遊星ギア
「ほ、星属性?」
初都と仄香の二人は目を丸くして驚いた。無理もない。しかし、このような反応をされるのは慣れていないもので、対応に困ってしまう。
「やっぱり驚くよね。私も聞いた時は驚いたよ。色々と。」
カネルがフォローしてくれた。しかし、いつそのことを言っただろうか。多分フィセル辺りにでも教えられたのだろう。
「ぜ、是非詳しく聞かせてください。もしかして特殊派生魔法の使い手ですか。」
初都は再び目を輝かせて、私に迫って来た。
「ごめん。私もよくわからないんだ。発覚したのもつい最近だし、何より、良くも悪くも星属性は私一人だから。全然解明されていないの。」
「やはりそうですか......。残念ですが仕方がないですね。」
初都はいつものテンションに戻って、あからさまに落ち込んでいた。何もしていないのに、罪悪感が募る。
「で、でも!属性だけ見れば満遍なく揃ってる感じがするわね。もしよかったら組まない?」
話を変えようと思ったのか、仄香が発言した。『組む』とは一体なんのことだろうか。
「親善攻城戦のことかしら。」
と、フィセルが言った。
親善攻城戦。私はよく聞いていなかったが、授業の前に先生からそのような言葉が出てきた気がする。言葉だけで、説明は無かった。あまりにも有名なもので、知っているのが暗黙の了解ということだそうだ。
親善攻城戦とは、イロンデル首都魔法学校の伝統的な行事だ。留学生とクリザンテーム出身の生徒がそれぞれ6人グループを作り、学校敷地内の闘技場で競い合う。実技試験的な意味も兼ね備えているそうだ。
実際、軍の関係者など多くの人間が観戦しに来るため、卒業後の出世にも影響するという、なかなかシビアな一面もある。
とはいっても、田舎国からやってきた留学生と現地出身の生徒とでは、実力の差は明確。留学生側が勝利することは非常に稀だ。そのため、留学生は自分の出世の為だけに存在するようなものだと見下す生徒も多いとか。
なかなか失礼な話である。
「そう!......どうかな?丁度六人だし。」
仄香は周りの顔色を伺うようにして言った。私を含め、急な勧誘に応えあぐねているようだ。
「少し早くないですか。何か急ぐ理由でも?」
カネルが尋ねた。相手を追求するような、鋭い目だった。
彼女のことを疑っているのだろうか。
「うっ......。」
仄香は初都の方をちらりと見た後首を振って、何かを決心したような表情になった。
「その、私たち悪目立ちしちゃったからさ。あなた達の所なら入れて貰えるかもって思っちゃったんだ。」
彼女はそう言った後、照れ隠しする様に微笑んで、小さく「ごめんね。」と呟いた。
「いや、こちらこそごめんなさい。それに......私個人としては仲間外れにするつもりもないから。」
カネルは慌てて言った。彼女なりに申し訳ないことをしたと思ったらしい。
仲間外れにする気は無いのは私だって同じだ。疑心を抜きにすれば、この提案は寧ろ心強かった。
フィセルもカネルの言葉を肯定する様に頷いていた。
「私も賛成だよ。これも何かの縁でしょ。」
私が言うと、仄香は表情を明るくさせた。プラハの方を見ると、相変わらず面倒くさそうにしていた。
私の視線にはすぐに気がついた様だ。
「ああ、僕?別にいいんじゃない。どうせ出来レースなんだから。メンバーさえ揃えばそれでいいよ。」
彼女の賛同......?も得られた。
「もう、そんなこと言って。戦う前から諦めないでよ。」
カネルは呆れていた。軍人の血が流れているからか、こう言うことに関しては結構本気で取り組むのだ。
「やるからには頑張りましょう。」
仕切り直す様にフィセルが声をかけると、皆頷いた。
それぞれに、色々な思いがあったのだ。不安だとか、不満だとか。しかし、勝利への意欲というものは、皆一様に持っていた。
私は気付くはずがなかった。この時、私の運命の歯車は既に回り始めていたのだ。