天照大神
二日後、満理月堂に行くと一人の女性が座っていた。女性はスーツに身を固めたキリッとした女性だった。
辺りには月読の姿は無く、先日の泥棒騒ぎを全く懲りていないのだろうか。
その時、女性の方が悠人に気付いた。
「私は怪しいものでは無い。こういう者だ」
立ち上がり、懐から二つ折りの手帳を取り出した。
「警察、ですか?」
広げられた手帳の上段には本人写真が、下段には警察を表す警察章が描かれていた。
「大照貴子という名だが、君には天照大神と言った方が信用してもらえるかな」
天照大神は、月読之尊と須佐之男命の姉にあたり、三貴子に数えられる神様である。
「なるほど。最近はこの流れにもだいぶ慣れてきたんで信じられます」
「妹が大分世話になっているようだな。話は聞いてるよ」
悠人は社交辞令的な会話を二言三言告げ、彼女にお茶を出す準備を始めた。
「良かったらどうぞ」
貴子にお茶とお茶請けを出す。本当は月読のお茶請けだが、自分の姉なのだから文句はないだろう。
「ありがとう。いただきます」
お茶を一口啜り、ため息を吐く。
「美味しいよ。妹はお茶の一つも出さなかったからな」
「あれ、もしかしてさっきまで月読さんいたんですか?」
留守の時に貴子が来たのではなく、留守を任せていったらしい。
「ああ、いたよ。新しい防犯装置を買ってくるらしい」
「鍵は新しくしたらしいですけど」
今までの満理月堂の鍵は、とても古いものだった。その事を警察の人に怒られたので、急いで変えていた。
「それだけじゃ足りない。ここはシャッターも無いから、普通の防犯以上の危機意識が必要だ。窓を割られたときや、無理に扉を開けようとする振動に反応するセンサーとかが必要だよ。それを教えたら、慌てて出て行ったよ」
さすがは警察管、防犯の知識が豊富だ。と感心していると月読が帰って来た。
「戻ったぞ。お、悠人も来とったか」
テーブルの上に、山ほど買ってきた防犯グッズを置く。
「姉上。このくらい設置すれば安全じゃろ?」
「これは買い過ぎだ」
ため息とともに首を振る貴子。
「そうかのう? 多ければ多いほど良さそう物じゃが」
「お前は昔からそうだ。やる事が極端すぎる」
「姉上に極端とは言われたくないのう。愚弟が遠くに見えたからって、焦って完全装備で出迎えたり、嫌気がさして閉じこもったりは普通せんわ」
須佐之男命が、天津高原に来た際は、須佐之男命が攻めてきたと勘違い。誤解が解け宴が開かれると、酒に酔った須佐之男命が暴れた。その事に怒り悲しんだ天照大神は岩戸に閉じこもってしまった。その後に続くのがウズメの逸話である。
その事は、貴子にとっても忘れがたい昔話なのだろう。顔を赤くして反論した。
「アレは全部アイツが悪い。無駄に怒気を孕みながら近づいて来て、優しくしたら暴れだして。……アイツが全部悪い!!」
そんな文句が暫く続いて、流石に言いたいことを全部言ったのか貴子は落ち着きを取り戻した。




