コンテスト当日
月日は流れ、コンテスト当日。コンテスト会場にはすでに、二十組以上の参加者が最終確認などを行っていた。
もちろんその場にはグランの姿もあるが、見たところ栞那の姿は無い。
材料は運営側に通達したもののみを各自で持ち込むが、会場に簡易設置されたシンクや調理器具は自分のものでは無いので、それの確認だ。
そして都と葵は揃って緊張していた。
「材料の忘れ物は無いわよね?」
「大丈夫ですよ。昨日から十回以上確認しているんですから」
葵の思いついた案を採用し、この日のために試作を繰り返してきた。悠人にも月読にも試食を頼み、その都度味の指摘などをしてもらった。悠人などは最終的に、太る。虫歯になる。と、げんなりしていた。
その甲斐あってか、なかなかに完成度の高いものが出来上がった。
『では皆さん、調理の準備を始めてください』
広い会場内にスピーカーから男性の声が響いた。
その声に会場には一気に張り詰めた空気が流れた。
『それでは、調理を始めてください』
あるグループは調理工程が多いのか大急ぎで、あるグループは余裕を持って動き出した。
「さあ葵ちゃん。私たちも作りましょ」
「はい!」
二人の戦いが始まった。
調理会場とは別の部屋、そこにはコンテストに関係している市の役人や地元紙の記者やテレビカメラ、参加店の応援に集まった人が調理会場が映し出されるスクリーンを真剣に見入っていた。
「あれだけ試食させたんじゃから勝ってほしいのう」
「俺、餡子は暫く無理です」
「一年分は食べた気がするな」
しみじみと試食の日々を思い返す。その間にも参加者たちはスイーツを作り続けていた。
「都さん、蒸しあがりました」
「ありがとう。こっちに頂戴」
先ほどまでの緊張も無く動けている様子に、悠人にも月読にも安堵の表情が見える。
『そこまでです。調理を終了してください』
長いようで短い時間が終わった。納得がいかない表情の人もいれば、やりきった笑顔を見せる人もいた。
都と葵は後者だった。
出来上がったスイーツは、市長・副市長・スイーツ雑誌の編集長の三人が試食し、三十点満点の合計点数で競う事となっている。
三人が並ぶテーブルには、お茶や水。それと酢昆布や漬物も用意されていた。この三人は全員が男性であり、平均年齢が六一歳。市長に至っては七三歳だ。甘いものが続くのは正直辛いだろうという大会関係者の判断だった。
そして、スイーツが運ばれて来る間、市長と副市長は笑顔で会話をしていた。
「今日のために健康診断を受けてきましたよ」
「お互いに病気は心配ですからなぁ。で、結果はどうだったんですか。市長?」
「それが、特に悪い所も無く、医者からは太鼓判を押されましたよ」
「それは何よりですな」
一見してのどかな会話だが、副市長の目は笑っていない。
「最近は貴方に連れられて、高コレステロールなものばかり食べていたから心配だったんですが、丈夫に生んでくれた母に感謝ですよ」
市長はニヤリと笑い、
「これで、来期も元気に市長を続けられそうです」
と続投に意欲を見せた。
そんな会話を聞かされて困るのは雑誌の編集長だ。
「勘弁してくれよ」
政治記者辺りならネタになる会話かもしれないが、スイーツ雑誌では活かせないものだ。この会話を終わらせられるのは、今から運ばれてくる物以外に無い。編集長は、早く来てくれと祈ることしかできなかった。




