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洋菓子店グラン

 悠人にとってその日も、何も変わらない学校生活の始まり。友人も居心地のいいグループも見つけた。朝のホームルームまで彼らとのお喋りを楽しんでいると、教室の一角から感嘆とも、どよめきとも取れる声が重なって聞こえた。

 それはクラスに居る大半の人間の視線を集める結果になったが、本人たちは気にしている様子は無い。


 悠人と友人も、そちらに視線を向けると女性陣八人ほど集まっている事が確認できた。

「えー。栞那かんなちゃん、グランでアルバイトしてるの!?」

「まぁね。面接には十人くらいいたんだけど、合格できて良かったわ」

 栞那と呼ばれた少女は、学年でも人気の高い生徒の一人だ。隙の無い笑顔や立ち居振る舞いは男子生徒に受け、数人の女子生徒を従えるに十分なものだ。

 そして彼女のアルバイト先であるグランは、マカロンで有名な洋菓子店で、先日悠人が雨村家へのお礼の品を購入した店でもある。


 取り巻きとも言える女子生徒たちに囲まれながら、栞那は演説を続ける。

「私以外みんな大学生だったから、無理かなって思ったんだけど、店長さん気に入られちゃって。大学生とは違うナチュラルなメイクが良いって言われたの」

メイクなんてしてないのにねぇ。と困ったように笑う栞那。


 クラス全体に聞こえるように話していたので、聞きたくなくても聞こえている状況だった。そのため、男子の大半は何か大声で話していると理解し、女子はアルバイト先をステータスにしたがっている事と、メイクをしなくても可愛いというアピールと理解していた。

 そして、彼女の自尊心を見たすための生贄が選ばれた。

「ねぇ、雨村さんはアルバイトとかしてるの?」

 近くの別グループで話していた葵。栞那は何の躊躇も無く、会話の間に入って主導権を掴む。

 話を振られた葵は、談笑を遮られた事で多少の不快感を見せたが、ケンカをする気は無いようで、あっさりと答えた。

「シルキーって喫茶店よ」

 答えたんだからもう用は無いとばかりに友人たちに向き直る。が、栞那の方の用事はまだ終わっていなかった。

「そんな喫茶店あったかしら」

 首をかしげながら頬に手を当てる。それは明らかに仕組まれた対応だ。アルバイトをしていなかったら労働の話を、アルバイトをしていれば自分の勤め先の自慢をすれば問題ないのだ。

 葵はイラつきながらも、我慢して再度栞那に向き直る。

「すべてのお店を把握してる訳じゃないでしょう? 知らないお店があっても不思議じゃないと思うけど」

 当たり前の指摘だが、栞那にとっては火口ほくちとして十分な威力があった。

「私、オシャレなお店を色々と巡るのが趣味だったから」

 それは明確な嫌味だった。悪意がある分だけそれが色濃く見える。

 当然それを感じ取った葵も何か言おうと口を開くが、ホームルームの鐘が鳴り担任の教師が扉を開けて入って気た。

「よーし、ホームルーム始めるぞー。………どうしたお前ら?」

 今まで葵と栞那の攻防は教室に居る全員を凍らせていた。担任はそんな事を知るはずも無いので、教室の空気に違和感を覚えた。

「なんでもありません。先生」

 栞那が微笑みを持って答えた。それは葵にとっては勝ち誇ったように見えたのも事実だった。


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