のじゃロリ店主とアルバイト
新作を書いてみました。
少しでも笑っていただけるように書いていきたいと思っています。
日曜日。春の陽気は留まることを知らず、晴天にも恵まれた休日。四日前に入学した高校も休みであり課題も無い。しかし、少年は自宅のリビングで求人情報誌を顔をしかめながら眺めていた。
「ファミレスはキッチンとホール。警備員は無理。後はラーメン屋に遊園地にコンビニ。か」
彼は高校生らしいお小遣いのためにアルバイトを探しているのではない。去年の十一月、急に父親の北海道への転勤が決まり、単身赴任は可愛そうだからと母親が付いていくことを決め、両親が北海道に行くなら自分もいくのだろうと思い北海道の高校を早急に選んでいた彼に、両親はとんでもないことを言い出した。
「高校生なんだから、一人暮らしを経験してみないか。家賃は必要ないし、光熱費や学費も払う。ただし、食費と遊行費は自分でアルバイトをして捻出する。どうだ?」
嫌だと言ったが、聞き入れてくれるような両親では無かった。そして無事に志望校に合格すると、本格的に家事の修業が始まった。
家は戸建てで二階もある。掃除は自分の部屋だけでは無く、各部屋やリビングもやるように言われ、洗濯、食事、針仕事に至るまで今までまともに出来なかったものを強制的に出来るようにさせられた。
本格的な冬が訪れ、新年を迎え空気が温かくなり始める頃に、両親は冬の厳しさがまだ残る北海道へ旅立った。
すぐにはアルバイトは見つからないだろうという配慮で食品もお金も少しあったが、尽きるのは早い。入学式の日に求人情報誌を持ち帰り、悩みに悩んでいた。もともと明るい性格では無く愛想も良いとは言えない。接客業は避けたかったが、大半が接客業。料理を提供する店であれば、賄や割引で食生活を切り抜けられるが、料理に自信は無い。そんなことをずっと考えているうちに日曜日になっていた。
「気晴らしに外出るか」
情報誌に乗せずに、店頭にポスターが貼ってある店も少なからず存在する。もしかしたら良い店があるかもしれない。
そんなことを思いながらフラフラと外に出た。
陽気な事には変わらないが、どうにも新生活になじめない。入学四日目ではアルバイトの相談をできる友人もおらず、アルバイトも見つからない。焦りのようなものが頭から離れず、適当に歩いてコンビニの張り紙や花屋の張り紙を眺め、ため息をつく。
仕事内容や時給を考えながら歩き続けていると、一件の建物が視界に入った。
見るからに古く、外壁のタイルも白色がくすみ屋根の赤色も黒くなり始めている。扉の上には看板が掛かっており、達筆な字で【満理月堂】と書かれていた。
「あそこも店か。なんて読むんだろう」
どんな店かもわからなかったが、扉の横に紙が貼ってあるのを見つけたので、求人の張り紙かを確認しに向かう。
《満理月堂アルバイト募集中:時給1200円。仕事内容、雑用全般。土日に出勤歓迎》
と書かれていた。
「時給は破格に良いな。でも仕事内容が雑用全般ってのが気になる」
大雑把な仕事内容と時給。怪しい仕事をさせられるのではないかという不安から、変な好奇心が沸き、窓から中を覗いてみた。
薄暗い室内には、骨董なのか壺や絵画が所せましと並んでいる。そしてその合間合間によくわからないアートのようなものもある。
「いよいよ怪しさが際立ってきたな。さっさと帰るか」
今日は見つからなくとも、明日は見つかるかもしれない。そう考えながらその場を後にするために一歩後ずさる。
すると、そこで何かむず痒い感じに襲われた。物理的では無く違和感に近かった。左下から感じるそれを確認してしまう。
「――ッ!!」
戦慄を禁じえなかった。窓枠の下ギリギリに自分を見上げる目が二つ。恐怖を覚え逃げ出そうとするより早く、窓が開いた。
「ちょっと待つのじゃ、小僧!!」
窓枠から身を乗り出しながら叫ぶ声はとても幼く、それに合わせて身体も小さかった。
「今、張り紙を見ておったよな。ウチで働かんか? 時給はこの辺りじゃ一番良いぞ」
いろいろと状況が呑み込めないまま無言で三十秒。目の前の少女はたたみかけるように話し始める。
「仕事も別段キツくは無い。私はどうも片付けとかが苦手でな、それをやってもらうのがメインじゃ」
悪くは無いようだが、やはり不安がぬぐえない。まず容姿と言葉使いがちぐはぐだ。見た目は、黒髪のショートヘアに黒い瞳。身長は恐らく一二〇センチを軽く超える程度。服装は七五三の着物の様で、どう見ても子供なのに言葉の端々が年寄り臭い。しかもその子供がアルバイトを募集している。
「いや、あの、考えておきます」
一先ず適当な言葉で回答を濁すことにした。
「明日にはバイトが決まっとるかもしれんぞ?」
自分の中で、仕事内容や時給。明日には無いかもしれない求人。それらを考えた末に出した答えは、
「もう少し話を聞かせてもらっても良いですか?」
だった。
「ああ、構わんよ。茶くらい出してやるから中に入れ」
窓は閉まり、代わりに扉が開く。
「お邪魔します」
木の匂いに交じって、微かに埃の匂いが鼻をつく。
「ほれ、此処に座れ」
散らかっているテーブルを適当に片付け、椅子を勧める。
「茶の用意をするから、ちょっと待っとれよ」
ありがとうございます。と言って椅子に座って待つ。何となく周りを見ると、乱雑さが目立っている。
どのくらい周りを見ていたのだろう。何時まで経っても帰ってこない少女を不審に思っていると、お盆を抱えた少女が帰っていた。
「遅くなったな。美味い茶は時間がかかるのじゃ」
よっこいせ、と言いながらお盆をテーブルに乗せ、自分も椅子に座る。
急須から緑茶を注ぎ、羊羹と一緒に差し出される。
「ありがとうございます。……それでバイトの事なんですけど」
「まぁ、茶でも飲め。急ぎの用は無いんじゃろ?」
ほわりと湯気を立てる湯呑茶碗を持ち口を付ける。
「美味しかろ?」
「ええ、美味しいです」
何か特別な手順があるのか、今まで飲んだことのある緑茶より旨みが強い。
「それで、アルバイトなんじゃがな。この店は決まった業務形態は無いんじゃ。部屋にあるガラクタに価値を見出すもの好きもおるし、私に相談にくる者もおる。だからお主には、ガラクタの片付けや掃除を頼みたい」
「確かに美味しい話ですけど、なんで今までアルバイトが見つからなかったんですか?」
それは核心だった。仕事内容も比較的簡単で時給が良い、なにか裏があっても可笑しくは無いと思えた。
「うーん。それは解らん。仕事も時給も雇い主である私も文句の付けどころがないのに、不思議な事があるもんだ」
不思議な事は何もないのだが、しいて言えば、
「雇い主って、やっぱり貴女なんですか?」
それが疑問だった。
「それ以外に何がある。お主もそれが解っていたから黙って私の話を聞いていたんじゃろ?」
多少困惑する少女を改めて見る。
この見るからに若い彼女が店を切り盛りするには年齢が合わない。身長や顔の造作が幼いのは個人差だが、店のオーナーは別にいて、彼女もアルバイトか何かかと思っていた。
「まぁ、一応と言うか、流れと言うか。関係者なのは判ったんで話を聞いてました」
「今までにも二、三人は訪れたことは有るのじゃがな。お父さんかお母さんは? とか、一人で留守番出来て偉いね。とか言っておったが、お互いに要領を得ずに終わったな」
遠い目をしながら語る彼女。
自分はよく付き合っている方なのだな。と感心していると、少女はさらに言葉を紡ぐ。
「それで、お主はどうする? 私としては、そろそろバイトが欲しい」
なかなか自分に合ったバイトが見つからない現在、このバイトはチャンスだと思えた。
「俺も早くバイトを始めたいですし、お世話になります」
互いに頭を下げ、満理月堂で働くことが決まった。
「ところでお主の名前とは何というんじゃ?」
「壬生悠人です」
「見た感じは学生じゃな。高校生か」
「はい、高校一年です」
「そうか。私は月読という名じゃ」
「…………。は?」
「なんじゃ、人の名を聞いてそのリアクションは無いじゃろ」
「ああ、ビジネスネームですか」
「本名じゃ。月読という名くらい聞いたことあるじゃろ。解らないならインターネットで調べよ」
月読と言う名は聞いた事はあった。日本における神々の中でも、有数に名の知れた神。書物への登場頻度は極端に少ないものの、天照大神、須佐之男命と同列の、夜を司る神とされている。
そこまで神話に詳しくないので、その程度の知識しかないが揶揄われている可能性もあるし、自分が知らないだけで神話以外の月読と言う単語があるのかもしれない。
自分で調べろと言われたものを、いつまでもしつこく聞く気も無い。家に帰ってから調べようと決める。
「アルバイトは明日から頼むぞ。学校が終わってから来い」
堂から送り出され、は帰路に着いた。
自室のパソコンを立ち上げ、ツクヨミという単語を検索してみる。そこには、ゲーム・コミックなどに登場するキャラクターが並んでいた。
「揶揄われたのか、それとも」
自分の知識が正しいのか。と頭を過ったが否定する。
「まぁ、いいか」
悪い人ではなさそうなのが救いだと考え、夕飯を適当に取りもう寝る事にしたのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
楽しんでいただけたでしょうか。
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