流行らない喫茶店
「ちゃんと私が食用に育てたものだったのよ? 変なものを食べないように大根とかカブの葉っぱをあげてたし、試食もしたんだから」
先ほどのもんじゃ焼きと同じで、知識も無く突然出されたら困るだろう。何となく月読に同情の気持ちが芽生えてきた。
「専門知識も無いのに、何で食えるか解らんものを育てる!? 日本のカタツムリとは違う種類じゃろ」
「あの時は知らなかったし、そもそもエスカルゴは誕生してなかったもの」
神様同士の会話のレベルについていけない悠人はホットサンドを口に運ぶ。
カリッとしたホットサンドは塩味の中にも甘味がある。中身はハムにチーズ、それにハチミツだろうか。
「美味しい」
料理人として美味しいの言葉は聞き逃せない分類だ。
「ありがとう。ハチミツに拘ってるの」
嬉しそうに言う都。
「ハチミツなんて入ってるのか?」
不思議そうに自分のホットサンドを見つめる。確実に甘い味がしていたはずだが気付かなかったらしい。
「相変わらず、月読ちゃん味音痴よね」
「カタツムリによく気付きましたね」
「エスカルゴね」
「そりゃ殻のまま持ってこられたら気付くわ!」
「殻が無かったら?」
「…………。気付くわ!」
恐らく気付かないだろうと思いつつ悠人は二口目をかじる。
すると、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ。佐多さん」
「いつもの貰えるかい」
常連客らしい男性は、都に袋を渡しながらそう注文した。
袋を受け取った都は焙煎されたコーヒー豆を詰めて男性に返す。
「一五〇〇円になります」
男性はお金を都に渡しシルキーから出て行く。
「コーヒー豆も販売してるんですね」
「最近は売ってくれって人が増えてるわね。本当は食事もしてくれると嬉しいんだけど」
確かに悠人と月読以外に客はいない。ホットサンドしか食べていないが美味しいし、コーヒーも美味しい。豆をわざわざ買いに来る人もいるくらいだから間違いないだろう。その事は悠人にも解った。
「出す新作が斬新すぎるんじゃ。ホットサンドは美味いんじゃがな。これしかないから飽きられるんじゃ」
「そう? でも今のところ私が考えた料理って全部流行ってるのよ?」
「それは認める。もんじゃ焼きもエスカルゴも、都の後に人間が作り出した。じゃが、流行ったのは何世紀後の世じゃと思っとる。必要なのは今じゃろ」
神代の時代に開発した料理は、先を行き過ぎた料理なために勘違いを起こし、後の世でメジャーな食べ物になった。という事は、いま都が開発した新作は時代と共に味覚が変化した人類の口にあうのかもしれない。
「そうだけどねぇ。どうしても新しい組み合わせとか考えたくなるのよ」
「この調子では場末の喫茶店からは抜けられんな」
そんな話を一時間して、シルキーを出る頃には悠人がシルキーの新作料理を三品考える事になっていた。
「料理を考えるのもバイトのうちですか?」
満理月堂に戻る道すがら月読に聞いてみる。
「すまんが頼む、私では料理の会話はできんからな」
悠人もまともに料理ができるようになったばかり、期待に応える事は難しい。しかし、バイトの休憩中に考える程度で良いらしいので受ける事にした。
「ホントに期待しないでくださいよ?」
念を押すと月読は、問題ない、誰も悠人を責め垂れせんよ。と笑ったのだった。
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