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惰性と嘆きと鉄の少女

実力は均衡している。はっきり言って彼女らは強い。私たちももちろん負けてはいないが、予想以上だ。こんなのと組んでいるのだ。もしかしたら凄いチームかもしれない。いや、今は違う。私は胸に高鳴る希望を押さえ込んだ。

状況を整理しよう、何故不利なのか。こちらと圧倒的に違うのは、仄香の回復魔法。あれのせいでこちらはジリ貧の戦いを強いられる。

それに加えて、初都のデタラメな高火力魔法だ。制限時間の五分間が長く感じられた。といっても残りは少ないだろう。でも、制限時間を過ぎればこちらは『劣勢』判定を食らってしまう。

......となれば、一人ずつ叩き落とすまでだ。


「太陽よ、その強大な力を私に貸して! ソレイユ・タンペット・マニェティスム!」


強大な磁気嵐が出現する。

私が狙ったのはプラハだった。彼女は水魔法使いだが、水魔法というのは......というより、地属性魔法と無属性魔法以外は防御魔法が得意な方ではない。

巨大なプラズマの塊がプラハに襲いかかろうとしていた。


「アシエ・ブークリエ! 」


仕留めたと思っていた。しかし、私の放ったプラズマは聞いたこともない魔法とともに弾かれた。

なんだアレ......。予想外の出来事に、冷や汗が頬をつたったのがわかった。

銀色に光るそれは、まさしく鋼鉄であった。


『魔法属性は......水。』


プラハの声がフラッシュバックする。あれ、これなんだったっけ。そうだ。自己紹介の時の。でも私、何か違和感を覚えたような気が......。


そうだ、あのとき、何故彼女は言い淀んだんだ?

もしも、それが嘘だったなら。いや、事実と異なるならば。

至って自然なことだったんじゃないか。


「あんなものを隠していただなんて......。」


カネルが呟く。そういえば、カネルはプラハとペアだったな。

そのカネルが知らないということは、実技テストは余裕だったということか。カネルにとっては複雑な心境かもしれない。


「地獄の業火よ、私に代わって燃やし尽くせ!グラン・フラム・アンフェール!」


フィセルが透かさず魔法を唱えた。通常、金属ほど熱に耐性をもった物質も少ない。しかし、あまりに強い熱を受ければ、(たちま)ちの内に蒸発してしまう。それ故、炎魔法の攻撃力の限界は底知れない。


鋼鉄の壁が早くも歪み始めた、プラハも限界を感じたのか、壁を放棄して後退した。


「あんまり使いたくなかったんだけどな......。」


プラハが構える。まずい、なんとか阻害しなければ。何が飛んでくるかわかったものではない。


「グラン・デトワール・アン......。」


「させないわ!レ・マンス・アンパクト!」


私の目の前に飛び出てきた仄香の詠唱の方が、僅かに早かった。

私に向けられた拳から衝撃波が放たれる。私は避けたつもりだったが、衝撃波によって幾分か後退することになった。こんなこともできるのか......。


「鋼鉄の針よ、彼らを貫き給え。ヴィエルジュ・ド・フェール!」


「テール・グラン・ブークリエ!」


プラハが詠唱を終えた瞬間、カネルが前に出て防御魔法を唱えた......が、鉄の針はその防壁を貫き、間一髪のところで止まった。

先ほどとは違い、これはカネルの最高防御魔法だった。それを軽々と貫いたのだ。何という威力だろうか......防御だけではなく攻撃力も申し分ない。


それより、時間もあと少ししかない。

早く決定打を、勝つための一手を打たなければ。


「風よ、彼らを薙ぎ払え。ヴェール・アンパクト・ジガンテスク!」


辛うじて原型を保っていたカネルの防壁が、初都の一撃によって消し飛んだ。彼女の魔法はとにかく派手で、威力が高い。私もあんな魔法が使えたら......。

そうだ、それだ。私の実力は私でもわからないのだ。もっと自分の可能性を信じなければ。

丁度いいところまで吹き飛ばされたな。詠唱するなら今しかない。


「宙に浮かぶ星々よ、私に力を貸して! ロタシオン・システム・ソレール!」


辺りが激しい閃光で包まれたかと思うと、太陽系を模した巨大な球体が次々に飛び交った。

爆音と土煙で上手く周りが把握出来ない。着弾したかということですら分からなかった。


その時だった。終了の笛の音がコート全体に鳴り響いたのは。

判定は『優勢』勝ち。最後の一撃は無事に決まったらしい。息もつかないような、非常に激しい戦いだった。


「お、終わった......。」


私はその疲労から、コートに崩れ落ちて天を仰いだ。

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