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脆弱な戦闘狂の具現

あのあと、初都と仄香を私たちの寮室に呼んで、小さな会議を開いた。親善攻城戦というイベントにおいて、会議の時間は設けられていない。生徒がどれだけ自主的に話し合いを進めていくかも鍵になるのだ。二段ベッドが並んだ部屋の奥に、小さな黒板があったので、そこに固まった。


「で、カネル。何か考えはあるんだよね?あんなこと言ってたんだから。」


プラハは飽くまでも頼り切ると言った様子だった。


「まあ、いくつか考えているけどみんなの実力を見ないと判断できないかな。」


同じ学校の出身同士であれば実力もわかっていると思うが、今回に限ってそれはない。また、私に限っては実力が未知数という例外である。

自由な戦い方が可能なこのイベントでは、何よりも役割を決めることが大切なのだ。


「演習でもする?確か、敷地内に留学生用のコートがあったわね。」


「え、そんなものがあるのですか。」


フィセルは流石にこの学園の造りには詳しいようだ。初都を含め、私たちもその存在を知らなかった。きっと『留学生用』ということで、規模も小さいのだろう。


「じゃあそうしよっか。仄香さんとステレールちゃんもいい?」


「別に構わないわ。」


「うん。カネルに任せるよ。」


先ずはひと段落ついた感じだ。全く、何をしたらいいものか手探りである。リーダーのカネルはさらに大変なことだろう。


「ところでフィセルさん。コートってどうやって利用するのです?」


カネルが訊いた。


「あ、それならもう予約してあるわ。多分使うだろうなと思って。」


流石である。きっとアレな感じの権力が働いている可能性も否めないが、私たちにとっては嬉しいことだ。


「......!本当ですか。」


「じゃあ、今から行きます?今日はもう授業も無いですよ。」


初都は結構乗り気なようだ。そういえば、魔法が好きと言っていた。きっと興味があるのだろう。


「じゃあ、そうしますか。善は急げ、です。」



ーー予想通り、中々年季の入ったコートだった。だが、広さは十分だ。前にも使ったことがあるネックレス型の魔法器具をつけて、準備は万端だった。


「じゃあ、取り敢えず2チームに分けましょう。」


魔法器具にはルーレット機能も付いていた。チーム分けの結果、『私、カネル、フィセル』と『プラハ、初都、仄香』のグループに分かれたが、なんだかプラハは不満そうだった。


演習は制限時間5分。開始の合図は緑色のネックレスが光った時だ。

私はそれを握りしめる。ここからだ。ここからなのだと自分に言い聞かせた。銃杖のトリガーに指をかける。

......光った!


前を見る。まずは様子見か?照準器も確認せずに銃杖を構える。一番最初に前に出たのはフィセルだった。


「アンパクト・ヴィヨラセ!」


紫色の衝撃波が三人に向かって飛ばされた。省略魔法だ。魔法を使うとき、そのイメージを具現化するために前置きのようなものを含めて詠唱する。しかし、それを省略して、奇襲戦法などに使われることもあるのだ。

フィセルも本気ということか。私も.......!


透かさず向かって右側に弾幕を張り、相手の逃げ道を塞いだ。それと同時に走る。間合いを詰めるのだ。

直撃したか?周りに弾幕を張りつつ、土煙をかき消した。

居た。仄香を中心に、透明なバリアで守られているように見えた。

いや、今がチャンスだ。


魔法とは、定型句によって構成されている......。と思ったらそこでお終いである。厳密には、決まり文句を詠唱した方が、考える手間もなく便利だということだ。

魔法とは、本来もっと自由なものである。教科書に載って居なくても、研究なんてされてなくても、知ったことでは無い。

私は私の道を切り拓く!


「天の星々よ、私に力を貸して! グラン・デトワール・アンヴォカシオン! 」


金色に光る魔法陣が展開された。辺りは光に包まれる。......これは少しマズイかも。地面を蹴って、大きく後ろに下がった。

次の瞬間、流星群が次々にバリアのあった(・・・)場所に襲いかかる。

凄い威力だ.......。魔力の消費量も大きいが、銃杖から生み出される無尽蔵の魔力によってようやく供給されているのだ。


「我らを癒せ!グラン・ルヴィーヴル!」


仄香の声が聞こえた。無属性魔法......。その名前とは裏腹に、非常に厄介で純粋に強い。これは無属性魔法の得意分野の一つ、回復魔法である。

これ以上戦線に食い込むのは危険だ。大きく後ずさりする。


「流石です......星属性魔法。予想通り。いや、それ以上です。」


初都が呟く。不気味にも、その顔は笑って居た。魔法が好きだと聞いたが、こんな時でも好奇心を発揮できるものだろうか。私は小さく身震いする。


「風属性よ、私にその力を委ね給え......!フルール・ド・ヴェール!」


次の瞬間、私は戦慄した。余りにも強大な魔力がこの場を支配した気がしたのだ。これは、これを形容するならば......。


『魔王』とでも言えばいいのだろうか。


「こ、これは......!」


カネルも動揺していた。どうする?アレ(・・)に向かってもう一度魔法をぶつけるか......。いや、私はあの魔法を知らない。もし反射機能でも付いていたらこちらはひとたまりもないだろう。

初都の周りが、緑色の蕾のようなもので覆われ、2秒も経たないうちに開く......いや、開花(・・)した。

黒かった初都の目が、深い緑色に光っていた。


初都が、目を細めてこちらに笑いかけた。


「風よ、彼らを殲滅せよ!グラン・ラファール・ジガンテスク!」


鮮やかな緑色の閃光が煌めき、次の瞬間気がついたら私たちは吹き飛ばされていた。


「......ヴァーグ・ブルーエ! 」


さらに後ろに控えていたプラハが省略魔法で追い討ちをかける。しまった、初都の猛攻で忘れかけていた。


「ジョーヌ・ブークリエ!!」


私に襲いかかった波が、岩石の壁によって遮られた。カネルだ。間一髪のところで彼女が助けてくれた。私は受け身をとって着地し、体勢を立て直す。ネックレスを確認すると、致命ゲージは50%に達していた。

不味いな......これは。


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