3話 厄介な依頼内容
誤字とかあまり見直ししてません
キーク率いる冒険者パ-ティの名は【鉄壁の絆】と言う。
アッガスの窮地に見せたマレルの怒りは、その名を如実に表している様だった。
そして、強制依頼の当日。
時刻は正午を過ぎて、ブリットとウルドは指定した場所【ペリドット遺跡】の入り口にやってきていた。
「あのパーティはちゃんときますかね?」
「来なかったら来なかったで仕方のないこった。まあでも、あいつらはきっと来るよ」
鉄壁の絆の面々は、三人ともがDランクの冒険者である。
そして、このペリドット遺跡の地下ダンジョンはDランクフィールドでも有名である。
Dランク冒険者三人組が、その上のCランクフィールドに挑むには頭数が足りないし、Eランクフィールドでは物足りない稼ぎになってしまう。
したがって、この遺跡を強制依頼に選んだのは、ブリットなりの配慮でもあった。
丁度良いランクでの強制依頼は珍しいのだから。
ただし、一筋縄ではいかない内容ではあるのだが。
だからこそブリットは価値があると睨んでいる。
本来、強制依頼と言うのは、攻略困難なフィールドでの依頼をなんとか頭数を集めて達成するためのものである。
未開のフィールドを開拓する為に、ほぼ無給で強制的に冒険者を集めるのがこの強制依頼の最も多い使い道だった。
ただし、これを行使する権限を持ったギルド職員は片手で数える程しかいない。
その内の一人がブリットなのである。
「ところでウルド。その戦闘服は新調したのか?」
「あ、はい。西区画のエッシェンさんところで勧められまして」
斡旋者――ギルドの職員の中には稀に冒険者の資格を持つ者もいる。
その珍しい例がブリットであり、ウルドでもある。
冒険者になるには、ギルドで指定されたジョブの資格を有する事が必須になるのだが、例えば鉄壁の絆のリーダー、キークは戦士のジョブ。マレルは魔法使いのジョブを得てから冒険者となっている。
戦士も魔法使いもどっちも下級ジョブである。Dランクの彼らにはまだ上級ジョブにはなれないだろう。
では、ブリットとウルドは何のジョブであるのか。
「なかなか、上等なプレートメイルだな。ただ俺としてはもう少し下衣のスカートが短くてもいいとおも……ごふぉっ!」
舐めるようにウルドの美脚を眺め、オブラートなどないかの如く直情な感想を述べたブリットの腹に鉄拳が食い込んだ。
ただ、今回の一撃は薄めのプレートメイルに付随するガントレットを纏ったボディブロウである。
いつもよりブリットの回復に時間がかかったのは当然であった。
ウルドのジョブは戦士の上級ジョブ【パラディン】である。
亜人、特にサキュバスの特性を持つ者にすれば珍しいジョブであろう。
しかも、パラディンの武器はロングソードと相場は決まっているのだが、ウルドは体がすっぽりと隠れる大きな十字盾で戦闘に挑む。
「あ、あまり色めきだった視線で、み、見ないでください!」
「お、おう……す、すまなかったな。でも、やっぱりスカートはもうちょい短い方が他の冒険者もよろこぶ……ごふぉぉぉぉっ!」
あまりにも短時間によるセクハラ発言での制裁はグレードを上げる、と言う取り決めが二人の間で交わされている。
なので今度は十字盾の先端が突き刺さり、ブリットの腹部に衝撃が走る事になった。
鉄拳制裁にしても、この重い一撃にしても、Aランクの冒険者だって回復するのには時間がかかるダメージである。
生命力の低い低ランク冒険者や魔物であれば即死してたっておかしくない。
それを日に何発も受けて、ケロッと回復するブリットが少々おかしいのは分かっていただきたい。
ただし、この超回復の種はブリットのジョブがあればこそなのである。
そんな一幕が終わった頃、正午を十五分程過ぎた時に彼らは揃ってやってきた。
「おう、少し遅かったが、まあ時間内だ。これから強制依頼の遂行をしてもらうぞ」
そう言うとブリットは、詳細な内容が記載された強制依頼書をキークに渡す。
鉄壁の絆の面々は嫌々な感情を隠そうともせずに、その文面を確認している。
「どうだ? お前達なら出来ると俺は踏んでるんだけどな」
仕方なく来てやった。
そんな心境が滲み出ていた三人の顔が、見る間に驚きの表情に変わっていく。
真っ先に異議を唱えたのは、やはりリーダーとしての責任からなのかキークだった。
「ちょっと待ってくれキングレイさんっ!」
「あ、そうそう、俺の事はブリットって呼んでくれ」
そんな呼び方などどうでもいいと言わんばかりにキークは話を進める。
「こんな依頼内容、Dランク三人のパーティに達成できるはずないだろう?」
これを皮切りに、好印象などと程遠い感情を抱えるアッガスとマレルも突っかかって行った。
「おい貴様! やはり侯爵様に処罰を受けたいのか? こ、こんな無茶苦茶な依頼を俺達に吹っ掛けるなんて職権乱用もいいところだぞ!」
「ほんっっとに失望しました! あなたの今の地位はきっとそうやって汚い奸計を巡らせて、正当なギルド職員を蹴落として得たに違いないと私は断言できます! なんでこんな荒唐無稽な内容を押し付けるんですか!」
怒号紛糾。
彼らが怒るのも無理はない。
何故なら彼らは知らないのだ。
ブリットから斡旋される依頼はこれが初めてなんだから。
だから、彼らは自分たちがこの依頼を達成できる潜在能力があると、暗に示されている事になど気付くはずもない。
「なんだよ、お前達なら出来るって。それにこの依頼は俺達一緒に行く同行依頼なんだぜ?」
それを聞いて、三人はさらに驚きに見舞われる。
「おいおいブリットさん。あんた戦えるのかよ? それに同行依頼ってあんたら職員や斡旋者には報酬でないんだろ?」
後ろで控えるアッガスもマレルも、その指摘に大きな頷きでキークに同意を示した。
ちなみに、今回の強制依頼の内容。
実はDランク三人でどうにか出来る様な代物などではなかった。
「いいから黙って俺とウルドについて来い! 心配するな、この先の戦闘は全部俺とウルドが請け負ってやる。お前らは後ろでのんびりと鼻くそでもほじって見てなって」
そう言うや否や、ブリットは遺跡の入り口へとずんずん入って行ってしまった。
その後ろを躊躇なくウルドが追っていく。
鉄壁の絆の面々は、最後の言葉の意味を確認する事も出来ず、これまた渋々と言った顔をして急ぎ後を追いかるのであった。
きっと彼らはペリドット遺跡と聞いて、通常の依頼内容を想像していたはずである。
Dランクフィールドの魔物を一定数討伐するか、又はその魔物が落とす素材を一定数収集する依頼と思っていたはずなのである。
だから彼らがあまりにも取り乱して驚いた事など、ブリットは容易に予測していた。
論より証拠。
この驚きの依頼内容を、ブリットとウルドだけで達成させる事で、ブリットは彼らの才能を開花させようと企んでいるのである。
さて、その一筋縄ではいかない内容であるが。
【依頼書】
※強制依頼
フィールド:ペリドット遺跡
日時:四の節・十六の日
集合時間:十二の刻
締切時間:十三の刻
内容:ペリドット遺跡最深部を脅かすフィールドボス【ウィンドゴーレム】の討伐。
これが、ブリットが用意した強制依頼の中身であった。
もし、この依頼書をAランク冒険者三人に見せたとしても、鉄壁の絆と同様の驚きを見せたに違いない。
この内容はそれ程までに有り得ない依頼なのだ。
まず、三人でフィールドボスに挑むのが無謀だし、Dランクフィールドのボスと言えども、Aランク冒険者十人は必要であろう。
さらに最も厄介なのが、締切時間にあった。
たったの一時間では、ダンジョン最深部へ到達する事すら怪しい時間設定なのだから。
だがブリットは達成不可能な依頼は決して斡旋しない。
彼はこの依頼を鉄壁の絆だけで達成できると確信しているのだ。
だからまずは、不可能と思われている幻想と、その思考の限界をぶち壊す。
それを見せる為、ブリットとウルドは襲い来る魔物を、紙くずを捨てるのと同じように片っ端から片付けて驚くべき速さで遺跡を潜っていった。
次回、ブリットのジョブやら戦闘能力やら明らかになります