第7話 なんでも
俺とフィーは食事を終え、小屋の中に戻ってきていた。
「はー、美味かった!」
「…………」
満足そうに腹を撫でて、綺麗な笑顔のフィー。
ちょっとお腹が膨れているようにも見えるから、たっぷりと食べたのだろう。
対して俺は、両手両膝をついて地面を見ていた。
ほとんど、こいつが喰いやがった……っ!
ありえない……ジャイアント・ボアを怖い思いをしながら仕留めたのは俺だぞ……?
その功労者が、まさかのお肉二きれだと……?
「ふざけんなよ、暴食ロリエルフ!俺の肉を返せ!」
「うぎゃぁぁぁっ!腹摘まむんじゃねぇぇぇっ!!」
「痛いっ!?」
俺がフィーの腹に掴みかかると、フィーは俺の頬をビンタして撃退した。
ちくしょう……頬を赤く染めたからって、ちょっとしかキュンとしないんだからねっ!
俺はひっぱたかれた頬を手で覆い、しくしくと泣く。
そもそも、ジャイアント・ボアだって一晩で全部食い尽くす気なんてなかったんだよ。
何日かに分けていただこうとしていたのに……全部食いやがって……っ!
「今度は俺がジャイアント・ボアを狩ってきてやるから、泣くなって」
しくしくと泣く俺が哀れだったのか、俺の頭を撫でながらそんなことを言ってくるフィー。
そもそもお前が食事に関して自重してくれていれば、俺は泣かずにすんでいたんだよ!
だが、危険な狩りをしてくれるというので、俺の怒りも収まった。
ロリっ子に危険なことをやらせていいのか?いいんです。
「そういえば、お前って何でこの森にいたの?このあたり、全然人が来ないんだけど」
ふと、疑問に思っていたことを口にする。
どうやらこのあたりは危険な森という評判があるようで、人がまったく寄り付かない。
だからこそ、いきなり転移してきた俺が住み着けているわけだけど……。
俺が聞くと、フィーは思い出すように眉を顰めた。
「あー、俺って結構村を抜け出してこの森に狩りにくるんだよ」
「デンジャラスなエルフだな」
「だって、暇なんだもん」
フィーがつまらなさそうに頬を膨らませて言う。
ううん……少し気持ちが分かるから困る。
俺も暇で仕方がなかったから、よくツンイスト領の街に下りていたのだから。
そこで、あの変なローゼと出会ったわけだが……。
「それで、いつものように狩りをしていたんだけど、何故か人間の騎士たちと遭遇したんだよな。俺が何でここにいるのか聞いたら、エルフを捕まえるためとか言うから、戦いになった」
とても正直な騎士たちだな。
しかし、なんていうか……ここが異世界だなって改めて思う。
エルフとか言っている時点で異世界なのだが、フィーの話を聞く限り騎士たちがやろうとしていたことは人さらいだろう。
元の世界でもあったことだが、平和に生きてきた俺には想像もできないようなことだ。
同情とか、されたら嫌な人が多いだろうが、俺も少しフィーに同情を……。
「まあ、人間どもはほとんど斬り殺したからいいんだけど」
……やっぱり、同情とかできない。
フィーさん逞しすぎです。
俺が人殺しすることに関してどう思うかはさておいて、自衛のために殺すのはまあいいのではないだろうか?
捕まっていたら、奴隷とかにされていたかもしれないんだし……。
「……おい、エロい目で俺を見るなよ」
「だから、見てねえし!」
ジト目で身体を隠しながら言ってくるフィー。
ガキンチョに興奮なんてしねえし!
……おっぱいは別だから。
「じゃあ、何でお前手錠とかされてたの?捕まったんじゃねえのか?」
「それが、俺もいまいちわからねえんだよなぁ」
俺が不思議に思って聞くと、フィーも不思議そうに首を傾げていた。
俺がフィーと初めて会った時、こいつは手首に手錠をかけられていた。
「俺が人間たちを圧倒していたし、一回も攻撃を受けていねえんだぜ?なのに、気が付いたら手錠をかけられて連れて行かれていたし……」
うーんと唸っているフィー。
当事者である彼女が分からないのなら、俺なんて分かるはずもない。
まあ、あまり知りたいとも思わないし……。
エルフと人間の生々しい殺し合いを聞かされても困るし……。
とにかく、話題であったどうしてここにいたのかということは聞けたのだし、もういいだろう。
「よし、お前帰れ」
「いきなり!?」
俺の言ったことに驚いた様子を見せるフィー。
いや、だってもう夜だし……。
「もう暗いし、泊めてくれよ!」
「嫌だ」
「何で!?」
「何ででも」
大体、何故フィーと一夜を共にしなければならんのだ。
俺の初めてのお供は、超絶美人なグラマラスな大人って決めてるんだ。
フィーは俺にしがみついてくるが、俺の決意は固い。
「ここから村なんて帰れねえよっ!」
「うっ」
「しかも、ここゲヘルの森だぞ!?帰っている途中で絶対魔物に襲われるし!」
「くっ」
「せっかく面白い玩具を見つけたのに、簡単に手放せるかよ!」
「おい」
次々まくしたててくるフィーの言葉に、俺も言葉が詰まる。
ただし、最後はダメだ。誰が玩具だ。
フィーがうっすらと目に涙を浮かべながら訴えかけてくるので、俺の聖人にも勝るとも劣らない良心がじくじくと痛む。
うぅむ……確かに、この森は魔物が住み着いているので非常に危ない。
そのことを知らなかった転移したての俺は、本当に何度死にかけたかわからない。
攻撃力特化チートだけじゃなくて、全般的なチートが欲しかったです……。
さらに付け加えれば、フィーの実年齢は知らないが見た目はロリの美少女である。
そんな彼女を、暗くて怖い森に放り出すのははたして許されるだろうか……?
「はあ、仕方ない。いいよ、今日は泊まっていけよ」
俺がため息混じりにそう言うと、フィーの顔がパアッと明るくなる。
現金なやつだな。
「助かる!俺、なんでもするからな!」
……ん?
今、とても魅力的な言葉がフィーの口から飛び出したように聞こえた。
俺の視線は、自然と彼女の容姿に集中する。
白髪褐色という、俺の心をくすぐるファンタジー要素。
顔も、快活で元気になるような美少女だ。
身体はちんまりとしているガキンチョだが、押し付けられた胸が意外とあることは知っている。
……ゴクリ。
「エロいことはなしだかんな」
「し、知ってるし!」
俺を呆れたような目で見るフィー。
ちくしょう!どうして考えていることがばれるんだ!
「はあ、仕方ねえなぁ」
俺が先ほど言ったようなことを、フィーが口にする。
その後、ススススッと俺の後ろに回り込んできた。
な、何をする気だ?
無言で背後に回るのはやめろよ。怖いぞ。
「ほれ。触るのはダメだけど、感触だけなら味わわせてやるよ」
そう言って、フィーは俺の背中にギュッと抱き着いてくるのであった。
ふぉぉぉぉぉぉぉっ!!
俺の機嫌が寝るまでよかったことは、言うまでもない。