プロローグ『たった一回』
手は震えていた。心臓は堪えず大きく鼓動している。
喜び、悲しみ、怒り--周りの喧騒の中ではさまざまな感情が見え隠れしていた。
俺は先頭から数えて十番目程の位置で今か今かとその瞬間を待ちわびていた。
《銀鉄の斧》《星木の杖》《灰の短剣》《石膏の槌》など、いままでいろいろな武器を当ててきたが、その全てが冒険者の中ではガラクタと呼ばれている、低ランクのものばかりだった。
今回はきっと違う!と願い、俺は列に空いた間を埋めるため足を動かす。
真後ろでは屈強そうな男二人組が自慢の装備を暇潰しに磨きあげながら、今日のレアアイテムについて話していた。
「今回、新規で追加されたレアアイテムはスタン効果付きの双剣だって噂が流れてるぜ」
「まじかよ、お前にぴったりの武器じゃん!お前、今回はいったいいくら課金したんだよ」
「ざっと五百万Rだ」
「ひっ!五百万!」
「えっと、精霊石一個が一万Rだから五百万Rで……って俺ばかだから、計算できないわ。結局、どのくらい回せるんだ?」
「百連!?」
と大きく声をあげてしまったのは俺だった。周りに奇異の目で見られたので軽く謝りその場を落ち着かせる。
--しかし百連なんて、すごすぎる。
五百万Rという額を簡単に出せてしまう冒険者を前に俺は驚きを隠せなかった。
そうこうしているうちに列はかなり前に進み、いつのまにか俺の番になっていた。
俺は持っていた《銅の券》を本来は精霊石を入れるための投入口へと差し込んだ。
カチッと音が鳴り、レバーのロックが解除される。
--チャンスはたった一回。
俺は緊張と共にレバーを両手で掴み、回した、そして--
--《召喚魔導機》は唸りを上げた。