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第15話 へそくりと対価

 









「こ、これは……金貨っ!?」


 アルトは目をひん剥いて驚いている。

 対して俺は、四つん這いになって地面を見る。


 あぁぁ……俺のへそくりがぁ……。

 ジャラジャラとテーブルに落ちていく金貨。その数は、かなりのものであった。


「ご、ゴーシさん。これ、どうしたんですか?まさか……」

「いや、アルトが思っていそうなことはしてねえぞ」


 最初は唖然とした様子で俺を見て、後半何かを予想して俺をうわー……みたいな目で見てくるアルト。

 なので、俺はすぐに否定した。

 別に、俺が窃盗やら強盗やらをして稼いだ金貨ではない。


「ゲヘルの森の奥に洞窟があってな。そこに住み着いているエデルメテルゴリラを倒したら、金貨とかくれるんだよ」


 アルトの顔はドキドキと何かを期待しているようなものだったが、俺の言葉を聞いてシュンと大人しくなる。

 まあ、ゲヘルの森の奥とか、エデルメテルゴリラとか聞いたらそうなるだろう。


 どう考えても、命がいくつあっても足りないからな。

 俺だって、好きでしているわけではない。

 そもそも、森の奥になんて一度しか行ったことがないのだから。


「エデルメテルゴリラってこの森にいるのか!?よっしゃ、行くぞゴーシ!」

「嫌だよ、馬鹿」


 戦闘狂(ばか)が嬉々として小屋を飛び出そうとするので、ほっぺをぐにぐにして止める。

 この戦闘狂(ばか)が戦いたがるほど、エデルメテルゴリラは知る人ぞ知る強い魔物である。


「ご、ゴーシさんは、エデルメテルゴリラを倒したんですか……?」

「ああ、うん……」


 アルトは信じられないといった様子で俺を見る。

 ……俺だって、まさかあんな化け物と戦う羽目になるとは思わなかった。


 あぁ……今思い出しても、よく死ななかったなと思う。

 当時は転移してすぐのことだったので、エデルメテルゴリラのことは何も知らなかったのだが、後々書店で調べて驚いたものだ。


 それと同時に、納得もした。

 エデルメテルゴリラは、猛烈な強さを誇る魔物ばかりが住み着いているというこのゲヘルの森の中でも、トップクラスの強さと凶悪さを持つと言われている魔物らしい。


 彼らは強靭な身体能力で、ベテランの冒険者や騎士たちですらも殴り殺してしまう。

 さらに、彼らは貴金属を好む傾向があり、何よりもそれを守ろうとする。


 その噂をフィーやアルトも知っているのだろう。

 だからこそ、フィーは『俺とも戦えよ』みたいな恐ろしい目で見てくるし、アルトは化け物を見るような目で見てくるのだ。

 もう、二人とも出て行けよ。


「戦って打ち負かすだけでも驚くべきことですが、金貨を自ら渡すなんてこと……信じられません」


 まだ、アルトは驚いている。


「ゴーシはそいつを殺したのか?」

「いや、無理」


 フィーの質問に、俺は即答した。

 攻撃力特化チートがあっても、俺にそんな余裕はなかった。

 とにかく、あいつとの戦いは本当に切羽詰るので嫌いである。


「でも、あいつ時々この小屋に来るんだよな……。また、戦おうとか言って……」

「マジで!?」


 俺は物凄い負のオーラを出していることだろう。

 本当に、嫌なのだ。


 あのクソゴリラ、時々俺の小屋までやってきて戦おうとかふざけたことを抜かすのだ。

 いや、もちろん人間の言葉は話していないのだが、俺には分かる。

 あいつは、フィーと同じような戦闘狂だ。


「じゃあ、ゴーシと一緒にいたらいつか戦えるってことだな。よろしく」


 そんなふざけたことを言ってくるフィー。

 くそぅ……何で俺がこんな目に……。


「あの……元気を出してください」


 そんな俺に、アルトが近寄ってきて頭を撫でてくれる。

 アルトが心配するほど、今の俺は酷い顔をしているのだろう。


 そりゃそうだ。あんなクソ強いゴリラが殴り合いをしようなんて何度も近寄ってくるんだ。

 俺じゃなかったら精神をやられているんじゃね?


「フィー様もやる気満々ですし、いざというときはエデルメテルゴリラとフィー様が戦えばいいじゃないですか」

「アルト……」


 アルトはそう言って、ニッコリと笑う。

 ……天使や。

 そうだ。目には目を、歯には歯を、戦闘狂には戦闘狂だ。


「アルトぉぉぉっ!」

「はいはい、よく頑張りましたね」


 俺が彼女にガバッと抱き着くと、嫌がることなく受け止めてくれた。

 あぁっ!気持ちを理解してくれる美女って最高!


 でも、顔に当たるのはほんの少しの柔らかさと、ゴリゴリと骨が当たる固さであった。

 これはこれで……いい……!


「アルトに何してんだテメエ!」

「ぐぁっ!」


 おーいおいおいおいと、途中から嘘泣きになってアルトの胸の感触を楽しんでいた俺は、フィーに脛を蹴られて仕方なく離れる。

 ふーふーとまるで警戒する猫のように俺を睨みつけてくるフィー。

 何だったら、君の胸で泣かせてくれてもいいのよ……?


「この変態野郎!アルトが嫌がっているだろ!?」

「うぅ……酷い……」

「いいんですよ、フィー様。ゴーシさんのことは何とも思っていませんし、胸くらい貸します」


 ……何とも思ってないというのも酷いと思うんだけど。

 まあ、負の感情を持たれていなくてよかったと言うべきか。


 そもそも、会って一日も経っていないし。

 ……好感度上げればもっと甘えられる可能性が存在している?


 というより、フィーのアルト大好きっぷりが凄い。

 顔を真っ赤にして、俺を睨みつけている。

 そんなにアルトが俺に抱き着かれていたのが嫌だったのか……。


「それに、ゴーシさんからこの金貨をいただくんです。胸を貸すくらい、安いものですよ」

「は?あげねえよ。いきなり何言ってんだ、馬鹿」


 条件反射であった。

 俺の超狭い心がアルトの言葉をすぐさま拒絶。言葉にしてしまったのであった。


 しかし、脳内議会でもこの考えが事後採択されるのであった。

 俺の金は、俺だけのものだ。


「…………」


 そんな俺の言葉にピシリと固まるアルト。

 こ、怖い……。眼鏡が光っている……。


 しかし、俺は自分の考えを一切変えるつもりはなかった。

 そんな俺を見て、フィーがニヤリと小悪魔的に笑う。

 そして、自分の意外に大きな胸を手に乗せて、ポヨポヨと揺らす。


「ほれほれ~。金貨くれるんだったら、俺のおっぱいに顔を埋めても―――――」

「あげます!!」

「―――――まだ最後まで言ってねえだろうがぁっ!!」


 俺はジャンプしてフィーの胸に飛び込んだ。

 こ、これは……!?


 アルトの慎ましすぎる柔らかさと骨のゴリゴリとはまた別の感触だ。

 や、柔らかい……。


 小柄な身体に不釣り合いなほど、しっかりと実った二つの果実は俺の顔を優しく包み込んでくれた。

 ……ありだな。


「長ぇよ!!」

「うひぃっ!?」


 その後、我慢できなくなったフィーに、ビンタで思い切り吹き飛ばされるのであった。

 顔を真っ赤にし、うっすらと涙を浮かべていたフィーもありだと思いました。





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