引いて足す
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
二人が声をかけた相手は月読だった。
「コーヒーをくれ」
彼女はそう言ってカウンターにちょこんと座る。
「今日はお店は休みだっけ?」
「まあな。今日の昼ごはんは此処じゃ」
「夜は?」
「昨日、悠人が肉じゃがを作ってくれた」
(悠人も大変なのね)
ぼんやりと考えながらもしっかりと手は動かす。すると月読と目が合った。
「葵もちゃんと働いているな。感心じゃ」
「そうなの。後はお客さんが増えれば完璧なんだけどね」
月読にコーヒーを出しながら、都は困ったように言うが、あまり切迫しているような感じが無い。
「客が増えるかどうかは、料理次第のところもあるじゃろ。そこで、試作と私の昼食を兼ねてナポリタン作ってもらえないか? 猪肉は無しな」
月読がシルキーに訪れた理由は昼食ではない。恐らくは友人である都を気遣って。試作の料理が出来上がるまで何日でも付き合うのだろう。
「じゃあナポリタンを作ってくるから、葵ちゃんは月読ちゃんの相手をしてあげて?」
私は子供か。という声を無視して都はキッチンへと消える。
「全くアイツは」
小さく愚痴ってから月読はコーヒーを飲む。
それから十分弱で、都がキッチンからカウンターへ戻って来た。
「お待たせ」
良い匂いが辺りに漂う。
「…………」
が、立ちっぱなしの葵は皿の中身が見え絶句する。昨日は猪肉のステーキを乗せてきた事で臭みがあると言った。しかし今、猪肉の方がマシだったと思い知らされた。
コトリと置かれた皿。そこに盛られているナポリタンは青かった。
「…………」
月読も無表情で眺める。
「これから暑くなる季節だし、暖色の赤より寒色の青かなって思ったんだけど」
「……人の目から得る、赤色やオレンジ色は温かみのある色として、青や紫は冷たい色として映る。それは解るんじゃが、何で青くした?」
「だから、寒色系の――」
「じゃから! 何で猪肉を引いて、青色を足した!? どう見ても不味そうじゃろうが!!」
麺、野菜、ウインナー。その全てが真っ青で、実に食欲を削いでくる。




