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第4話 じゃれ合い

 









「ジャイアント・ボアを殴り飛ばすって……お前、化け物か?」


 地面に座り込んでいる俺に、ガキンチョが見下ろしながら言ってくる。

 こ、こいつ……俺にへばりついて逃がさないようにしたくせに……!

 もし、ジャイアント・ボアが突進してきたときに俺をかばう仕草を見せなかったら、チートアタックをくらわせていたところだ。


「誰が化け物だ。テメエが俺に引っ付くから、火事場の馬鹿力を発揮するしかなかったんだよ」

「そうかよ。……で、でも、助けてくれて……ありがとぅ……」


 最後の方、声が異常なまで小さくなっていたが、俺の優れた耳はそれを全部聞いていた。

 都合のいいことには耳がよくなると俺の中で評判の耳だ。


 おいおい、殊勝な態度じゃないか。

 俺はついついニヤニヤとしてしまう。


「ううん?聞こえなかったなあ、もっと大きい声で言ってくれたまえよ」

「~~~~ッ!!うっぜっ!お前うっぜぇわ!」


 俺がからかうと、ガキンチョはベチベチと俺の脚を蹴ってくるのであった。

 痛ぇ!やめろ!

 俺は攻撃力だけがチートなんだよ!防御力はそこらの人と大して変わらねえんだぞ!


「で、お前どこの人よ?暇だし、送ってくださいお願いしますって言うんだったら送っていってやってもいいぞ」

「ぜってぇ言わねえ」


 俺もそう言うと思って言いました。

 というのも、俺はこいつを送っていくつもりが毛頭ないからである。


 別に、このガキンチョが嫌いだからというわけではない。

 問題は、こいつと俺の種族の違いがあった。


「…………」


 俺は、改めてガキンチョの容姿を見てみる。

 真っ白な髪は肩ほどで切りそろえられていて、髪の色は違うがどこかローゼと似ている気がした。


 だが、彼女の髪と比べるとガキンチョの髪はぼさぼさである。

 肌は健康的に焼けた褐色肌。


 目は気が強そうに吊り上っている。

 顔は可愛らしく整っているが、男っぽい話し方と俺に対する敬意がまったく足りないことからダメである。


 後者の方が影響力は強いぞ。前者は人によっては好印象だからな。

 衣服に包まれた身体は、先ほど密着された時に意外と柔らかいことを知っている。


「なに、ジロジロ見てんだよ。変態」

「ち、ちげえし。そういう意味で見てたんじゃねえし」


 ジトッとした目で見られて、俺はタジタジになって答える。

 やめろ。腕で身体を隠そうとする仕草はやめろ。


 俺が一番見たかったのは、ガキンチョの身体ではない。

 ガキンチョの、耳だ。


 その耳は長く、尖っている。

 特徴的なその耳は、人間のものではなくエルフ種のものである。


 エルフ種は人間たちの街から離れた森などに村を作り、集合して暮らしている。

 そこには、人間はもちろんエルフ以外の他種族が入ることはできない……と、ツンイスト領の街にあった本屋で立ち読みして知っていた。


 つまり、俺が親切心でガキンチョを送ったところで、俺は攻撃される可能性すらあるということだ。

 いやー、暇な時に本を読んでいてよかったわ。

 店員さんにクソ客を見る目で見られていたけど、我慢して良かった。


「うーん……今、俺帰る場所がねえんだよなぁ」

「…………」


 こ、これは何か面倒事が起きそうな予感……っ!

 面白いことは好きだが、面倒事は嫌いである。


「じゃあ、そう言うことで」

「待てよ」


 ジャイアント・ボアの突進の時のように、手を上げて華麗に去ろうとする俺。

 そんな俺の手を握って離そうとしないガキンチョ。

 くっ、手錠で縛られているくせに器用なことを……っ!


「とりあえず、この手錠だけ壊してくれよ」

「それ壊したら、俺のこと解放してくれる?」

「いいから」


 ニコッと笑いながらズイズイ手首を差し出してくるガキンチョ。

 こいつ、俺の話を全然聞く気がないな。


 手錠をつけさせたままこの森に放置したいのに、手を離してくれないからできそうにもない。

 というか、こいつ力強くない?


 ガキとは思えねえんだけど……。

 確か、エルフ種って人間とは比べものにならないくらい長寿って書いてあったな……。

 なるほど、こいつもババアか。


「ほれ」

「おぉっ!やっと鬱陶しいのが外れた!というか、デコピンで壊せるとか、お前やっぱり化け物だろ」


 絶対に離そうとしないので、仕方なく手錠を壊してやった。

 ……というのに、何で罵倒されなきゃいかんのだ!

 まあ、いいか。相手はエルフだ。二度と会うことはないだろう。


「これでいいだろ?じゃ、今度こそお別れだ。じゃあな」


 そう言って去ろうとする俺。

 色々とムカつくガキンチョだったが、面白い奴だった。


 ローゼが言い残した言葉も、あながち間違ってはいないのかもしれない。

 そう、そんないい気分なのだ。

 だから、ガキンチョ―――――。


「俺の手を離せや」

「やだ。俺を連れて行けよ」


 俺の手を掴んで離さないガキンチョ。

 いやー!離してー!

 何で俺が子供を自分の家に連れ込まないといけないんだよ!事案じゃねえか!


「ガキンチョを俺の家に連れ込む趣味はねえんだよ!家に帰れやマセガキ!」

「今、帰れねえって言っただろうが!あと、俺はエルフ種だからテメエより年上だ!ガキンチョって言うな!」

「うるせえ!見た目が全てだ!」


 ギャアギャアと大声で怒鳴り合う俺とガキンチョ。

 この森は魔物も結構な数住み着いているので、こうして大声を出すのはあまりいいとは言えない。


 でも、このガキンチョムカつくんだもの!

 お前はガキンチョで十分だ!


「俺の名前はフィー・ダケルハイトだ!ちゃんと名前で呼べ!」

「嫌だねー。お前はガキンチョー」

「むっかぁっ!」


 ベロベロバーと低レベルな挑発を仕掛ける俺。

 ガキンチョがどれほど生きているかは知らないが、精神的にはまだまだ子供だな。


 俺の挑発にあっさりとのってくる。

 ……しかし、そんな子供と本気で口げんかしている俺のレベルってどうなんだろう?


「俺の胸の感触でニヤついていたくせにっ!」

「に、にににニヤついてなんていねえしっ!」


 こいつ、言ってはならないことを……!

 おまわりさん、俺は無実です!


 俺の焦り様を見て、ガキンチョはニヤリと笑う。

 いい攻撃手段だと思ったのだろ?正解だ。


「おいおい、お前はガキンチョに胸押し付けられて興奮するのかよ。変態だな」

「興奮してねえし!」

「いいって。認めろよ。俺をちゃんと名前で呼べば、ガキンチョに興奮した最低な男ってことにはならねえぞ?」


 俺の気分は、まるで尋問されている被疑者のよう。

 ガキンチョが落としのプロである名刑事に見えて仕方がない。

 かつ丼……食べたいです……。


「だ、ダケルハイトさんは……素敵な大人です……」

「んん~?もっと大きな声で言ってくれないと聞こえないなぁ」


 俺がとうとう屈してしまい、その言葉を口にしてしまった。

 だが、ガキンチョ……いや、フィー・ダケルハイトはニヤニヤと意地悪そうに笑って聞き返してきやがった。


 この野郎、俺がしたことをそのまんま返してきやがった……っ!

 俺も蹴ってやろうか!おお!?


 だが、攻撃力チートの俺がダケルハイトを蹴り飛ばしたらとんでもないことになることは自明の理。

 大人でありスマートな俺は、ふっと笑って矛を収めるのであった。


「ダケルハイトさんは素敵な大人です!」

「おう!最初からそう言えばよかったんだよ」


 くそぉぉっ!いつか絶対にやり返してやるぅぅっ!

 ふふんと得意げな顔で俺を見下ろすダケルハイトを見て、そう決意するのであった。


「あ、俺のことは名前でいいぞ」

「わかった、ダケルハイト」

「テメエ!何も分かってねえじゃねえか!」




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