表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/33

第5話 フィーから見たゴーシ

 









「ゴーシ、早く来いよぉっ」


 フィーが俺の名前を前から呼ぶ。

 散々しつこく名前呼びを強要してくるので、仕方なくフィーと呼ぶことになった。


 まあ、ローゼという前例もあるしな。

 フィーに俺の名前を教えたところ、こいつも少し発音がおかしい。

 異世界人は、皆俺のことをゴーシと呼ぶのだろうか?


「遅ぇなぁ」


 しかし、そのことはどうでもいい。

 問題は、俺より先にどんどん進んでいくフィーである。


「ひぃ、ひぃ……お前、歩くの、速すぎぃ……」

「いや、ゴーシが遅ぇんだよ」


 後ろにいる俺を振り返り、呆れた表情を見てくるフィー。

 む、ムカつきますねぇ。


 だが、彼女より俺の体力が劣っていることは事実なので、文句が言えない。

 というか、こいつの体力がありえないくらい多いのだ。


 歩きなれている森なのに、こいつの歩くペースが速すぎて息切れしてしまう。

 まあ、それは俺が引っ張っているものにも原因があるのだが……。


「まあ、俺は森の妖精って言われるエルフ種だからなぁ」

「妖精……ぷふっ。笑わせるなよ」

「あ?」


 ボソリと小さく呟いたが、フィーには聞かれていたようだ。

 凄くドスの利いた声で……怖いです……。


 とはいえ、フィーの容姿が可愛いことは認めている。

 俺の想像する慈愛に満ちた妖精というイメージではないが、悪戯妖精というイメージならぴったりだ。

 ただ、俺に対する当たりをもっと柔らかくして、もうちょい成長したら完璧なんだけどなぁ。


「じゃあ、妖精さん。これ、運ぶの手伝ってくれよ」


 俺がそう言って指さしたのは、俺が引っ張り続けていたジャイアント・ボアである。

 攻撃力特化チートで倒して、今日の晩御飯の予定である。

 だが、妖精さん(自称)は首を横に振る。


「いや、無理。俺、そんなに力ねえもん。というか、何キロあるかもわからねえそんなデカいやつを引っ張れているお前がすげえよ」


 褒められてちょっと嬉しい俺。

 俺の攻撃力特化チートは、殴ったり蹴ったりする際に必要な筋力も大幅にアップさせてくれている。


 だから、こんなデカいイノシシを引っ張っていられるのだ。

 チートがなかったら絶対に動かせないもんね。


「ひい、ひい……!」


 まあ、俺のチートは攻撃力だけに特化しているから、体力とかは全然向上していない。

 森暮らしで少しは体力が向上したと思うが、息切れは早い。

 フィーの助力も得られないことが分かったので、また悲鳴を上げながらジャイアント・ボアを引きずり始める。


「お、小屋があった。これがゴーシの家か?」

「お、おぉ……」


 ようやく、俺が苦行から解放されるときが来た。

 先導していたフィーが、俺が住み着いている小屋を見つけたようだ。


 しばらくすると、俺の目にも小屋が入ってきた。

 つ、着いた……。


「はー、疲れた。ゆっくりしよっと」

「おー」


 いや、お前は疲れてねえだろ。

 そんなからかうことをするのも面倒なくらい疲れていたので、黙って小屋の中に入る。


 この小屋は、俺が転移してきた場所から近くにあったため、ずっと借りているところだ。

 本当にありがたかったな……。


 魔物からの襲撃に怯える必要もなかったし……。

 フィーもひょっこりと顔をのぞかせて部屋を確認すると、トテテっと入ってきた。


「変なことするなよなー」

「馬鹿、ガキンチョに欲情するかよ」

「だから、ガキじゃねえって!」


 からかってきたので、逆にからかってやる。

 フィーの反応は面白い。

 もっとフィーで遊びたくなるのだが、いかんせん眠くて仕方がない。


「ふわぁ……眠いから、俺寝るわ。そこらへんに採ってきた果物とか置いてあるから、適当に食べてていいぞ」

「マジか!?よっしゃぁ!」


 騒がしいフィーも、食べ物を食べているときは大人しくなるだろう。

 貴重な食糧だから少し嫌だが、今はゆっくりと眠るためだ。仕方ない。


 フィーがシャクシャクと果物を齧る音を聞きながら、俺は眠りにつくのであった。

 あー……久しぶりに楽しかったなぁ……。












 ◆



「お、寝たのか」


 フィーは果物を齧りながら、小さく寝息を立てている男を見た。

 自分はこの男、ゴーシに助けられた。


 人間たちに連れて行かれる時に、魔物に襲われて自分まで危ない状態に陥ってしまった。

 本来であれば、ジャイアント・ボアくらい簡単に倒せてしまう。


 しかし、あの時は手錠をかけられており、さらに魔力を抑え込む力もあったのか、戦うすべがなかった。

 おそらく、あのままだったら逃げるしかなかっただろう。


 まあ、脚に自信のあるフィーなら逃げ切れた可能性が高いが。

 だが、自分は普通の人間に助けられて、今はその男の家にまでお邪魔している。


「俺のことを馬鹿にする、ムカつくやつだけどな」


 フィーは自分のことをガキンチョと言ってからかうゴーシを睨みつける。

 ただ、その睨み方は可愛らしい子供のようだった。


 助けに来てくれたのかと思えば、勝手にフェードアウトしようとするゴーシ。

 見捨てられるのもムカつくので、彼にへばりついて逃げられないようにした。

 一度は助けに来たのだから、ジャイアント・ボアを倒すくらいの力はあると思ったからだ。


「でも、あんなに強いとは思わなかったぜ」


 フィーは、ゴーシがジャイアント・ボアを吹き飛ばしたことを思い出す。

 あの魔物の攻略法としては、突進を避けてから側面や背後から攻撃を仕掛けて倒すのが常識である。


 しかし、ゴーシは正面から殴りかかり、あまつさえ力勝負で打ち勝ってしまったのだ。

 逃げないゴーシの前に立って、自分の身体でもって少しでも衝撃を和らげようとした自分が馬鹿みたいではないか。


「こんなにひょろいくせに……どこにあんな力があるんだ……?」


 果物を食べることを中断し、眠っているゴーシの近くにまでいく。

 じーっと彼の身体を見ると、とてもじゃないがジャイアント・ボアを吹き飛ばすほどの力があるとは思えない。


 むしろ、少し細いと思うくらいの体格だ。

 だが、ゴーシがかなりの重量を持つジャイアント・ボアを吹き飛ばしたことは事実である。

 フィーはその目で、しっかりと見ていたのだから。


「……面白ぇ奴」


 フィーはニヤリと笑って、ゴーシを見る。

 エルフの村では、面白いことはなかった。


 エルフ種に中でもまれに現れるダークエルフであるフィーは、決して対等に扱われたことはなかった。

 変異種であるダークエルフは、他の一般的なエルフたちから崇められる存在だからである。


 さらに言えば、エルフの前族長の娘であることも、腫れ者扱いの大きな要因であった。

 エルフの村にいて面白かったのは、側近として自分につけられたアルトをからかったりしていたときだけである。


 それでも、さらに面白いことを求めてよく村の外に魔物狩りをしに行っていた。

 まあ、その趣味のせいで人間たちに捕まったわけだが。


 今では、アルトが血眼になって自分を探しているだろう。

 本当なら、今すぐ村に戻った方がいいのだが……。


「こんな面白ぇ奴、簡単に手放せられるかよ」


 すやすやと気持ちよさそうに眠っているゴーシを見て、ニヤリと笑う。

 そうだ、アルト以来久しぶりに見つけた面白い男なのだ。

 エルフ種は他種族を見下す傾向があるが、フィーは面白い奴なら他種族でもいいと思っていた。


「俺が飽きるまで逃がさねえからな、ゴーシ」

「うぅん……」


 恐ろしいことを眠るゴーシに向かって言うフィー。

 何かを感じ取ったのか、すやすやと穏やかに眠っていた彼の顔が険しくなる。


 ゴーシは声音で何か不穏なものを感じたのだが、もし目を開けていたらそんな顔にはならなかっただろう。

 フィーはとても嬉しそうに笑っていたのだから。


「さあて、果物を食べよっと。これ、美味いよなぁ。どこに生っているんだろ?」


 そう言って、フィーはムシャムシャと貯蓄されてあった果物を食べ始めるのであった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ