シルキーのスイーツ
「私たちは最後から三番目ですね。乾燥しないですかね」
「大丈夫よ。一日二日待つわけじゃないもの」
くじ引きで試食の順番は決められ、都たちは中盤での審査となった。
次々と試食がなされ、審査員三人は味や見た目の感想をそれぞれ述べ点数を表示していく。
ケーキ、クレープ、パフェ、練り切り。味もチョコや抹茶など様々なものがあった。
審査の中盤、グランの審査が始まった。グランは当然マカロンメインとし、四つのマカロンと生クリーム、フルーツと組み合わせ、小さなパフェを作っていた。
「これは美味しそうですな」
「見た目も華やかで良い」
「正直、私の一番気になっていたお店なんですよ」
市長・副市長・編集長の順番で喋り、手を付ける。
ひとしきり味の感想を述べ、出した点数は二六点。現在の最高得点だった。
その後は、どれも二十点を超えるものは現れず、とうとうシルキーの番になった。
『続きましてはカフェ・シルキーのスイーツ。【おはぎ】です』
「喫茶店でおはぎとは珍しいですな」
「ええ、しかも【小豆】と【ずんだ】の二種類とは」
「和スイーツは流行りの一つですから間違ってはいないですね」
そんな前置きをして、一口食べる。
「砂糖の甘さでは無く、あずき本来の甘さが優しい。母が作ってくれたものを思い出す」
「ずんだの方も枝豆の風味が爽やかだ」
「小豆の上には粟が、ずんだの上には茹でた麦が乗っているのは変わっていますが、これが食感や味にも良い変化を出していますね」
と、なかなか良い感想が聞けた。
スクリーンを見ている悠人も、編集長のコメントに頷いた。
「俺も不思議に思ってたんですよね。なんで粟や麦が乗ってるんだろうって」
「何じゃ、知らんのか? 大宜都比売は須佐之男命に切り殺された時、彼女の死体から稲・粟・小豆・麦・大豆が生えたんじゃよ。全部おはぎとずんだに使われとるじゃろ?」
それには悠人も驚き納得した。
おはぎの餡子には小豆、ずんだの餡は枝豆なので大豆。モチ米で稲。それにトッピングとして麦と粟を使用すればきちんとした意図があるという事だ。
「もしかして、その材料を都さんが使う事で何か加護が得られたり」
「するわけないじゃろ。洒落みたいなもんじゃ。……でも悪くはならないはずじゃよ」
その月読の言葉通りになった。
『合計点数は、なんと二八点! 最高点です』
都と葵は二人で手を合わせ喜んだ。
残る二組はパッとしない点数のまま終わった事で、シルキーの優勝で幕を閉じた。
コンテストの次の日、クラスで葵は注目の的だった。
「雨村さんのアルバイト先、すごいね!」
「今日、お母さんが並んででも買ってくるって言ってたよ」
当たり前だが、相当な話題になった。クラスメイトからは祝福と羨望が向けられたが、葵の目的はそこでは無い。
同じクラスの栞那。彼女には復讐をしなければならない。とは言っても、物理的にどうこうしようとは考えていない。ただ視線を送るだけだ。
その視線に、一切合切の全てを込める。端から見ている悠人は、自分が向けられたら泣くだろうなと心で思った。
「盛況じゃのう」
シルキーを訪れた月読は、今までの十数倍になる来客数に感心した。
「おかげさまでね。今日だけで一ヶ月分の来客よ」
確かに繁盛しているが溢れるほどの人ではなかった。
「本当に良かったのか?一日限定六個だけなんて」
月読は都の本心を探るように目を見つめた。
優勝したのだから、おはぎもずんだも作れば作るだけ売れるだろう。でも都はそうしなかった。一日限定六個。それだけしか作らないと宣言したのだ。しかも予約は一切行わないという売る事に乗り気ではない対応だった。
「良いのよ。お客さんが増えたことには変わりないし、忙しすぎても嫌になっちゃうから」
都は穏やかに笑った。
「そうかもしれんな。折角じゃし、コーヒーとホットサンドを貰おうかの」
月読の注文を受け、食神都はコーヒーを淹れ始めたのだった。




