昔ばなし2
そんな雇い主を放って置いて悠人は話を続ける。
「その後どうなったんですか?」
「俗に言う、ちゃぶ台返しをしてスサノオ君は怒って出て行ったの。私は割れたお皿を片付けてた時に指を切ったのが、大げさに変えられちゃったのが私の逸話」
「人に伝えたら物凄い派手な事になったんですね」
「まぁね。でもそれを伝えたのは私じゃなくて月読ちゃんなのよ?」
「そうなんですか?」
水を飲んで冷ましていた月読が涙目で頷く。
「都から愚弟の暴挙を聞いた私は、現地に飛んで行ったんじゃ」
「どうやって聞いて、どのタイミングで到着したんですか?」
「ウサギに聞いたんじゃ。彼らは遠くの事を聞き、遠くに知らせる脚がある。私が都の家の前に居た愚弟を蹴っ飛ばせるほどにな」
「あのドロップキックは凄かったわよね。飛んでいったサノオ君、上半身が田んぼに埋まってたもの」
弟に対しての制裁がキツイ気がするが月読なら違和感が無い。
「まぁな、悪いことをしたら拳で解らせる」
「でも、月読ちゃんの武勇伝として伝えようとして失敗したのよね」
「アレは人選を誤ったなぁ、まさか私の出番をカットするとは。蹴っ飛ばし損じゃよ」
本来であれば、大宜都比売を斬った須佐之男命を懲らしめた月読之尊となるはずだった。そんな裏話を聞いた悠人は、この話のもう一つのストーリーの事を月読に尋ねる。
「月読さんも都さんを斬ってますよね? あれも間違って伝わったんですか?」
古事記では須佐之男命が大宜都比売を斬っているが、日本書紀では月読之尊が保食神を斬っている。今の話を聞けば、人物が須佐之男命から月読之尊にすげ変わって正しく伝わらずにある可能性が高い。
だが、月読を見れば何故か大粒の汗を浮かべ、震える手でコーヒーカップを持っていた。
「それね、別の日の話なのよ。スサノオ君はスサノオ君。月読ちゃんは月読ちゃんで有った話しなの」
「え!? それぞれに襲われてるんですか?」
須佐之男命の暴挙と月読之尊の暴挙は別の日の出来事らしい。
都は右手を自分の頬に当て、困った笑顔になる。
「そうなの。スサノオ君の件よりだいぶ前に月読ちゃんにご飯を作ってあげたんだけどね。私的には上手に出来てたと思うんだけど」
冷え切った目で月読を見る悠人。人を傷つけるような、そんな人では無いと思っていたために失望は否めない。
その悠人の目に気付き、月読は慌てて誤解だと叫ぶ。
「ま、待て悠人。私にも言い分がある。まず斬っていないし、怒るのも当然なものが出てきたんじゃ」
「……何出されたんですか?」
「焼いたカタツムリ」
「エスカルゴよ」
何とも言えない空気が場を満たす
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