このタイミングで、あの写真を張り付ける」
「ねぇ、ホントに使うの? 」
少し慌てるウズメが気になったが、悠人には何のことかはわからなかったので、黙っている事にする。
月読は画像ファイル開き一枚の写真を画面に映す。それはデパートの下着売り場、そこに映る被写体は、ほぼ後ろを向いておりはっきりとは断言できないがウズメに見えた。しかし、それよりも目を引いたのは、
「何でウズメさんは男性用の下着を持ってるんですか?」
ウズメの右手には買い物カゴが、そして左手には男性用のトランクスが握られていた。
「これには事情がちゃんとあるのよ? 月読ちゃんと話合って立てた作戦なの」
「うむ、完璧な作戦だ。こういうストーカーは幻想を抱いている。なので疑惑の写真と、すでに付き合っている男の影をチラつかせれば疑惑が疑惑を呼ぶ。そうすればストーカー
男は幻滅するじゃろう」
高笑いと共に掲示板に張り付ける。
「そういうもんなんですかね」
写真を張り付けて数分、一気に炎上し始めた。
《なんだこれ、かんざしちゃん?》
《違くね? 髪型とか雰囲気とか違うよ》
《左手に持ってるのって男物のパンツじゃん。彼氏いるんだ》
《これ張り付けた奴って、盗撮したってこと? どんだけキモイんだよ》
《偽物じゃん、騙されんなよお前ら》
《これ、昨日買って来てもらった俺のパンツだよ。悪いなお前ら》
《泥棒よけに男物の下着が有効なんだよ》
《うわーファン辞めて―!!》
《俺はもう辞めた》
等々のコメントが溢れた。
しかし、そこに今までのコメントとは違う質のものが投稿された。
《この写真は合成で間違いない。元の写真はこれ》
貼られた写真の人物は同じだが、右手のカゴはバッグに代わり、左手に持っているのは下着では無く何かチケットのようなものになっていた。そして背景も下着売り場では無く、空港のチケットカウンターになっていた。
「なんじゃこれは」
月読が驚きの声を上げる。
「合成って言われてますけど、あの写真、どこかのサイトから拝借してきたんですか?」
「そんなわけないじゃろ。朝っぱらにわざわざ写真を取りに行ったわ」
「じゃあ、こっちの写真が合成ってことですか?」
空港の方が合成、その事実は月読とウズメが証言した。そうなると、この投稿をした人間の目的が解らなかった。
「ふつう逆だよね。合成写真を投稿して、元の写真を特定されてバレるもんだし」
本物の写真を合成と言い、恐らく自分で作成した写真を本物だという状況。この状況に一つの推測に行きついたのは月読だった。
「このIDこの名前『古参1号』あの男じゃ」
「本当だ! でもそれじゃあ本当に何のために合成なんか」
「あの、俺にも教えてもらえますか?」
完全に置いてきぼりの悠人に、月読が説明する。
「昨日の夜からこの掲示板を見張っておったら、少し気になる男が現れたから少し会話をしたんじゃ。どうやら五年前のストーカー男で間違いないようでな」
「その男が写真の合成を行った。と」
「そうじゃ、恐らくこれ以上の炎上を抑えるため。と、もう一つ。自身が認めたくない一心で作ったんじゃろうな」
短時間で完成度の高いものを作る集中力は半端では無い。
「スゴイ執念ですね。攻撃するんじゃなくて無かったことにするなんて」
「昨日の時点で相当筋金は入っておるのは解っていたんだがな」
聞くと、ライブやトークイベント、ラジオの公開録音にも全て参加し、グッズも山の様に買ってゆく。五年前もステージの最前列に居るのは当たり前、ファンレターも毎回、便箋五枚以上。そんな男だった。
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