エンヴィー
次回は少々問題作で手直しが必要なため、更新が遅れる可能性があります。
やはり、夏は嫌いだ。私は大人しく土の上に座っているだけなのに、太陽はそれに構わず燦燦と照らしつける。
ああ、何でこんなことになってしまったのだろう。
生徒たちはグラウンドの真ん中で先生の話を聞いていて、私はその端っこで傍観していた。カネルが申し訳なさそうにこちらを度々見ている。
次の授業は魔法理論の実技だった。
オリヴィエ先生が昨日伝えていたらしいが、結局私には関係のないことだ。
魔法が使えないのだから。
「では、実技試験に向けての対策授業を始める。」
騒ついた場が一気に静かになった。皆も緊張しているのだろう。
それにしても、対策授業すら受けられない私が実技試験は受けなければいけないなんて、考えなくとも可笑しな話だ。
「いつもは的を使って精度の向上などを行なっていたが、今回は1対1で演習をやりたい。」
生徒は動揺した。これでは実技試験に戦闘要素があるといっているようなものだ。
「そして、今回使用する演習用器具がこれだ。」
よく見えるように高く掲げられたのは、緑色の宝石で飾り付けられたネックレスのようなものだった。
「これを首から下げると、自分の魔法が与える身体的なダメージが0になる。これを互いに身につけることで、安全に演習が行えるんだ。」
オリヴィエ先生はそのまま自分に掛けて見せた。その瞬間、緑色で半透明のパネルのようなものが幾つか表示された。
「身につけるとこういったパネルが表示されるが、一番見てほしいのはこの致命ゲージだ。」
オリヴィエ先生が指をさしたパネルには青い文字で『0%』と書かれていた。
「これを身につけていれば魔法による身体的なダメージを伴わない。だから、これで判定するんだ。100%に届いた人が敗者だ。魔法や強い物理的ダメージを受けると溜まっていく。特に首や頭への衝撃はゲージを伸ばしやすいから気をつけろ。」
説明を終えると、首に下げた演習用器具を外した。
表示されていた緑色のパネルが次々に消えていく。
説明を聞いていた生徒の中から、一つ手が上がる。フィセルの手だった。
「先生、体調が悪いので見学したいです。」
「そうか。無理はするなよ。」
オリヴィエ先生はすんなりとフィセルの願いを聞き入れた。こういうことって彼女以外だったら怪しまれるんだろうな。
演習の順番と相手は籤で決めるようだ。少人数体制をとっているため、クラスの人数は20名程で、私とフィセルが抜けたことで丁度9ペアが出来たことになる。
「こういうのは初めてだよね。早く皆の魔法をみたいな。」
誰もいないはずの隣から声が聞こえて、体が固まってしまった。声の正体はフィセルだった。気づいていなかったことを隠したくて、驚いた表情も隠す。
「大丈夫? さっき体調が悪いって......。」
「ああ、それなら大丈夫よ。どうせ一人余ることになって決めるの時間かかりそうだったから。」
フィセルは小悪魔のような笑みを浮かべていた。
「えっ!嘘だったの!? 」
フィセルに右手で口を塞がれた。彼女は左手の人差し指を口に前で立てて見せた。
「そういうことになるわね。」
「フィセルさんもそういうことするんだ。なんか意外だな。」
「まあね。」
今度は小さな声で話した。
誰もいなくて寂しかったけど、彼女がいるだけでなんだか楽しい。
丁度今は二つのコートで計4人が争っているが、正直微妙だ。私が言うのも本当になんだが、動きがぎこちないのだ。普段は的に当てるような練習しかしていないから、実践が身についていないのだろう。
退屈になって少しよそ見をしていたら、次に控えている男子生徒が見えた。確か、彼の名前はフォンセ・ラファールだ。
風魔法の適正者で実力はトップクラスだと聞いたことがある。フィセルには到底及ばないと思うけどね。
と、思っていたら、彼の友人らしき人物が彼に近づいていた。何か話しているようだ。
「なあ、次のお前の相手ってさぁ。」
「ああ。ショードロンだよ。」
「あー。じゃあ楽勝だな。彼女いい子ちゃんっぽいし。」
「まあね。属性も有利だし、まずは肩慣らしかな。」
ラファールは余裕綽々といった様子だった。それを聞いた私は眉間に皺をよらせた。何だか体が熱くなっていた。怒りが収まらない。
『ショードロン』というのは、カネルのファミリーネームだ。つまりカネルのことを言っているのだ。
しかし、私は肩を落とした。今の私には何も出来ない。また、彼らの言う通りだ。カネルはいつも大人しかったし、属性も不利だ。
この世界の魔法属性には、残念ながら相性というものが存在する。
『火は水に弱く、水は地に弱く、地は風に弱く、風は雷に弱く、雷は火に弱い』
因みに無属性は攻撃魔法が無いため、相性は関係ない。その代わりに身体能力の上昇効果を持つ魔法などが使える。
まあ、これが魔法属性にはの相性なのだが、カネルが地属性であるのに対してあいつは風属性なのだ。
Aコートの対戦が終了してつぎの名前が呼ばれた。
「3番Aコート。北、カネル・ショードロン。南、フォンセ・ラファール。」
カネルの名前を聞いて、私は手を強く握りしめることしか出来なかった。