第一章6話『ガチャ』
《鉄壁の要塞》は本部を中心とし、その周りにある五つのゲートからなっている。
各々役割があり、本部では主にクエストの受注が行われる。
その他にも本部は待ち合わせなどによく使われるため、酒場等も常設している。
マナさんから、《銅の券》を貰った後に《鉄壁の要塞》本部の酒場でライルと合流した。
「もう傷は大丈夫なのか?」
「エンジュが治してくれたから、問題ないよ」
そういってライルは傷口を見せてきた。
傷口は完璧にふさがりもう何の心配もなさそうだった。
「防具も同じやつを二つ持ってたから問題ないよ。それで、結局《銅の券》は手に入ったの?」
「見ろ!」
俺は自慢げに《銅の券》を見せる。
「でも、本当にいいのか?何にもお礼しなくて」
「僕とリビの仲だからね。問題ないよ」
「……」
「あれ?カッコよく思われるはずが、若干引かれてる?」
「俺、男は無理だからな?」
「なんか、酷く誤解されてるんですけど!?」
そんな会話をしながら俺は水を、ライルは《冷凍魔物ドリンク》を頼んだ。
「《冷凍魔物ドリンク》なんてあるのかよ」
「見た目はあれだけど結構美味しいよ」
そういってライルは運ばれてきた紫色の液体を飲んでいる。
「俺はお前の複雑なキャラ設定が不安になるよ」
「?」
ライルは素知らぬ顔でまがまがしい液体を飲んでいる。
「それにしても、彼女は強かったね」
「彼女?」
「そう、今日戦ったローブの刺客」
「あいつ、女だったのか。あんだけ凄い動きしてたから男だと思ってた」
「黒いローブを羽織っていたからね。遠目からは男に見えたかも知れないけど、戦った感じでは女性だったよ。武器も僕が知らないものを使っていたし、かなり強かったね」
「来月の《銅の券》配布会までには対策を練らないとな」
「そうだね。そういえば、彼女の手の甲にクラン《偽物の偽者》の紋章があったから、予想は当たってたね」
「紋章?」
「人形がナイフで引き裂かれている紋章がクラン《偽物の偽者》の紋章だよ。おそらく彼女は誰かに雇われているから、雇い主の方をどうにかした方が早いかもしれないよ」
ライルは毒々しい液体を最後の一滴まで飲み干す。
「リビはこの後どうするの?」
「俺はさっそくガチャだな」
「リビらしいね。僕はエンジュから聞いたS地点が気になるから少し休息をとった後、情報を集める事にするよ」
「あれか。俺もダンジョンに潜る時は気にかけておくよ。またなんかあったら、よろしく頼むわ」
お互いに挨拶をし、ライルと別れる。
俺は残った水を飲み干すとさっそく《召喚魔導機》がある、第三ゲートへと向かった。
斯くして、物語はプロローグに戻る。
《銅の券》を飲み込んだ《召喚魔導機》は大きく唸りを挙げている。
内部では今まさに抽選が行われているのであろう。
《銅の券》の確率は等倍。
先人達が導きだした《召喚魔導機》における☆5の確率は3%だ。
色シリーズとなると0.3%まで下がるらしい。
ほとんどの冒険者が課金するのも、納得がいく数字だ。
そんな事を思っていると、《召喚魔導機》の音が鳴りやんだ。
一瞬の静寂。
周りの静寂とは真逆に俺の心臓は激しく脈打っていた。
静寂が支配する空間に、再び《召喚魔導機》が唸りを挙げる。
--来る!
周囲が激しい音とエフェクトに包まれる。
--ピロリンッ!
俺の心を読んだかのように、取り出し口に《魔力障壁》が排出される。
サイズは俺と同じくらいだ。
今まで小さな《魔力障壁》しか見たことがないので俄然、期待が高まっていく。
まばゆい光と共に、《魔導掲示板》に結果が表示される。
--来い!☆5!
俺は願いを込めて《魔導掲示板》を見る。
『☆1《黒熱の女王》』
--☆1?
俺はその結果に呆然とし、立ち尽くす。
「デカいカプセルだと思ったら、☆1かよ、もう終わりならさっさとどけよ」
後ろの男が何か言っているが、全て俺の耳から通り抜けていく。
「てか、コイツ例の《無課金》じゃね?毎月毎月《銅の券》の一回だけでガチャ回してるやつ」
「お前があの《無課金》か。お前見たいな奴に☆5武器は似合わねぇよ。俺見たいな《重課金兵》にこそ、☆5が相応しい。ほら、どけッ!」
男に突き飛ばされ、我に返る。
当てた《魔力障壁》を転がしながら、その場を離れる。
--また、来月頑張ろう。
新たな決心と共に《魔力障壁》を見据える。
《魔導召喚機》から離れて役目を終えた《魔力障壁》は自動的に消失した。
《魔力障壁》が消えた場所を確認すると、そこには--
--一人の少女が眠っていた。