出会い
「ふっ!」
放たれた二つの斬撃が、武器を構え殴りかかってくる敵へと吸い込まれていく。
「グギャァアア!!」
私の目の前でゴブリンが耳をつんざくような悲鳴をあげ、糸が切れたように地面へと倒れた。
「いらん寄り道をしてしまった」
龍の巣跡へと向う途中、たまたま運悪くゴブリンの群れと遭遇してしまったため、仕方なくこちらへ向かってくるものだけを斬り伏せていた。
ちなみに依頼を受けに行くと二回に一回は”運悪く”モンスターの群れに遭遇している気がする。
「私がそれなりに腕利だったからよかったものの、そうじゃなかったらこの加護のせいで死んでいただろうな」
まぁそもそも大した腕じゃなければあの邪神と会うこともなかったのだろうけれど。
憂鬱になりそうな気持ちを抑えこみ、剣にこびりついた血を拭って先へと進む。
龍の巣跡は私が拠点としている街であるイリーネから歩いて二日ほどかかる位置にある。
元々は貴重な鉱石が取れる鉱山だったのだが、ある時から産卵のために龍種が住み着いてしまい立ち入り禁止となった場所だ。
産卵を終え龍がいなくなったということなので、立ち入り禁止を解除しても平気がどうか調査してほしいというのが今回の依頼の内容だった。
「まぁきっと、モンスターの住処になっているんだろうな……」
ここ最近の自分を考えると、何事もなく調査が終わるなんてことはないだろう。
おそらく、何かしらのモンスターが巣食っているにちがいない。
下手をしたら巣を捨てたはずの龍が戻ってきて、なんてこともあるかもしれない。
「これから先もずっとこんな生活が続くのかと思うと気が重い……」
幸いにも私は冒険者の中でも相当手練れの部類に入ると思う。
龍種と遭遇してもただではやられない自信があるし、モンスターの群れ程度なら傷を負う心配もない。
とはいえ、面倒ごとに巻き込まれないにこしたことはなく、何より精神的なダメージを受けるのでやめて欲しかった。
と、そんなことを考えながら歩いていると、目では見えないほど先から響き渡るような悲鳴が聞こえてきた。
「っと、これはまずいな。急ぐか」
どうやら悲鳴の主は女性のようで、甲高い声が聞こえてくる。
何かから逃げ惑っているのか、その位置は徐々に変化していた。
「ヘイスト」
速度上昇の魔法を自分にかけ、声の方へと全力で駆けていく。
声に近づくにつれて、どしんどしんという地面を揺らすような足音も聞こえてきた。
「こんなところにジャイアントオークか。随分珍しいが、はぁ、私が近くにいたからかな」
私のせいかどうかはまだ分からないが、これで誰かが殺されでもしたら寝覚めが悪い。
ジャイアントオークの特徴的な巨体が目に入ったところで、一気に加速して接近する。
「はぁっ!」
掛け声ととも剣を振り抜き、すれ違いざまに切りつけた。
ジャイアントオークは何をされたか理解できなかったようで、一瞬間の抜けた顔をした後吹き飛んだ自分の片腕を見て大声を上げる。
「悪く思うなよ」
標的を変え、こちらを憤怒の籠った目で睨みつけてくるオークを、真正面から見据え剣を構える。
どうやら私と同じくらいにみえる女の子を追っていたようで、オークから少し離れたところで地面に座り込んでいる姿が見えた。
「アイシクルスパイク」
雄叫びをあげて殴りかかってくるオークの膝に、的確に氷の杭を打ち込む。
体制が崩されその巨体がこちらへ倒れこみ、そのすれ違い様に寸分たがわず剣をオークの首へと走らせた。
「ふう。さて、そこのお嬢さん怪我はないかな?」
物言わぬ体となったオークから視線を外し、座り込んだままの女の子へと声をかける。
しかし、彼女は私をじっと見つめるだけで何も口にしない。
怪訝におもって自分の体をみると、オークの返り血でべったりと赤く染まっていた。
「っと、これでは脅えさせるだけか……」
きっと自分の姿をみて脅えているのだろうと納得するが、どうも違和感を感じる。
そう、あの眼差しは脅えというよりむしろ熱っぽい何かを感じるような……。
「あの!」
私がそんな違和感を感じていると、座り込んだままの女の子が突然大きな声をあげる。
「あなたの美しい戦いぶりに惚れてしまいました! お願いです、私をさらってくれませんか!?」
そんな突拍子もないことを叫び出した少女を見て、私は大きくため息をつく。
どうやら私の呪いじみた加護は、近よってくる人間の性格にすら影響するようだった。