犯人の素性
「見苦しいものを見せたな。すまなかった」
悠人に謝罪してから咳ばらいを一つして、佇まいを直す。
「さて、時間も無いから本題に入ろう」
「今まで時間をつぶしていたのは姉上の愚痴じゃがな」
妹を視線で黙らせ、続きを話す。
「犯人の素性がわかった。男は平内喜造古物のコレクターで有名だ。今まで欲しいものは何でも金で解決してきたが、今回はそうもいかなかったらしい」
「それで泥棒までするとはのう」
「いや、実行犯は別にいる。平内喜造には、命令すれば有無を言わず実行に移す輩がいるらしい」
「そんなマンガみたいな人っているんですね」
思わずそんな感想が口を吐いた悠人だったが、自分の目の前の人物を見て反省した。
「そんなわけで、実行犯は捕まえたんだが、平内の方は難しいかもしれない。という話だ」
貴子が帰ってから、月読は何も気にしていないように振る舞っていた。
「捕まらないかもって事、怒ってないんですか?」
「ずっと愚痴を聞きたいか? まぁ、手だてはある」
不敵に笑う月読に、不安を覚えるがこれもいつもの事だった。
次の日、月読は貴子と一緒に警察署に居た。
「本当にやるのか? 効果覿面どころの話では無くなるぞ」
「人の物、いや神の物を盗むとエライ目に合うと教えてやるだけさ」
廊下を歩きながらそんな会話をする二人。そして『取調室』と書かれた部屋の扉を貴子が開けた。
「今日はお前にお客さんだ。内藤信二」
貴子の視線の先には、机と二脚の椅子があり、奥の椅子に座った男がいた。この内藤信二こそ、平内喜造の駒として優秀に満理月堂から物を盗み出した張本人だった。
「私に客ですか、刑事さん」
ふてぶてしく笑う信二。
「ああ、お前がどう感じるのか見ものだよ」
そのセリフを合図にしたのか、月読が部屋に入る。
「客ってのはそのお嬢ちゃんですか? ……ははぁん。解りましたよ。その娘の大切にしてたものがアレだったんですか。子供は何を玩具にするか判んないもんですからねぇ」
月読はうつむき加減のまま、男と机を挟んで対面する形で椅子に座った。
「悲しい気持ちを綴った手紙でも読んでくれるのか?」
すると、おもむろに顔を上げる月読の目を見て信二はたじろいだ。形容しがたい瞳の暗さと輝きが恐怖を感じさせた。
「子供相手にそこまでしなくてもいいだろう」
いつの間にか信二の後ろに回っていた貴子が、彼の両肩を掴み押さえつけ逃げられないように固定しながらそう言った。
「俺はそのガキの物だなんて今初めて知ったんですよ? アニメのシールでも貼ってあれば気付いたかもしれないですけど」
「ん? いや、今のはお前にじゃない」
子供が大切にしている物を盗むな。そこまでしなくてもいいだろ。と言う意味だと思った男が喋るが、貴子の話し掛けているのは月読だった。
「言ったじゃろ。神の物を盗む行為がどれほど危険か教えると」
月読が言った瞬間、辺りが黒に塗りつぶされた。陰ったとか夜になったとかの話では無い。正真正銘に黒になったのだ。
立ち上がろうと男はもがくが、両肩を掴まれ動けない。
「何だよこれ、どうなってんだよ!」
どのくらいの時間もがいていたのか、男はぐったりと机に上半身を投げ出していた。
「さて、帰るかの」
「この後の介抱は誰がやると思ってるんだ」
「姉上以外の誰かじゃろう」
月読を先に退室させ、貴子は自分の部下を呼んで後を任せた。




