昔ばなし
穏やかな女性の声。カウンターでコーヒーを挽きながら、二人に向けて微笑みをくれた。
「ホットサンドとコーヒーを二つくれ」
月読はカウンター、女性の目の前に座りながら注文をする。
「どうした? 早く座れ」
月読に促されて彼女の横に座った。
「彼がバイト君?」
「そうじゃ、なかなか働き者じゃよ」
女性の質問に月読が答えた。
「初めまして。私はこの店のオーナーで食神都と言います」
女性、都の優しそうな笑みを向ける。
「初めまして、壬生悠人です。月読さんの友達ってことは、その」
「ええ、私も神の一柱よ。大宜都比売とか保食神とか呼ばれてるわね。でも呼ぶときは都と呼んでね」
予想通り日本神話の神様だった。
都は丁寧にコーヒーを淹れ二人に差し出す。
「ホットサンドは今から作るからちょっと待っててね」
そう言ってカウンターの奥に消えていった。
「都さんってどんな神様なんですか?」
ホットサンドが出来上がるまでの会話として月読に話を振った。
「ん? 稲や穀物の神じゃな。」
そこでコーヒーを一口。
話が続くかと思われたが、そこで途切れた。なので悠人は仕方なくスマートフォンで調べる事にする。
すると、大宜都比売の逸話が出てきたのでそれを読む。
天津高原から降りてきた須佐之男命が空腹であった時に大宜都比売に出会う。
食事をご馳走になる際、大宜都比売が、口などから食材となる動物や魚を出しているところを須佐之男命に見られる。
その光景に激怒した須佐之男命は大宜都比売を斬り殺してしまった。
「須佐之男命って月読さんの弟にあたる神様ですよね?」
「まあな。愚弟の素行の悪さを言いたくない姉の気持ちは解るじゃろ?」
確かに姉としては言いづらい事もあるだろう。だがもう一つ気になるのは、
「都さん生きてますよね?」
切り殺されたはずの大宜都比売は、食神都としてホットサンドを焼いている。
「それは人が誇張したんじゃ。物語としての面白さのためにな」
「確かに困っちゃったわよね。最初に話したのとは随分違っちゃってるんだもの」
ホットサンドを二つ、月読と悠人の目の前に置いて、困ったような笑顔を見せる都。
「どういう事ですか?」
悠人の問いに都が答えてくれた。
「スサノオ君にご飯を作ってあげたのは本当なのよ? でも口から食材は出してないし出せないし、斬り殺されてもいないのよ。本当のところはね、私が出した料理が問題だったのよね」
そこで一息、ため息を吐いた。
「当時の私は、料理にハマってたの。それで、試作品の幾つかを出したら、勘違いされて怒られたのよ」
「試作の料理?」
「そう、野菜と小エビを細かく刻んで、出汁汁と一緒に混ぜて焼いた、今で言う【もんじゃ焼き】みたいなものね」
「あぁ」
もんじゃ焼きを知らず、かといって店でもないので、口から出したと勘違いされたらしい。
「時代を先取りしすぎた結果じゃな。それにしても、いつ聞いても馬鹿な勘違いをした弟よな」
あきれつつホットサンドをかじる月読。しかし思いのほか中のチーズが熱かったらしく悶え始めた。
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