ハロウ
今回は少し短いです。
「次は、フラッツ=フォンティーヌ。フラッツ=フォ......。」
独特の車掌口調が聞こえた。
私たちが降りる駅だ。荷物を纏めつつ車窓を確認すると、夜の帳は既に落ちていた。
ーー疲れ切った体をベッドにダイブさせる。今日は両親もいないし自由だ。
1日を振り返ると、本当にいろいろなことがあった。
私は、もう少し私の事を知るべきではないだろうか。
勢いよく体を起こして、辺りを見渡す。ここは私の部屋だ。
本棚、クローゼット、机の上。思い出そうとしても、なかなか記憶していないものだ。自分の部屋の捜索が始まった。
埃のかぶった背表紙を指でなぞる。並べられた本は小説が殆どだ。タイトルを見て内容を思い出せるものと、そうでないものがある。積読だろうか。今度読んで見るのもいいかもしれない。
魔術関係の本が見当たらないのが何とも私らしい。私もきっと諦めていたのだろう。
次はクローゼットか。ウォークインクローゼットだったとは贅沢な仕様だ。
生温い黄銅の握りに手をかけて、滑りの悪い折れ戸をこじ開ける。
目に入ったものといえば、先ず衣類だ。置き場所に困ったのか、動物のオブジェが無造作に転がっていた。
それと、これは何だろうか。長い革製の袋なのだが、私の記憶にはない。そんなもの、存在するのだろうか。しかし、親が勝手に収納したということも考えられなくはない。少し指で触れた後、握って見たが、やはり何かを包んでいる様だ。中身を確認してみるか。
......重い!?
人は物を持ち上げるとき、見た目で判断して力を調節するというが、これではとても動かせない。5kgはあるだろう。改めて両手で持ち上げて、カーペットの上に移動させた。
合計3箇所が紐で縛られていた。一つずつ丁寧に外していく。
一番上の紐を解いたとき、拳より一回り小さい黄色の宝石が現れた。それは木目調の何かに包まれていた。
これと同じ様なものを前にも見た気がする。そう、杖だ。魔法実技の際に当然の如く杖が使われていたが、宝石の色形は様々で、これと似た様な杖もあった気がする。
私には杖すらないと思っていたが、一応形だけでも揃いそうだ。
『自分の杖』という単語に心踊らせて、袋から引き抜くと、その違和感に目を凝らした。
確かに、最初私が見た部分は杖だ。しかし、先端は鉄の筒になっていて、これはどう見ても
「銃だ......。何故こんなものがここにあるの。」
銃杖、魔法銃。これは如何表現したらいいのだろうか。
おもむろに部屋の灯りを消して、窓を開ける。風は吹いておらず、向かいの家の部屋も暗い様だ。
今夜は朧月か。月明かりすら十分に降らないものだから、街は一層色を失った様に見える。
銃を両手で持ち上げて、手を震わせながら、月に銃口を向けた。
あとで考えれば、悪ふざけもいいところだろう。ゆっくりと、力を込めて引き金を引く。
宝石が僅かに光ると、耳に刺さるような破裂音と共に、流星の如く光る弾丸が、月を目掛けて飛び出した。
予想外の出来事に狼狽して、床に崩れ落ちる。慌てて窓を閉めて、部屋に灯りをともした。
呼吸が止まりそうになって、胸を押さえる。先ほどは何が起きたのだろう。いや、あれは間違いなく私の所業だ。
微かに光っていた宝石も、今は元どおりだ。
弾丸も、普通ではなかった。曳光弾?いや、違う。遥かに不可思議な『何か』だ。魔法だったのだろうか。そう考えた方が楽でいいかもしれない。
もしも、あれを使いこなせたら、フィセルの負担も少なくなるかな。
今はそればかりだった。
力なくベッドに横たわる。とっくに夜も深い。
難しいことは、今度考えよう。