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第17話 重たいメイド

 









「まあ、私は見た通り豊満な身体ですから、その分でしょう」


 そう言って、俺に持ち上げられながら両腕を頭の後ろに回してポーズを決めるメイド。

 ほ、豊満……?


 俺はゴクリと喉を鳴らして彼女の身体を見た。

 なるほど、メイド服に覆われている胸部は、なかなか……というよりかなりの戦力をお持ちのようだ。


 アルトはもちろん、フィーよりも大きいだろう。

 ……興奮する。


 絶対に身体の重さだけではないが、もうどうでもよかった。

 豊満な美女を持ち上げているというだけで、俺は満足である。


「ふんぐぉっ!高いたかーい!」

「わぁ」


 俺はチートをフル活用してメイドを空に投げた。

 フィーより全然上がっていないが、メイドは楽しそうである。棒読みだけど。


 そして、落ちてきたメイドを受け止める。

 ぐぅあっ!?じゅ、重力の力でさらに重さが……っ!


「ふぅ、満足……か……?」

「…………」


 俺が汗をぬぐいながら聞くと、メイドは無言で見つめてくる。

 感情を一切表していない無の表情だが、目はキラキラと輝いて俺を見ていた。

 なるほど……。


「高いたかーい!」

「おぉ」

「高いたかーい!」

「ふっ」

「高い……たかーい……」

「むふっ」


 俺が放り投げるたびに、変な声を出すメイド。

 何度も投げているうちに、俺の腕がプルプルと震えてきた。


 ば、馬鹿な……チートの筋力が敗北……だと……?

 あぁぁっ!誰か助けてぇぇっ!


 フィーは未だに地面に顔をめり込ませたままだし、アルトは換金所から出てこない。

 ちっ、役立たずエルフ共め!


「終わりましたよ……って何をしているんですか」

「アルトっ!」


 ようやく、換金所からアルトが出てきた。

 遅ぇよ!でも、ありがとう!

 俺は落ちてきたメイドを掴み、地面に下ろす。


「はぁ、はぁ……つ、連れが戻ってきたら、ここまでな……」

「むっ、お代わりを要求します」

「ありません」


 へいへいと手を差し出してくるメイド。

 いくら美女に弱い俺でも、流石に無理である。

 キツイ……。


「フィー様は何で地面にめり込んでいらっしゃるのですか?」

「知らねえ。はしゃいでいたし、その結果だろ」

「テメエのせいだろうがぁっ!!」


 アルトに聞かれたので適当に答えると、フィーが掴みかかってきた。

 ちっ!まだそんな元気が残っていたか!


 俺とフィーは掴み合いになり、激しい攻防戦を繰り広げる。

 流石は戦闘狂。身のこなしは大したものである。


「止めなさい!目立つでしょう!」

『あ、はい』


 そんな俺たちに、アルトの怒声が飛ぶ。

 その瞬間、俺たちはシュンと大人しくなる。


 フィーの場合は小さいころから一緒にいて、何度も怒られているから条件反射のようになっているのだろう。

 俺の場合は―――――。


「はい、聞き分けがよくてよろしいです」


 アルトはニコッと綺麗に笑って、俺の頭を撫でてくる。

 あぁ……ダメになりそう……。


 転移してから頼れる人が誰一人いなかったため、俺はとても甘えたい。

 もう、何もしなくても何でもしれくれる人が側にいてほしいレベルである。


 その候補が、アルトであった。

 なかなか俺の甘やかしポイントを心得ている。

 まあ、ヒモになることは絶対に許さない教育ママ的な感じだが。


「で、この方はどちら様ですか?」


 アルトは俺たちに向かって聞く。

 すぐそばには、メイドが無表情で立っていた。


 ……いや、醸し出す雰囲気的にまた高い高いをしろと要求している気がする。

 だって、俺のことめっちゃ見ているし。

 ええい!しんどいから嫌だ!


「知らね。俺が倒れている間に来ていたし」


 フィーはそう言って首を横に振る。

 彼女は滑稽にも地面に顔をめり込ませていたし、知らないのも無理はない。

 じゃあ……といった顔で俺を見てくるアルト。


「知らね」

「どうしてですか!?」


 俺の言葉に目を見開くアルト。

 いや、だって……急に出てきて高い高いを要求してきたんだもの。


 自己紹介とかしている暇なんてなかった。

 というか、今ここにいるんだから聞いてみればいいんだ。


「お前、誰だっけ?」

「直球だな」


 俺の質問に、何故かフィーが答える。

 いや、ロリはいいから黙ってろよ。


「これは失礼。あなた様方がとても楽しそうなことをしていたので、ついつい混ざってしまいました」


 無表情でそう言い切るメイド。

 俺は改めて彼女を見ることにした。


 髪はフィーと同じく黒で、しかし彼女よりも断然長い。

 後ろで一本の三つ編みにし、背中に垂らしている。


 表情は一切変わらない無表情であり、顔の造形も整っているので、まるで人形のようだ。

 しかし、やはり特徴的なのはその真っ赤な瞳と青白い肌である。


 まるで、人間ではないみたいだ。

 ファンタジー要素で溢れた異世界なので、人外ということも有り得るだろう。


 どんな種族かはわからないが。

 服装はメイド服で、ロングスカートのものであった。

 ミニスカメイドも好きだが、ロングもまたいいものである。


「おっと、あまりに楽しかったので、時間のことを忘れていました。早くお買い物をしないと、お嬢様に怒られちゃいます」


 無表情で言っているので、本当にそう思っているのかさっぱりわからない。

 まあ、俺たちはこれからツンイスト領の領主に喧嘩を売りに行くのだ。

 このメイドが離れてくれるというのなら、好都合だろう。


「それでは、失礼します。また、お会いしましょう」


 そう言って、ペコリと綺麗にお辞儀をするメイド。

 このまま帰っちゃう系ですか?

 まだ、自己紹介してもらってないんですけど……。


「高い高い、楽しみにしております」


 しかし、メイドは俺をチラリと見て言う。

 もう嫌だよ。お前、重たいんだよ。


 そう言おうとした俺だったが、メイドはすでに背中を向けて歩き出していた。

 すでに、その背中は遠くのものとなっている。


「何だったんだ、あいつ?」


 フィーは首を傾げて彼女の背中を見ていた。

 俺も聞いてみたいわ。何でそんなに体重が重たいのですかって。


「あの青白い肌に、真紅の瞳。まさか……」


 アルトはぼそぼそと一人で呟いていた。

 何か、心当たりがありそうな感じだ。


「アルトはあいつのこと知っているのか?」

「おそらくは……という感じですね。まあ、今回のことには関係のない人だと思います」


 ふーん……まあ、俺もメイドの種族とかはどうでもいいので、これ以上聞こうとは思わなかった。

 あのメイド、凄い美人だったからなぁ。


 胸も大きいみたいだったし……。

 本当、あの異常なまでの体重の重ささえなければ、いくらでも高い高いをしてやるのだが。

 俺はそう思って、ため息をつくのであった。





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